睡眠不足は「経済損失」招く 「働き方改革」成否は正しい睡眠にあり

 政府が進めている働き方改革は、日本経済を成長に導くための重要な政策の1つだ。ただ、多様な働き方を追求するといいながら、制度自体が画一化されたものとなってしまう懸念もある。長時間労働の是正もその1つだろう。労働時間は短ければいいというだけではなく、「多様な働き方」の中では、成果を求めるために時には労働時間が長くなるケースもでてくるはずで、ある程度柔軟性のある制度も必要ではないか。
 一方で長時間労働が続くとどうしても睡眠不足に陥る。睡眠不足が続くと健康面に悪い影響をもたらすことも事実である。長時間労働に関しては、勤務終了時から次の始業まで一定時間を設けるインターバル規制などの配慮も必要だろう。ただ、人によって必要な睡眠時間も必ずしも一定とはかぎらない。
 よく睡眠時間は8時間必要といわれるが、厚生労働省健康局が作成した「健康づくりのための睡眠指針2014」によると、年齢に応じて睡眠時間は変化する。日本の成人の睡眠時間は6時間以上8時間未満の人がおよそ6割を占め、これが標準的な睡眠時間である。ただ実際に眠ることのできる一晩の睡眠の量は10代前半までは8時間以上、25歳で約7時間となり、その後20年経って45歳では6.5時間、さらに20年経って65歳になると約6時間というように、20年ごとに30分ぐらいの割合で減少していく。

 睡眠時間とは逆に寝床で過ごす時間は、20~30代では7時間程度なのに対し、45歳以上で徐々に増え、75歳だと7.5時間を超える。加齢に伴い睡眠時間は短くてすむのに、寝ようと寝床であがく時間は逆に増えるようだ。人間の体内時計は24時間より長いことから、1日24時間とのズレが生じる。この差をリセットするためには、起床直後に太陽の光を浴びるのが一番効果的らしい。平日の寝不足を補おうと土日に寝だめすると、逆にこのリセットのタイミングがズレるため、月曜の朝起きるのがかえって辛くなる。
 睡眠は「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」の2種類から構成されている。レム睡眠は眼球の運動を伴う浅い睡眠で、身体は休んでいるが、大脳は働いている。体温も上昇傾向にある。ノンレム睡眠レム睡眠以外の睡眠のことで、大脳は休んでいて、体温は低下傾向にある。
 ノンレム睡眠は浅いまどろんだ睡眠から深い眠りまで4段階に分かれており、睡眠はこの「ノンレム睡眠レム睡眠」の1セット約90分が繰り返される。最初は「深いノンレム睡眠レム睡眠」の組み合わせだったのが、寝ている間にノンレム睡眠が浅いノンレム睡眠になり、さらに1セットの中でレム睡眠の占める比率が多くなっていき、目覚めにつながる。このパターンも規則正しい生活をしていると、朝はだいたい決まった時間に目が覚めるようになる。

 睡眠不足が続くと仕事の効率にも悪影響をもたらす。1979年のスリーマイル島原子力発電所の事故なども、睡眠不足による眠気が原因となった可能性が指摘されている。日本でも睡眠不足が原因の交通事故などで、年間数兆円の経済損失が発生しているとの推計もある。
 個人差はあるが、過重労働をなくし必要な睡眠時間を確保することは、健康な社会生活をおくるために重要だ。正月休みで崩れたリズムを回復するためには、週末に寝だめするより早寝早起きで調整する方がより効果的なことだけは間違いなさそうだ。(森山博之)

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