屋上で飛び降りようとする美人に、男「自殺する前に抱かせてくれ!」→その結果に驚愕!!②

130:名無しさん: 2014/04/12(土)13:18:07id:aJm8zDiH7
女「つまらない冗談ですね。これっぽっちも笑えません」

男「冗談じゃなくても、笑えませんね」

女「今さら霊能力に開花されても困ります」

男「最近は嘘に敏感な世の中ですからね。きっとインチキ霊能力者って呼ばれますよ」

女「それで幽霊についての本を書いたら、ゴーストライターって言われるんですね」

男「ますます死にたくなりそうですね」

女「……それに、そういう嘘をつくならもっと事前に準備しておくべきですね」

男「準備?」

女「あなた、屋上で管理人さんと会ったとき、わざわざ隠れたじゃないですか」

男「そうですね」

131:名無しさん: 2014/04/12(土)13:19:55id:ZpBd9HU2S
ワロタwwww

132:名無しさん: 2014/04/12(土)13:23:05id:aRIswmPx3
ゴーストライターってそうゆうことか

134:名無しさん: 2014/04/12(土)13:30:36id:aJm8zDiH7
女「見えないなら、わざわざ隠れる必要なんて……」

男「どうしましたか?」

女「……」

女「そう、隠れたんですよね。一回目管理人さんに会ったときは」

男「……」

女「でも、二回目会ったときは、あなたは隠れていなかった」

女「でも管理人さんは」

管理人『物騒な世の中ですから、夜道には気をつけてください』

女「男女ふたりでいるなら、そんなことは言わない……?」

135:名無しさん: 2014/04/12(土)13:37:24id:aJm8zDiH7
男「あなたが気づいていなかっただけで、僕はこっそり隠れたかもしれませんよ」

女「……でも、あなたはマックでなにも食べなかった」

女「そして席とりもしなかった」

女「じゃあ、あの店内で感じた視線って……」

男「気づいちゃいましたか」

女「え? ちょ、ちょっと待ってください。
わたし、周りから見たらずっとひとりで話してたってこと?」

男「だから言ったじゃないですか。早く食べて店から出ましょうって」

女「あの流れでわかるわけないです!」

男「あらら、大丈夫ですか? 今まで一番すごい顔してますよ」

女「恥の多い生涯を送って来たって自覚はあるけど……うぅ……」

136:名無しさん: 2014/04/12(土)13:39:22id:IfHyeXmCo
さりげなくフラグが立てられてたとは

139:名無しさん: 2014/04/12(土)13:45:48id:bxZsB2K3e
すげえ

140:名無しさん: 2014/04/12(土)13:52:51id:aJm8zDiH7
女「いえ、待ってください」

男「まだなにか言いたいことでも?」

女「あなたが幽霊なら、触れることはできませんよね?」

男「さあ? どうでしょう? 案外そんなこともないかもしれません」

女「……」

男「あの、目つきがコワイんですけ……どおぉっ!?」

女「わわっ……ほ、本当にスケスケだ……!」

男「いや、なんで殴ったんですか? 生きてたら鼻が曲がってるとこでしたよ」

女「……なんとなくです。ていうか瑣末なことはどうでもいいです」

男「けっこう重要だと思うんですけどね」

141:名無しさん: 2014/04/12(土)13:58:51id:aJm8zDiH7
女「ていうか、なんで最初に教えてくれなかったんですか?」

女「おかげで恥をかいたじゃないですか」

男「いいじゃないですか。どうせ結末は見えてるんだから」

女「そういう問題じゃないです」

男「やはりいろいろと難しい人ですね、あなたは」

女「いいからわたしの質問に答えてください」

男「いやあ、単純に信じないだろうなって思って」

男「自己紹介でいきなり幽霊だって言って、信じますか?」

女「まずあなたは、わたしに素人童貞ってことしか教えてません」

男「あはは、これはうっかり」

143:名無しさん: 2014/04/12(土)14:05:03id:dha8TcJCN
男はなぜ死に幽霊になったのか

144:名無しさん: 2014/04/12(土)14:06:26id:aJm8zDiH7
男「でもやっぱり自己紹介をしても、絶対にあなたは信じなかったでしょう?」

