トヨタ、「EVピラミッド」築くか

トヨタ、「EVピラミッド」築くか 市場は関連企業に注目

2016/11/7 13:21 日本経済新聞 電子版
 トヨタ自動車が2020年までに電気自動車(EV)の量産体制を整え、EV市場に本格参入する検討を進めていることが明らかになった。EVの普及はエンジン部品などを手掛けるメーカーへの逆風になるとの見方がある一方、主要部品である電池などの関連企業にとっては追い風だ。新たなEVの産業ピラミッドを築くか、株式市場も固唾をのんで行方を見守っている。
 これまでEVの普及を遅らせてきたのは、一度の充電でどれだけ走れるのかという航続距離だったが、徐々にこの課題が解決されつつある。例えば、日産自動車が10年に発売した初代「リーフ」の航続距離は200キロメートル。これが昨年発売した新型車では280キロメートルまで伸び、消費者が一般に求める水準とされる320キロメートルに近づいている。
 これを支えるのが電池技術の進化などで、株式市場では市場拡大への思惑が広がっている。7日午前中の取引では、リチウムイオン電池の正極材料などを手掛ける田中化学研究所の株価が一時前日比8%上昇する場面がみられた。同社によると「車載用電池は民生用電池に比べてより高い安全性が求められるため、品質に強みのある日本メーカーの優位性が増す」という。
 電池と並ぶ基幹部品であるモーター関連銘柄の商いも盛り上がっている。小田原エンジニアリングの株価は朝方に1283円を付け、15%も上昇した。同社はハイブリッド車(HV)やEVなどに使うモーターの製造装置を手掛けている。個別の取引関係は明らかにしていないものの、EVが本格的に普及すれば業績の追い風になるとの思惑があるようだ。
 一方、収益性を冷静に見極めようとする動きも。光学ガラスなどを手掛けるオハラは8月、リチウムイオン電池電解質を液体から固体に置き換えた全固体電池の試作に成功したと発表した。全固体電池は安全性が高く出力も高めやすいため、EVなどに搭載する次世代電池の本命との期待も大きい。トヨタも実用化に向けて力を入れている有望技術だ。
 競争が激しくなる全固体電池についてオハラは将来は車載用の電池への採用も視野に入れるとしているが、「具体的な収益化はさらに先の話となる」(同社担当者)。株価は一時2%上昇したが、午前中は結局0.3%安で引けた。
 トヨタのEVについて、ナカニ自動車産業リサーチの中西孝樹氏は「投入する市場と規模がカギを握る」との見方を示す。年間1000万台超を販売する世界最大の自動車メーカーとなったトヨタの戦略は、部品メーカーの立ち位置を大きく変える可能性を秘める。株式市場でも「勝ち組」を探ろうとする動きが続きそうだ。