6月はなぜ「水の無い月」と書くのか

6月はなぜ「水の無い月」と書くのか

チャレンジことばのドリル第26回

2016/6/8
 今回は6月の異称「水無月(みなづき)」に関する問題を用意しました。雨の季節なのに、なぜ「水の無い月」と書くのでしょうか。このほか、「富士山」の呼び名を尋ねるものなどを盛り込みました。ちょっとした話のタネに、ぜひチャレンジしてください。

【問1】読み方が正しいものはどれですか。
1)合算(ごうさん) 2)逆鱗(ぎゃくりん) 3)吹聴(ふいちょう) 4)釣果(つりか) 

【問2】太字部分の「タイショウ」に、「貸借タイショウ表」の「タイショウ」と同じ漢字を使うものはどれですか。
1)左右タイショウのデザイン
2)原文と翻訳をタイショウする
3)ビジネスマンをタイショウとした英語講座
4)タイショウ療法では少子高齢化問題は解決しない

【問3】新字体旧字体の組み合わせが誤っているものはどれですか。
1)体―體 2)塩―鹽 3)沢―澤 4)斉―斎

【問4】とんちをきかせて答えてください。次のうち「一」であるものはどれですか。
1)六 2)七 3)八 4)九

【問5】送り仮名が正しいものはどれですか。
1)恐しい 2)煩しい 3)恥かしい 4)紛らわしい

【問6】6月は「水無月(みなづき)」とも呼ばれます。雨が多い季節なのになぜか「水の無い月」と書きます。「みなづき」の語源には諸説あり、次に主なものを挙げました。このうち、辞書などに載っておらず根拠がないものはどれですか。

1)もとは「水名月(みなづき)」だったが、雨が多いことを忌み嫌って「名」が「無」に置き換わり、いつしか「水無月」が定着した。

2)「みなづき」の「な」は現代語の「の」と同じで、「水の月」「田に水を引く月」を意味する。「無」は「ない」の意味から意識された当て字。

3)旧暦の6月は新暦では7月上旬から8月上旬ごろにあたり、夏の暑い時期で水がかれることから「水無月」となった。

4)昔は田植えなどを皆で協力して終え、「(農事を)皆、し尽きる月」と呼んだことから「みなづき」となった。

【問7】次の慣用句のうち「雨」と最も関係の深いものはどれですか。
1)きつねの嫁入り 2)たぬき寝入り 3)すずめの涙 4)からすの行水

【問8】次の慣用句の□に「歯」が入らないものはどれですか。
1)くしの□が欠けたよう(ところどころ欠けている様子)
2)□牙にもかけない(問題にしない)
3)口の□に上る(うわさになる)
4)□に衣着せぬ(遠慮せずはっきり言う)

【問9】富士山は季節によって姿を変え、いろいろな呼び方をされます。では、次のうち6月ごろの富士山を表すものはどれですか。
1)赤富士 2)紅富士 3)五月富士 4)逆さ富士

【問10】次の文章には間違いが3カ所あります。どこが間違っているか答えてください。(出題用に創作した文章です)