女「それか間違いありません」

女「でも管理人さんが屋上に来た段階で、説明はできたはずですよね?」

男「あそこらへんはテンションあがっちゃって……思わず自分が生きてると錯覚しちゃったんですよ」

女「死んでるのにテンションあがっちゃうんですね」

男「僕の場合はね。ほかの人は知りません」

女「……でも、どうしてわたしにはあなたが見えるんですか?」

男「それについては本当にわかりません」

女「本当に?」

男「命をかけてもいいですよ?」

女「バカ」

145:名無しさん: 2014/04/12(土)14:12:34id:aJm8zDiH7
男「僕もこんなことははじめてなんです」

女「こんなこと?」

男「死んでから、人と話すのが」

女「……」

男「僕が死んでから何年たっているのか、それはわかりません」

男「ですが、少なく見積もっても五年は経過してるはずです」

女「幽霊歴、けっこう長いんですね」

男「ええ。でも、はじめてだったんですよ」

男「僕が話しかけて、反応をしてくれたのは」

男「しかも僕の姿が見えてるなんてね。奇跡かと思いましたよ」

147:名無しさん: 2014/04/12(土)14:20:20id:aJm8zDiH7
女「奇跡、か」

男「どうしました?」

女「……誤解してほしくないから、先に言っておきます」

女「わたしはあなたみたいな意味不明な人はきらいです」

男「幽霊ですよ」

女「うっさいです。男のくせにいちいち細かい」

男「あっ、今のは問題発言ですよ!」

女「話が進まないから、そういうのはいいです」

女「ついでに言うと、わたしは気づかいというのができません」

女「でも、あなたのことが少しだけかわいそうだと思いました」

男「どうして?」

女「あなたのことが見える人間、それがわたしだったから」

148:名無しさん: 2014/04/12(土)14:25:43id:aJm8zDiH7
女「あなたが無類のおしゃべり好きだってことは、わたしでもわかります」

男「続けてください」

女「せっかく自分のことが見える人間が、わたしのようなろくでもない女で」

女「……すこしだけ申し訳ないと思いました」

女「どうせなら、もっと楽しい人と出会えたほうがよかったですよね?」

男「……」

女「言っておきますけど、すこしだけしか申し訳ないって思ってませんから」

女「変な勘違いはしないでくださいね」

男「……僕はあなたでよかったと思いますよ」

女「なんです? 口説きにかかってるんですか? 素人のくせに生意気です」

149:名無しさん: 2014/04/12(土)14:27:48id:aelvnAdsV
だんだん女が可愛くなってる…!

