「株は5月に売れ」 投資賢者が見抜く真意

「株は5月に売れ」 投資賢者が見抜く真意
投資教育アドバイザー 大江英樹


 「月曜日の株安」「節分天井、彼岸底」……。株式市場では確たる裏付けがないのによく起きる現象があります。いわゆる「アノマリー」のことで、日本経済新聞では「理論的な根拠のない経験則」などと訳しています。資本金の小さい株が市場平均より高い収益率をもたらす傾向を「小型株効果」と呼ぶのもその一つといえるでしょう。
とはいえ、アノマリーにはまったく根拠がないというわけでもありません。例えば冒頭で挙げた「節分天井、彼岸底」は2月初めに高値をつけて下落し、3月末に底値をつけることを指しますが、これは3月期決算の企業が多い日本では年度末を控えて株の売りが増えるためと考えられます。
 この時期よく話題に上るアノマリーが「Sell in May, and go away(5月に売り逃げろ)」です。もともと米国で言われ始め、5月が決算期のヘッジファンドが多いからとか、5~6月は原油の需要が減るからといった様々な説があるようです。
 日本でも「鯉のぼりの季節が過ぎたら株は売り」という相場格言があります。実際に検証してみると5月ごろに高値をつけて下落し、秋まで相場低迷が続くという現象がしばしばみられるそうです。2013年の日経平均株価がまさにそうでした。5月22日に1万5627円の高値をつけた翌日に急落し、その後の1カ月で3000円近く下げています。
 「理論的な根拠がない」とされるアノマリーですが、私は大半が行動経済学の観点で説明できると考えています。そのカギは、多くの人が特定の情報や知見に基づき、同じような行動をすることによって起きる「同調伝達」という現象です。
 株価の動きは常に不確実です。どうなるか分からないという不安な状況に陥ったとき、人はどういう行動をとるかというと、まず「ほかの人はどうしているのだろう」と考えます。みんながそう思って同じような行動をとると、マーケットはその方向に動いていきます。

 ところが、4月8日付「株高の常套句 『持たざるリスク』は大きなお世話」でも指摘したように、株式投資というのは本来、みんなと逆の行動をとらないとなかなかもうからないものです。同調伝達によって起こりがちなアノマリーが知られているからこそ、そうならないようにしましょうという教訓として「Sell in May」が言い継がれてきたのでしょう。

 また「晴れの日には株が上がり、雨の日は下がる」という冗談のようなアノマリーもありますが、これも実際に統計を取ってみると案外当てはまるそうです。やはり天気がいい日は気分も高揚し、積極的な投資行動に出るのかもしれません。

 株式市場は多くの人が参加して成り立っているだけに、人間の考えや感情によって相場の動きが左右されるのは当然です。アノマリーは必ずその通りになるとは言えない半面、あながちまったくの迷信や妄言と言い切れないのも、こうした感情や心理が背景にあるからだと考えられます。

 チャートを見て相場の先行きを予想するテクニカル分析は「人間の心理はいつの時代も変わらない」という前提に立っています。過去のトレンドをよりどころにするのはこれまで人々がどうやって考え、行動してきたかを検証することであり、それは将来にも当てはまるという見方です。私はこれにも一理あるとは思いますが、やはり株式投資の王道は企業価値を買うことですから、あくまでも短期的な動きを読む場合の参考にとどめておくのが賢明です。

 ところで「Sell in May」には続きがあります。「But remember to come back in September(9月に戻ってくることを忘れるな)」です。9~10月には相場が底入れして上昇に転じるから、そこで再び投資しなさいというわけです。今年の5月と9月はこのアノマリーを信じて行動するか、それともあえて逆に動くべきか。昨年と違って今年は4月前半が株安だっただけに投資家の判断は分かれそうです。