 私は携帯電話業界を専門とする東京都内在住、30代の男性フリーランスライターです。スマートフォンスマホ)メーカーの新製品情報や「メガキャリア」と呼ばれる通信会社の最新動向を追い求め、日々発表会や記者会見へと駆け回っています。ただ、国内にとどまっていてはどうしても視野が狭くなってしまいます。欧州で開催される世界最大の携帯電話見本市や、一挙手一投足が世界中の注目を集めると言っても過言ではないほどの存在感を誇る米国メーカー、近年急速に業績を伸ばしシェア上位に食い込んでいる中国メーカーなどに関しても足を運ぶ機会があります。自らの見聞を広げるためではありますが、格好つけて言えば、世界を又にかけているといえるかもしれません。
 とはいえ、活動のほとんどは国内、それも東京の都心部です。最近の取材で印象深かったのが、メガキャリアが開いた期間限定店舗のオープニングセレモニーです。場所は「おしゃれな街」の代名詞として知られる某所。しかも、地下鉄駅の出口を出て徒歩1分とかからない好立地ときています。何でも、人型ロボットだけによる世界初の携帯電話ショップだとか。呼び込みも接客も、人の手を介さないとのうたい文句です。事前の告知段階で相当インパクトがあったようで、午前11時の受付開始時間ちょうどに現場に着いた際には関係者で早くも大混雑。黒山の人だかりとはまさにこのこと、店舗前にロープで区切ったスペースには立すいの余地もありません。とりわけテレビ局のクルーが端から端へ、早くもずらりとビデオカメラを並べています。少しでもいいカメラアングルのためにと、押し合いへし合いが続きます。自身はフリーランスの身分とあって、ライターだけでなくカメラマンも兼任しなければなりません。ぎりぎりで撮影スペースを確保したものの、きちんとした写真が撮れるのか、急激に不安に襲われました。
 事前に準備されたスペースは店舗前の歩道の一角を区切っただけなので、当然のことながら屋根などありません。折あしく、小雨が降り続く状況です。携帯電話業界の取材でたびたび顔を合わせるなじみのライターも困惑の色がありありとうかがえ、どうすべきか思案落ち首しています。辛うじて陣取ったスペースは店内撮影をするには死角が多く、「撮影条件が悪くて……」と困り顔で会社に指示を仰いでいました。彼は会社所属。フリーランスの気楽さをわずかばかり感じることができた一瞬でした。
 そんな状況下でもオープニングセレモニーはつつがなく進行していきます。登場したのはベテラン男性お笑い芸人、女性カリスマモデル、女性タレントの3人。店舗のテーマである人型ロボットを巧みにトークに絡めていく話術は見事です。事前に撮影などのために区切ったくだんの一角と、店舗の間とのスペースは一般の歩行者用に確保した通路なので、イベントの進行中も老若男女が構わずに前を通り過ぎていきます。そんなアクシデントもあくびにも出さずにイベントを進行し、アドリブも交えてきっちり笑いも取ってみせる、お三方のプロ魂にはさすがというほかありません。その場を通り過ぎたばかりの通行人という不確定要素を話題にすることなど造作もない様子。無理難題を吹っ掛けるいわゆる「ムチャぶり」も軽く受け流していきます。
 女性タレントも負けてはいません。司会である男性お笑い芸人の要求に応え、地面に横たわって悔しさをあらわに手足をばたつかせるパフォーマンスを惜しげもなく披露するのです。その瞬間、カメラのフラッシュがあちこちできらめきました。
 ふと我に返るきっかけとなり、何とかシャッターチャンスを逃さずに済んだ次第です。「プロ」の仕事とは何なのか――自らがなすべき仕事を決して忘れないこと――と改めて気づくことができた出来事でした。

(解答と解説)

【問1】3
1)は「がっさん」、2)は「げきりん」、4)は「ちょうか」が正しい。

【問2】2
「貸借タイショウ表」の「タイショウ」は「対照」を使う。1)は「対称」、2)は「対照」、3)は「対象」、4)は「対症」を使う。よって、2)が正解。対称=つり合っている。対照=比較。対象=相手、目標。対症療法とは、病気の原因に対してではなく、その時の症状を軽減する治療法。その場しのぎの対策の意でも用いる。

【問3】4
「斉」と「斎」は別字。斉=そろえる、ととのう、ひとしい。一斉、斉唱など。斎=祭りのために心身をととのえる。斎日、斎戒など。

【問4】2
部首に注目。1)の「六」、3)の「八」の部首は「八(はち)」、2)の「七」の部首は「一(いち)」、4)の「九」の部首は「乙(おつ)」。よって、「一」であるものは2)の「七」。

【問5】4
1)は「恐ろしい」、2)は「煩わしい」、3)は「恥ずかしい」が正しい。

【問6】1
他に「ミヅナヤミヅキ(水悩月)の義」「カミナリヅキ(雷月・神鳴月)の略」「真夏月の義か。ミとマと通ず」などの説がある(いずれも小学館日本国語大辞典第二版」)。

【問7】1
「きつねの嫁入り」は晴れているのに雨が降ること。天気雨。2)の「たぬき寝入り」は眠っているふりをすること。3)の「すずめの涙」は非常に少ないことのたとえ。4)の「からすの行水」は入浴時間が短いこと。

【問8】3
正しくは「口の端に上る」。読みは「くちのはにのぼる」。

【問9】3
「五月富士」は旧暦5月(現在の6月ごろ)に見える富士山。雪が解け、初夏の風景と重なって爽やかな姿を見せる。1)の「赤富士」は晩夏から初秋、2)の「紅富士」は冬の冠雪した富士山を指す。それぞれ朝日に照らされ赤く染まることから。4)の「逆さ富士」は水面に逆さに映った富士山。
【問10】1)×世界を又にかけて→○世界を股にかけて。2)×思案落ち首→○思案投げ首。3)×あくびにも出さず→○おくびにも出さず。
 10問正解は日本語の達人、9問=言葉の上級者、8問=言葉に自信を持ってもいいでしょう、7問=言葉でそんなに恥をかくことはないでしょう、6問=ひょっとしたら時々、恥をかいているかもしれません、5問以下=言葉の勉強をしてみませんか。なお、問10は3カ所すべて正解して1問分の正解とします。

(編集=日本経済新聞社記事審査部)