151:名無しさん: 2014/04/12(土)14:36:16id:aJm8zDiH7
男「あはは、言われたことありません?」

女「なにをですか?」

男「言動がきついって」

女「……」

男「考えこまなくても、こころあたりはたくさんあるんじゃないですか?」

女「いいえ。あなたがはじめてです」

男「嘘、ではなさそうですね」

女「わたし、普段はそんなにしゃべらないんです」

女「人と話すと、すごい疲れるっていうか」

女「当たり障りのないことしか、言えないし、本音を話せる友達もいません」

153:名無しさん: 2014/04/12(土)14:43:59id:aJm8zDiH7
女「あなたに話しかけられたときは、もうなんかすべてがどうでもよくて」

女「こんなふうに、誰かにひどいこと言ったのは、たぶんはじめてです」

女「話しかけてくれたのが、あなたでよかったかもしれません」

男「え? もしかして僕を口説いてるんですか?」

女「くたばれ」

男「やだなあ、とっくに死んでますよお」

女「……答えたくないなら、答えなくてけっこうです」

男「ん?」

女「あなたはどうやって死んだんですか?」

男「ああ、自殺です」

女「あなたが?」

155:名無しさん: 2014/04/12(土)15:02:38id:aJm8zDiH7
男「意外ですか?」

女「よくわかりません。続きを話してください」

男「……実は僕も、このマンションの住人だったんですよ」

女「まさか、ここで死んだんですか?」

男「自分の部屋のベランダでね」

女「飛び降りたんですか?」

男「ちがいます。僕の住んでた階は、三階でしたので死ねない可能性があったんです」

男「だから確実に死ぬために、首吊りをしたんですよ」

女「首吊り……」

男「飛び降りるより、首吊りのほうが確実なんですよ」

男「ベランダから飛び降りるようにすれば、間違いなく死ねます」

171:名無しさん: 2014/04/12(土)21:26:10id:D2SqkL8wv
女「どうして自殺なんてしたんですか?」

男「あなたと似たような理由だと思いますよ」

男「でもまあ、簡単に言うとここじゃないどこかへ行きたかったんでしょうね」

女「天国とかですか?」

男「あるいは地獄だったかもしれません」

男「でも首を吊って、次に目が覚めたときは絶望しましたよ」

男「なぜかこのマンションの目の前にいたんですからね」

男「最初は自分が死んだかどうかさえわかりませんでしたよ」

男「幽霊になったというよりは、透明人間になった気分でしたね」

172:名無しさん: 2014/04/12(土)21:29:06id:D2SqkL8wv
男「しかも、幽霊ってかなり不便なんですよね」

女「不便?」

男「扉とかはすり抜けられるんですけど、壁とかはすり抜けれないんですよ」

女「へえ。意外ですね」

男「空を飛べたりするんじゃないかって、思ったんですけどそんなこともできませんし」

男「写真に写ったりできるんじゃないかと、試したこともあるんです」

女「写れたんですか?」

男「わかりません。たしかめられませんでした」

男「あと、温泉で女湯に入ろうとしたこともあったんです」

女「……その話は聞かなきゃダメですか?」

176:名無しさん: 2014/04/12(土)21:34:46id:D2SqkL8wv
男「意外なことに、僕はのれんをくぐれなかったんですよ」

女「どういうことですか?」

男「原因はわかりません」

男「でも、生きてるときにできないと思ったことは、どうも実行できないみたいなんです」

女「変なの」

男「あと、眠ったりとかもできないんですよね」

男「まあでも、こんなことは本当にささいなことなんです」

男「一番衝撃的だったのは、自分以外の幽霊に会わなかったことです」

178:名無しさん: 2014/04/12(土)21:40:01id:D2SqkL8wv
女「あなたは幽霊を見たことがないって言いますけど」

女「幽霊の見た目とか、どんなふうかわからなくないですか?」

男「ええ。ですから、あるときからずっと叫んでみたんですよ」

男「『誰か死んだ人はいませんか』って」

女「それで、反応した人はいなかったってわけですね」

男「ええ。心霊スポットとか樹海とか自殺現場にも、足繁く通ったんですよ」

女「それでも誰にも会わなかったんですね」

男「はい。そこではじめて気づいたんですよ」

男「幽霊になっても、幽霊は見えないって」

男「それに気づいたとき、死のうと思ったときと同じぐらい死にたくなったんです」

179:名無しさん: 2014/04/12(土)21:45:54id:D2SqkL8wv
女「おしゃべり好きな人は、自殺しないほうがいいってことですか」

男「……あれ、まだ言ってませんでしたっけ?」

