東芝が事実上の解体へ、なぜこうなったのか?

米原子力事業をめぐる巨額の損失を発表し、債務超過に転落する見通しの東芝。なぜ失敗する確率の高いプロジェクトに投資し続けてしまったのか。解体に向けたカウントダウンが始まった>

 東芝米原子力事業をめぐる損失額が7000億円規模に達する可能性が高くなってきた。同社の2016年9月時点における自己資本はわずか3600億円しかなく、この金額が正しければ同社は債務超過に転落する。半導体事業を売却することで債務超過を回避するとの報道も出ているが、半導体事業を売却してしまうと、もはや満身創痍の原子力部門しか残らない。総合電機メーカーであった東芝は事実上、解体に向けて動き始めたことになる。

米原子力事業の不振はかなり前から指摘されていた

 東芝は昨年12月27日、米国の原発事業において数千億円の損失が発生する可能性があると発表した。損失が発生するのは、米子会社ウェスチングハウス(WH)社が2015年12月に買収したCB&Iストーン・アンド・ウェブスター社(S&W)。東芝の説明によると、資産価値を精査したところ想定よりも大幅に価値が下回ったことが原因だという。

 しかしながら、資産価格を精査したところ想定よりも価値が下がったという説明は額面通りには受け取らない方がよいだろう。米国の原子力部門において多額の損失が発生していることは、以前から指摘されていたからである。

 東芝は2006年に54億ドル(当時のレートで約6400億円)を投じてWHを傘下に収めた。東芝はWHの売上高を10年で2.5倍にするという強気の見通しを立てており、買収価格もこの事業計画をベースに算定された。だが、WHの事業は予定通りには進まなかった。東芝は減損処理の必要はないとの立場を崩していなかったが、WHが2度にわたって損失処理を行ったことが報じられ、2016年4月になってようやく2600億円の減損を行うと発表している。

 だが、WHが抱える損失はそれだけでは済まなかった。WHは業績を拡大するため、米国の原子力サービス企業S&Wと提携し、原発建設のプロジェクトを積極的に進めてきたが、プロジェクトがうまくいかずS&Wが巨額の損失を抱えてしまったのである。東芝グループとS&Wの親会社であるCB&Iは損失処理をめぐって対立し、一部は訴訟にまで発展する状況となった。最終的に、東芝が損失を抱えたS&Wを引き取る形で紛争解決が図られたが、今回発生する損失は、この案件に関連したものである。

 東芝は、最終的なリスクの多くを東芝が負うという、無理な形で米国の原子力事業を進めており、そのツケが回ってきたといってもよいだろう。

「コストが高い」米国の潮流は完全に変わっていた

 東芝は、失敗する確率の高いプロジェクトにわざわざ巨額の投資を続けてしまったわけだが、なぜこのような事態に陥ってしまったのだろうか。直接のきっかけは福島第一原発の事故である。

 日本では事故後も原発を再稼働することが大前提となっているが、米国の状況は大きく異なる。もともと米国では兵器用の原子力開発と発電を中心とした民間の原子力開発は完全に分離しており、民間の原子力開発は、純粋に経済合理性に基づいて運営されている。原発事故後、米当局は安全規制を強化、原子力発電のトータルコストは高いという認識が広がり、新規の原発建設が急速に萎んできたのである。

 東芝はもともと米GE(ゼネラル・エレクトリック)社から技術提供を受けて原発事業を進めてきた企業だが、本家本元であるGEのイメルト会長兼CEOは2012年7月、「原子力事業はコストが高すぎ、もはや事業として正当化されない」と発言。事実上、原子力事業からの撤退を宣言している。

 この発言の直接のきっかけになったのは福島原発事故なのだが、それより前から原子力事業のリスクの大きさは各社の中でも意識されるようになっていた。かつては原子力事業におけるGEのライバルであった名門企業WHが身売りされたのも、こうした事情が大きく関係している。

 この時点で東芝が米国の潮流が変わったことを受け入れ、WHの事業についてもリストラを実施していれば、今回のような事態には至らなかっただろう。東芝経営陣が米国の状況を理解できていなかったはずはないのだが、なぜか経営陣はその決断を下すことができなかった。

 さらに遡れば、東芝によるWH買収そのものが、かなり無理のある案件だった。先にも述べたように東芝はGEとの関係が深く、東芝が製造する原子炉の形式はGEと同じBWR(沸騰水型)である。しかしWHが主に製造していたのはPWR(加圧水型)で、炉の形式が異なっている。

 WHは日本において三菱重工に技術供与を行っており、三菱の炉の形式はPWRである。したがって、WHの買収によってシナジー効果を得やすいのは東芝ではなく三菱の方であった。

消去法的に原子力を主力事業に据えたのではないか

 実際、WHの買収には三菱重工も名乗りを上げていたが、東芝が提示した価格があまりにも高く買収を断念したという経緯がある。ただ、この話は売却サイドから見た場合、日本メーカーに競わせ、値段をつり上げるための作戦だったようにも思える。

 東芝はもともと原子力事業にはそれほど積極的ではなかった。他部門の業績が悪化したところに、このような大型案件が転がり込み、消去法的に原子力事業を主力事業に据えた印象が拭えない。

 もちろん買収案件をきっかけにビジネスモデルを転換するというケースはあるだろう。だが、WHはかつての輝きを失ったとはいえ、原子力技術を確立した名門企業である。こうした企業が売却を打診してくる時には、より慎重に対応する必要がある。グローバルに通用するプロ経営者や投資ファンドの力を駆使しても、事業の立て直しが困難な状況に陥っており、他に買い手が付かない案件である可能性が高いからだ。

 当時、同様の指摘は一部から出ていたが、メディアでは「原子力ルネサンス」「世界を震撼させた」「選択と集中」など、めまいがしそうな記事のオンパレードとなっており、懸念を表明する声は完全にかき消された状態であった。結果的に東芝は、GEですら撤退した米国の原子力事業に邁進し、原発事故によって米国内の潮流が変わった後も、方針を見直すことができなかった。
 危険で派手な行動を取ることと戦略的に行動することは根本的に異なる概念だが、日本では時として両者が混同される。戦略というものが存在していれば、途中で判断ミスに気付き、軌道修正ができたはずである。だが、戦略不在ではこれもままならない。残念ながら東芝の経営には戦略と呼べるようなものはなかったと言わざるを得ないだろう。