米下院 サウジ法案可決 オバマ政権は拒否権発動へ

【ワシントン会川晴之】2001年9月11日の米同時多発テロから15年を迎えるのを前に米下院は9日、サウジアラビア政府など外国政府に損害賠償を求める訴訟提起を可能にする法案を賛成多数で可決した。上院でも5月に全会一致で可決しており、大統領が署名すれば成立する。ただ、オバマ政権は、サウジとの関係悪化を懸念して拒否権発動を明言しており、議会との激しい攻防が続きそうだ。

 新法はテロ支援者制裁法(JASTA)と呼ばれ、共和、民主両党のほか無所属のサンダース上院議員も提案者に加わった。現行法では、外国政府は民事請求から免責されているが、新法が成立すれば、これが可能となる。

 米同時多発テロは、実行犯19人のうち15人がサウジ人だった。だが▽英語を話せない▽米国訪問は初めて▽高校を卒業していないにもかかわらず、パイロット資格を取得し、極めて複雑なテロを実行した--ことなどから、米国では国際テロ組織「アルカイダ」に加え、サウジ政府も関与したとの疑念が根強い。

 遺族らが損害賠償を求めて提訴したが、ニューヨーク地裁は15年9月に門前払いしたため、新法制定の動きが加速した。

 米議会は6月、02年に上下両院の合同委員会が作成したものの、ブッシュ前政権が公表を阻んだ調査報告書を初めて公表。報告書によると、サウジ政府が関与した直接の証拠はなかったものの▽サウジ政府職員とみられる人物2人が、テロ実行犯2人の住居やパイロット養成学校入学を手配▽サウジのバンダル駐米大使夫妻が、その政府職員とみられる1人に約7万ドルの小切手を渡すなど金銭面で支援--していたという。

 一方、サウジ政府は法案に激しく反発。法案が成立すれば、訴訟で資産が差し押さえられる可能性があるとして、米国債など約7500億ドル(約75兆円)の米国資産を売却する構えを示している。

 米国の同盟国であるサウジとは、イランとの関係改善を巡り関係が悪化。オバマ政権は、これ以上ぎくしゃくさせたくないとの思いが強く、法案に拒否権を発動する考えを既に示している。