女「ん?」

男「僕、生前は人と話すのがイヤでイヤで仕方なかったんです」

女「……」

男「目は口ほどにものを言うって言葉の意味がわかりました」

女「バレました?」

男「嘘だろっていうのが、一瞬で伝わってきましたよ」

180:名無しさん: 2014/04/12(土)21:47:12id:D2SqkL8wv
女「わたしは以心伝心の意味がわかりました」

男「ほほう」

女「あと目は口ほどにものを言うって言葉の意味も。変なかんちがいしないでくださいね」

男「照れなくてもいいのに」

女「はいはい」

男「まああなたが、そう思うのも無理はありません」

男「でも、本当の話なんですよ」

181:名無しさん: 2014/04/12(土)21:52:46id:D2SqkL8wv
男「友達も全然いませんでしたし、まして異性の知り合いなんて……」

女「そのわりには、わたしと話すときはすごい流暢でしたよね?」

男「死んでから、ずっといろんな人に話しかけてたんですよ、僕は」

女「人と話すのはきらいだって、さっき言ってましたよね?」

男「ええ。ですけど、何年たってもやることがないんですよ?」

男「知ってる人とすれちがっても、もちろん気づいてもらえない」

男「僕のことを見てくれたのは、たぶんカメラとかだけなんじゃないですか」

女「……」

男「死んでからはじめて思ったんです。誰かに気づいてほしい」

男「誰かとお話したいって」

182:名無しさん: 2014/04/12(土)21:57:35id:D2SqkL8wv
男「死んでからはいろんな人に話しかけましたよ」

男「公園のベンチでぼーっとしてるおじいさんとか」

男「砂場で遊んでる小さなお子さんとか」

男「明らかにコワそうな集団に飛びこんだりもしました」

男「もちろん、誰も気づいてくれませんけどね」

女「かえってつらくなりません、それ?」

男「ええ。でもときどき、会話が噛み合ったりするとすごく嬉しいんですよ」

男「声をかけて、偶然こちらを見てくれたりとかもね」

女「せつないですね」

183:名無しさん: 2014/04/12(土)21:58:14id:pbjbFu1g7
ガチでせつない

184:名無しさん: 2014/04/12(土)22:00:59id:D2SqkL8wv
女「じゃあわたしに話しかけたのも……」

男「いえ、それはすこしちがいます」

男「もうここ半年ぐらいは、そういうのもやめたんです」

女「じゃあ、どうしてわたしに?」

男「飛び降りようとしてたからです」

女「……」

男「一週間前からずっと、あなたの背中に声をかけ続けてたんです」

男「でもどんなに呼びかけても、あなたは泣き叫んで僕の声をかき消すんですよね」

女「飛び降りれなくて。そのたびに泣いてたの、見てたんですね」

男「はい、ばっちり」

女「やっぱりあなた、ムカつきますね」

185:名無しさん: 2014/04/12(土)22:05:32id:D2SqkL8wv
女「……なんか納得しました」

男「納得してくれるんですか?」

女「普通にコミュニケーションできる人なら、あんな止めかたはしないでしょうから」

男「たしかに。本当はもっとまともなことを言うつもりだったんですよ」

男「けど、今日になって僕の声はあなたに届きました」

男「不謹慎ですけど、嬉しすぎて舞いあがっちゃったんですよ」

男「『僕の声が届いた!』って、はしゃぎそうになりました」

女「のっけから言いたい放題でしたもんね」

男「はい、あんなに自分が口達者だとは夢にも思いませんでした」

187:名無しさん: 2014/04/12(土)22:10:46id:D2SqkL8wv
女「ありがちな説教をされてたら、わたしはあそこから飛んでました」

男「じゃあ僕の説得は正解だったわけですね」

女「どこが説得だったんですか」

女「自殺することじたいは、止めなかったじゃないですか」

男「まあ結果オーライじゃないですか」

女「なに言ってるんですか?」

男「え?」

女「わたしがたどる結末は変わりません」

男「普通ならここで、僕の話を聞いて考え方を変えるって展開じゃないんですか」

女「あなたのおかげで救われたなんて、そんな展開はごめんです」

188:名無しさん: 2014/04/12(土)22:15:21id:D2SqkL8wv
女「ですが、延長しようと思います」

男「延長?」

女「今日はむだにお話して疲れました」

女「ですので、明日の午前十一時にまたマンションの前に来てください」

男「え? あなたはどうするんですか?」

女「今日は寝ます」

男「は、はあ」

女「言っておきますけど、あとをつけたりしないでくださいね」

男「……読まれてましたか」

女「明日また会いましょう。おやすみなさい」

男「……おやすみなさい」

