ミセス・ワタナベ活発 FX取引高、初の5000兆円超え

ミセス・ワタナベ活発 FX取引高、初の5000兆円超え
昨年度、リスク管理課題に

2016/5/7付
日本経済新聞 朝刊

 個人投資家が少ない手元資金で多額の外貨を売買できる外国為替証拠金(FX)取引が活況だ。2015年度の取引金額は初めて5000兆円を超え、4年連続で過去最高を更新した。円相場の変動が大きくなり、為替差益をねらう「ミセス・ワタナベ」が取引を増やしている。
 ただ、年初からの円高の流れに乗りきれず損失を抱えた個人も多いとみられる。今後も円高を見込んだ取引が増える可能性があり、リスク管理も課題になる。

 金融先物取引業協会によると、15年度のFX取引金額は5524兆円と14年度から18%増えた。「ドル・円」取引だけで全体の6割を占めており、オーストラリアドルやユーロの取引も増えた。FX取引は少額の元手をてこ(レバレッジ)のようにして多額の外貨を売買できるのが特徴。投資家は各国の金利差や通貨の値動きから利益を得る。

 個人のFX取引はすでに輸出企業などの売買高を上回っており、世界のFX市場に占める日本の割合は3割ほどとされる。外貨投資を活発に繰り返す日本の個人投資家は世界でも「ミセス・ワタナベ」として知られており、相場への影響を無視できない存在だ。
 取引手法も多様化している。かつては日米などの金利差で収益を得るため、円を売って外貨を買う取引が主流だった。リーマン危機以降に世界的に低金利が広がったことで、こうした取引の妙味は薄れてきた。
 ここへきて金利ではなく、値動きそのものに着目した個人が増え、円高の流れに乗って円買い・外貨売りで利益を狙う投資家も増えている。
 3日の外国為替市場で円相場は一時1ドル=105円台と約1年半ぶりの高値まで上昇した。「まだ円高が進むとの見方から、個人の円買いが活発だ」(外為どっとコム総合研究所の神田卓也調査部長)という。
 個人の円売りが盛り上がらず、円高を食い止める力も弱まっているとの見方が多い。円相場が1日で3円ほど上昇した4月末の局面では積極的に円買いをしていた個人も多く、円高圧力を増幅させたもようだ。
 株式投資とは異なりFXは24時間取引が可能。スマートフォンスマホ)の普及でサラリーマンなどが帰宅後の日本時間の深夜に取引するケースも多い。南アフリカランドトルコリラを取り扱う業者も登場した。
 FX取引は1998年の外為法改正で解禁されたが、当時は規制が緩く一部で顧客の資産を流用するなどの悪徳業者が横行。社会問題化し、投資家が離れていった。
 FX業界は10年、投機性を抑えるため証拠金の倍率を下げるレバレッジ規制を導入。相場の急変動で損失が増えるのを防ぐため、一定の相場水準で強制的に損切りさせる仕組みを導入した。
 今後は一時的に取引が縮小する可能性も。個人取引のレバレッジは11年の規制で上限25倍となったが、法人格を取得すれば上限がない。「個人が法人になりすまして取引している場合もある」(FX関係者)ため、金融庁は17年にも法人を対象に倍率規制を導入する方針だ。