192:名無しさん: 2014/04/12(土)22:19:48id:D2SqkL8wv
男「いやあ、長いんですよねえ」

女「会ってそうそうなんですか」

男「死んでからの夜は長いって話です」

女「わたしは夢を見てましたよ」

男「いいなあ」

女「夢の内容は教えてあげませんから」

男「聞きませんよ。それより、これからなにをするんですか?」

男「なんだか大きなバッグも、持ってますし」

女「あなたが使っていた部屋に行きます」

男「は?」

193:名無しさん: 2014/04/12(土)22:23:47id:D2SqkL8wv
男「ど、どういうことですか?」

女「不動産屋に問い合わせたら、すぐわかりました。あなたが使っていた部屋のこと」

女「それから、現在は引越し時期ってことで部屋も偶然空いてるそうです」

男「いえ、そういうことじゃなくて」

女「いいからついてきてください」

男「……」

女「……手、引っ張ろうとしても触れないんでしたね」

男「スケスケですからね」

女「でもついてきてください」

男「わかりました」

194:名無しさん: 2014/04/12(土)22:24:22id:T1b2uA1F2
この二人のやりとりキュンキュンする

195:名無しさん: 2014/04/12(土)22:24:45id:xuwUkppqY
女ちゃんかわいい

197:名無しさん: 2014/04/12(土)22:28:10id:D2SqkL8wv
男「うわあ、クリーニングされたんですね。すごいきれいになってます」

女「わたしの部屋よりきれいですね」

男「でも、なにもありませんね」

女「わたしたちしかありませんね」

男「……」

女「なにか感想は?」

男「いえ、正直この部屋を見ても、なんの実感もわきません」

女「ここで昔暮らしてたんだ、とかそういうのもありませんか?」

男「ひょっとして、僕を気づかってここにつれてきたんですか?」

男「だとしたら、申し訳ないんですけど……」

女「わたしは気づかいが苦手な人間です」

男「知ってますよ」

199:名無しさん: 2014/04/12(土)22:31:30id:D2SqkL8wv
女「ここに来たのは、見てみたかったからです」

男「どこへ行くんですか?」

女「……おそらく、ここだけはほとんど変わってないんじゃないですか?」

男「なるほど」

女「ベランダ、どうですか?」

男「そうですね。そんなに変化はないですね。あ、でも柵は取り替えられたのかも」

男「でも、一番変わってないのはここからの景色かもしれませんね」

女「これが、あなたが見ていた景色なんですね」

男「ええ。どこにでもある、ありふれた光景です」

女「けど、わたしが見たいと思った景色です」

男「……」

200:名無しさん: 2014/04/12(土)22:38:32id:D2SqkL8wv
女「本当に、なんの変哲もない景色ですね」

男「がっかりしましたか?」

女「よくわかんないです。でも、ここに来てもピンときませんね」

男「なにがですか?」

女「あなたって人が死んだ場所って」

男「そんなものですよ」

女「お供え物みたいなものも、このバッグに入れておいたんですよ」

男「嬉しいですね。でも、ここにものを置いていくと迷惑になります」

女「そうなんですよね。だから、いっしょになにか飲みません?」

男「どうやって?」

202:名無しさん: 2014/04/12(土)22:44:02id:D2SqkL8wv
女「いろいろもってきたんですよ。ちっちゃい缶ジュース」

男「うわあ、すごい量ですね」

女「アルコールとかのほうがよかったですか?」

男「いえ、酒の類はほとんど飲まないんで」

女「わたしもです。飲むとすぐ気持ち悪くなっちゃって」

女「現実逃避のためにブラックニッカ飲んだら、気持ち悪すぎて」

女「また死にたくなりました」

男「よく死にたくなる人ですね」

女「死にたくなる人はたくさんいると思いますよ、きっとね」

男「死にたくなる人は、ね」

女「……はい、わたしが缶をもっててあげますから、口つけてみてください」

203:名無しさん: 2014/04/12(土)22:49:15id:D2SqkL8wv
男「じゃあ、このジュースで」

女「はい、どうぞ」

男「ほかの人がこの光景を見たら、なんて思うでしょうね」

女「ひとりぐらい笑ってくれるんじゃないですか?」

男「それは笑われてるんですよ」

女「うっさいですよ。さっさと飲んでください」

男「えっと……では……」

女「わたしもいただきます」

男「……」

女「ふふっ……変なの。おちょぼ口になってるし」

男「いや、こうするしかないでしょう」

204:名無しさん: 2014/04/12(土)22:50:30id:T1b2uA1F2
女ちゃんが笑った!

207:名無しさん: 2014/04/12(土)22:57:50id:D2SqkL8wv
男「はたから見たら、変なのはあなたですよ」

女「昨日の夜ご飯のときも、こんな感じだったんですかね」

男「おそらく」

女「……ジュース、どうでした?」

男「きっとおいしかったです」

女「……」

男「どうしました?」

女「本当に、わたしったらなにやってるんでしょうね」

男「僕とジュースを飲んでるんですよ、ごくごくと」

女「ごくごくって、なんか生きてるって感じがしますね」

男「……そうですね」

208:名無しさん: 2014/04/12(土)23:02:02id:D2SqkL8wv
女「それじゃあ、行きましょうか」

男「次はどこへ?」

女「決まってます。屋上です」

男「屋上に行って、なにをするんですか?」

女「いいから、ついてきてください」

男「……わかりましたよ」

209:名無しさん: 2014/04/12(土)23:03:35id:B0tycZRYv
ドキドキ

210:名無しさん: 2014/04/12(土)23:04:09id:aaIYCwopw
心配になってきたゾ

211:名無しさん: 2014/04/12(土)23:04:34id:gbw8u7EHw
怖いお…

212:名無しさん: 2014/04/12(土)23:09:24id:D2SqkL8wv
男「それで、いったいここへなにしに来たんですか?」

女「わかりませんか?」

男「思いあたることがありすぎて、ちょっと」

女「そうですか」

男「ちょ、ちょっと……!」

女「塀のうえに登ったぐらいで、そんな声を出さないでください」

女「あなたは言いましたよね? 自分にわたしを止める資格はないって」

男「言いましたけど、それは……」

女「嘘をつくのはよくありませんよ」

男「自分で自分を殺すよりは、マシだと思いますよ」

女「……」

214:名無しさん: 2014/04/12(土)23:15:46id:D2SqkL8wv
女「なにか勘違いしてません?」

女「もう一度言います。嘘をつくのはよくありませんよ」

男「嘘なんてついてませんよ、僕は」

男「あなたに話したことは、全部事実です」

女「いいえ。あなたは嘘をついてます」

男「なにを?」

女「本気でわかりませんか? それともとぼけてるんですか?」

男「だから、とぼけてなんて……」

女「パンツ」

男「……はい?」

女「だから、パンツです」

215:名無しさん: 2014/04/12(土)23:17:02id:Vng7B3TVD
パンツ?

216:名無しさん: 2014/04/12(土)23:18:36id:B0tycZRYv
パンツ!

217:名無しさん: 2014/04/12(土)23:23:24id:D2SqkL8wv
女「昨日管理人さんが、ここからいなくなった段階で気づけたはずなんですよね」

女「塀の下には、人が身をひそめられるぐらいのでっぱりがある」

女「これで気づくべきでした」

女「マンションの下から覗いても、でっぱりがジャマでスカートの中なんて見えるわけがないんですよ」

男「……」

女「どうですか? 間違ってないでしょう?」

男「いえまあ、おっしゃるとおりなんですけど」

女「パンツの色は適当に言えば、当たりますしね。外れても問題ないですし」

男「……えっと、その確認のためにここに来たんですか?」

女「とても重要なことでしょう?」

218:名無しさん: 2014/04/12(土)23:27:02id:Vng7B3TVD
そこも伏線だったのかwwww

219:名無しさん: 2014/04/12(土)23:33:03id:D2SqkL8wv
男「まあ重要じゃないとは、言いませんけど」

女「お嫁に行けるか行けないかの問題でしたからね、わたしにとっては」

男「お嫁?」

女「……ひとつ、わたしの憧れてたことの話を聞いてくれません?」

男「憧れてたこと、ですか。どうぞ」

女「わたし、大学生になるぐらいまで、ドラマチックに死にたいって思ってたんです」

男「変わってますね」

女「はい、自分でもそう思います」

女「世界の終わりに好きな人と寄り添って死ぬとか」

女「自分の命を使って、誰かを助けて死ぬとか」

女「なんか、そういうものに憧れていたんです」

220:名無しさん: 2014/04/12(土)23:38:40id:D2SqkL8wv
女「生きてみじめな姿をさらすなら、自殺したほうがマシ」

女「けっこう本気でそう思ってたんです。いえ、昨日までずっと……」

男「命をかけるってことが、フィクションの世界だと美しいものとして描かれることがありますよね?」

男「おそらくそういう影響なんじゃないですか?」

女「ああ、自分の命よりも大切なもの……みたいな?」

男「そうです」

女「そうですね、きっとわたしはそういうのに憧れてたんですね」

男「僕も死ぬ前は、そういうのに憧れてましたよ」

女「今は?」

男「言わせないでください」

225:名無しさん: 2014/04/12(土)23:44:54id:D2SqkL8wv
男「フィクションにおける主人公とかは、そういう命をかける場面に遭遇したりします」

男「そういうのに、昔は僕も自己投影してたりしてました」

男「でも、今はみっともなくても、みじめでも」

男「生きたいって懇願する人物のほうに、ついつい共感してしまうんでしょうね」

女「漫画とかに出てくる仲間を売って自分だけ助かる、みたいな悪役とかですか?」

男「ああ、そういうのですかね」

男「どうしてなんでしょうね?」

男「ああいう人たちが、さも間違ったもののように描かれてしまうのは」

女「みじめで、みっともないからじゃないですか?」

男「そういうことをする人より、命を投げ出す人のほうが好かれるんですよねえ」

226:名無しさん: 2014/04/12(土)23:49:01id:D2SqkL8wv
男「ごめんなさい。愚痴っぽくなりましたね」

女「あなたの本当の性格が垣間見えましたね」

男「恥ずかしいです」

女「……でも、あなたの気持ち、今ならわかります。ほんの少しだけ」

男「嬉しいですね」

女「昨日夢を見たって言ったじゃないですか、わたし」

男「言いましたね」

女「透明人間になる夢を見たんですよ」

227:名無しさん: 2014/04/12(土)23:49:44id:Zixz7kNPp
グッと来るものがある

228:名無しさん: 2014/04/12(土)23:54:54id:D2SqkL8wv
女「夢の中ではわたし、なぜか中学生にもどってたんですよ」

女「夢の中では、学校の廊下を走っても誰にも注意されませんでした」

女「バスに乗っても、お金を払う必要がありませんでした」

女「みんな見てないみたいでした。わたしのことなんて」

女「最初はね、うらやましいだろって優越感に浸ってたんです」

女「でもだんだん、それがつよがりになって」

女「誰かにわたしの名前を呼んでほしいって……夢の中で思ったんです」

229:名無しさん: 2014/04/13(日)00:01:47ID:4U1oKcGCB
男「まさしく透明人間ですね」

女「でも、わたしはいやらしいことは思いつきませんでしたけどね」

男「僕が死んでから、変なことをしたみたいじゃないですか」

女「ちがうんですか?」

男「否定はできませんね」

女「やっぱりね」

男「なんだか、あなたが楽しそうに見えます」

女「気のせいですよ。わたしの人生はみじめでみっともないものです」

女「それこそ、自殺したくなるぐらいにね」

男「……」

232:名無しさん: 2014/04/13(日)00:09:42ID:4U1oKcGCB
男「でも、それでも生きてれば、いいことはあるかもしれませんよ」

女「そう言って、なにも起きないまま人生が終わって」

女「なんでもっと早く死ななかったんだろうってみじめな思いをしそうですね」

男「そうですね。生きてればいいことがある、なんて無責任な発言です」

男「ですが、断言します」

男「あなたがここから飛んでも、いいことは起こりません。絶対に」

女「そんなのは自殺する人は、たぶんみんな知ってます」

女「あなただってそうだったんでしょう?」

男「……」

女「そう。自殺なんてしなくても、たどる結末はみんな同じなんですよ」

236:名無しさん: 2014/04/13(日)00:17:42ID:4U1oKcGCB
女「いつか、絶対に人は死ぬ」

女「……そうなんですよね、いつかわたしたちって絶対に死ぬんですよね」

男「待ってください。しつこいですけど、ここから飛び降りても……!」

女「もう遅いです。えいっ」

男「……」

女「塀から飛び降りましたよ」

男「……内側にね」

女「わたしは嘘はついてませんよ。一度も飛び降りるなんて言ってません」

男「……そのとおりです」

女「そう、結末は決まってます。どうせここで死ななくてもいつかは死ぬ」

女「だったらみっともない、みじめな人生を続けてもいいかもしれません」

237:名無しさん: 2014/04/13(日)00:23:54ID:4U1oKcGCB
女「あなたは言いましたね」

女「『死ぬって決めたら、こころにゆとりができません?』って」

男「そんなこと言いましたっけ?」

女「ええ、はっきりと」

女「みんな最後は死ぬって思ったら、少し生きようと思いました」

女「もう少しだけ、生きてみじめな思いをしようと決めました」

男「……後悔するかもしれませんよ」

女「そうしたら、死にます」

男「また後悔するかもしれませんよ」

女「だったら、生きて後悔するほうをとります」

男「あなたは変な人ですね」

女「あなたに言われたくありません」

241:名無しさん: 2014/04/13(日)00:29:13ID:4U1oKcGCB
女「あなたのせいで、わたし、生きることになりましたから」

男「ひどい言い草ですね」

女「ホントですよね」

男「僕ならいいですけど、ほかの人とお話するときは、もう少し言葉を考えたほうがいいですよ」

女「そっくりそのままおかえしします」

男「あはは、たしかに僕も人のこと言えませんね」

女「認めたくありませんが、案外わたしたちって似たものどうしなのかも」

男「……この手は?」

女「握手です」

242:名無しさん: 2014/04/13(日)00:36:57ID:4U1oKcGCB
女「わたしはあなたがきらいです」

男「あれ? 生きてなければきらいじゃないみたいなこと、言ってましたよね?」

女「あなたは例外です」

男「あらら。死んでから、生まれてはじめてフラれるなんて。悲しいですね」

女「はいはい、わかりました」

男「……握手、どうすればいいんでしょうか?」

女「細かいことは気にしないでください」

女「ただ、わたしの手を握ってください」

男「……はい」

女「ふふっ……やっぱり変ですね」

男「あはは、手が微妙に透けてますね」

244:名無しさん: 2014/04/13(日)00:41:56ID:4U1oKcGCB
女「かんちがいはしないでくださいね。わたしは、あなたのことがきらいですから」

男「しつこいですね、あなたも」

女「あなたには負けます」

男「どうでしょうね」

女「……きらいなあなたのせいで、わたしは生きようと思っちゃいました」

男「あなたらしいセリフですね」

女「でも、ありがとうございます」

女「あなたに会えて、本当によかったです」

男「……」

246:名無しさん: 2014/04/13(日)00:46:42id:lxCzarMbv
えんだああああああああああああああああ

247:名無しさん: 2014/04/13(日)00:48:04ID:4U1oKcGCB
男「やだなあ、勘弁してくださいよ」

女「?」

男「もっと生きたいって思っちゃうじゃないですか」

女「じゃあいつか、あなたが死にたくなるぐらい幸せな姿を見せてあげますよ」

男「いつごろになりますかね」

女「知りません。生きてるうちに、とだけ言っておきます」

男「楽しみにしておきます」

248:名無しさん: 2014/04/13(日)00:49:41ID:4U1oKcGCB
この物語はここで終わりです。

これ以上は蛇足になると思いますから。

でもひとつだけ言っておきます。

わたしは今も生きています。

251:名無しさん: 2014/04/13(日)00:51:56id:qEjnpi2LV
面白かった


252:名無しさん: 2014/04/13(日)00:52:09id:yoQHbb6JW
おもしろかったです。

255:名無しさん: 2014/04/13(日)00:52:49id:b4XlKnXDR
乙。
俺もいい年してフリーターで、本当に何もかもが不安で自殺を考えていた所だったから色々考えさせられた。
前向きに考えるのも悪くはない…かなと考えなおさせてもらった。有難う。

263:名無しさん: 2014/04/13(日)01:03:39ID:2zRLns6cb
面白かったわ!文才あるね

>>255
生きる道は色々あるはずだから探してみなよ

256:名無しさん: 2014/04/13(日)00:53:07id:VAAXO8T9Z
スレタイ詐欺すぎるんだよちくしょおおお
乙すぎる

257:名無しさん: 2014/04/13(日)00:57:10id:rd1W6bldR
命を賭ける云々のくだりがよかったな
考えさせられたわ

268:>>1: 2014/04/13(日)01:27:16ID:7InhZ5KFr
感想ありがとうございます

それから女の夢の内容はB’z稲葉浩志の透明人間という曲の歌詞からとってます
ありがとうございました

273:名無しさん: 2014/04/13(日)05:56:29id:jB3D4nur5

透明人間は名曲

276:名無しさん: 2014/04/13(日)06:30:51id:u9W2duXTX
以上劇団ひとりステマでしたw
>>1お疲れさまでした。

278:名無しさん: 2014/04/13(日)07:52:48id:Q695HVQbb
心に響いた

260:名無しさん: 2014/04/13(日)01:00:29id:PyUiDNJD1
乙!


出典 キニ速