ヒット映画のキーワードは「空襲」

ヒット映画のキーワードは「空襲」-ブラピ&ロバート・ゼメキスティム・バートン…世界の映画人が込めたメッセージは

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海賊とよばれた男」のB29が飛来する東京大空襲シーンは圧巻だ (C)2016「海賊とよばれた男」製作委員会 (C)百田尚樹講談社

 現在公開中のヒット映画のキーワードは“空襲”かもしれない。ハリウッドスター、ブラッド・ピットマリオン・コティヤールの豪華共演で話題のロバート・ゼメキス監督最新作「マリアンヌ」、鬼才ティム・バートンのSF大作「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」、日本の山崎貴監督の邦画大作「海賊とよばれた男」、宮崎駿監督の演出補を務めた片渕須直監督のアニメ「この世界の片隅に」。これら日米4本の映画はまったくジャンルが違うが共通点がある。“空襲”だ。いずれも爆撃機が登場し、主人公たちの日常生活を奪っていく。なぜ平和な今、世界の巨匠たちは同時多発的に“空襲”の恐怖を映画で描くのか。(戸津井康之)
繰り返される空襲シーン

 「何度も何度も防空壕へ逃げ込む場面を描いています。こんなに空襲シーンが描かれた作品はこれまでなかったと思いますよ」

 昨年11月の公開以来、上映館を拡大させながら異例のロングヒットを続けている「この世界~」の原作者である漫画家、こうの史代さんは取材中、苦笑しながら語り、こう続けた。「でも、これが第二次世界大戦中の広島の人々の日常生活の姿だったんですよ」と。

 広島市で生まれ育った18歳のすずは昭和19年、結婚し呉市へ。軍港・呉への米軍機による空襲は連日激しさを増していく。そして20年8月6日、広島市へ原爆が投下される…。

 広島出身のこうのさんは、戦時下の市民の日常生活を漫画で克明に描くために、地元の戦争体験者たちに会い、多くの証言を集めて原作を描いた。

 「実は連載中、出版社の編集部では不評だったんです。淡々と日常生活を描いていただけだから…」とこうのさんは明かした。

 だが、隣で聞いていた片渕監督はこう反応した。「映画館で涙を流している人は多い。私は原作に忠実にアニメ化した。原作がいかにドラマチックだったかということの証明です」
胸に突き付ける空襲映像

 次に「マリアンヌ」。
 第二次世界大戦下、ロンドンで新婚生活を送る英国諜報員マックス(ピット)と妻、マリアンヌ(コティヤール)と生まれたばかりの一人娘。ある夜、3人が暮らす家の上空にドイツ軍の爆撃機が飛来、その中の一機が被弾し、墜落するシーンには思わず息をのむ。

 炎をあげて落ちてくる爆撃機。家族を守ろうと2人を抱いてうずくまるマックス…。これまで「バック・トゥ・ザ・フューチャー」など数々のエンターテインメント大作を手掛けてきたハリウッドの巨匠、ロバート・ゼメキス監督は、一瞬にして日常の幸せが奪われる恐怖を、圧倒的な迫力あるCG映像で見る者に突き付けてくる。

空襲は非日常の世界か?
 なぜ今、これほどひんぱんに空襲シーンが世界の映画の中で描かれるのか?
 ゼメキス監督は64歳、バートン監督が58歳、そして日本の山崎監督は52歳、片渕監督は56歳、こうのさんが48歳。

 いずれも両親が第二次世界大戦を経験している世代のクリエイターたちだ。
 もし両親が空襲の被害に遭っていたら自分たちの現在はどうなっていたのか。そんな自らへの問いかけを映像や漫画で提示したかったのではないだろうか。

 平和な今、空襲という出来事は遠い過去の非日常の世界なのだろうか?
 私はそうは思えない。亡くなった私の母も生前、よく幼い頃の空襲の体験談を語っていた。
 「空襲警報が鳴ると、防空頭巾をかぶって防空壕の中へ駆け込んだ。家の中の照明にはすべて黒い布をかぶせ、夜は暗くて本当に怖かった…」と。

 広島に原爆が投下された3日後の昭和20年8月9日。米爆撃機B29は2つ目の原爆を投下するため、目的地・北九州市を目指していた。ところが上空に霧や煙が漂い視界が悪かったため、機体は進路を変更し、第二目的地である長崎市へ向かい原爆を投下した。

 北九州市に住んでいた母は当時6歳。もしその時間、上空が晴れ渡っていたら、私はこの世に生まれていなかったかもしれない。空襲は決して“遠い過去の非日常”ではない…。

 空襲を描いた日米映画4作品を見て、改めてそう実感した。当時、世界中で空襲が行われた。運が悪い人は命を落とし、運がいい人は助かった…。生死は偶然で決まり、生きていることは奇跡なのかもしれない。

 だからこそ現在、生きている我々は命のありがたみ、尊厳を訴え続けなければならない-。4作品が描く空襲シーンから、こんなクリエイターたちの心の叫び、鮮烈なメッセージが聞こえてくる。

 これに対し、「海賊とよばれた男」冒頭の米爆撃機B29による東京大空襲のシーンもハリウッド大作に負けない臨場感に満ちたCG映像だ。空襲で家を焼かれた出光興産創業者、出光佐三が石油事業で日本を再生させようと決意を固める場面を、山崎監督率いる日本屈指のVFXチームが渾身の技術で映像化している。

 一方、「ミス・ペレグリン~」で描かれる空襲場面は一風変わっている。
 舞台は現代。内気な少年ジェイク(エイサ・バターフィールド)は唯一人の理解者である祖父の冒険話を聞くことに夢中になっていた。ある夜、ジェイクは、祖父が話していた第二次世界大戦中の1940年9月3日にタイムスリップ。そこで目の当たりにした光景は、ドイツ軍機による空襲だった。知り合った子供たちと一緒に逃げ出そうとしたとき。爆撃機から投下された爆弾が目の前まで迫っていた。だが、直撃するかと思った瞬間、タイムスリップし…。

 ゼメキス監督は64歳、バートン監督が58歳、そして日本の山崎監督は52歳、片渕監督は56歳、こうのさんが48歳。

 いずれも両親が第二次世界大戦を経験している世代のクリエイターたちだ。
 もし両親が空襲の被害に遭っていたら自分たちの現在はどうなっていたのか。そんな自らへの問いかけを映像や漫画で提示したかったのではないだろうか。

 平和な今、空襲という出来事は遠い過去の非日常の世界なのだろうか?
 私はそうは思えない。亡くなった私の母も生前、よく幼い頃の空襲の体験談を語っていた。
 「空襲警報が鳴ると、防空頭巾をかぶって防空壕の中へ駆け込んだ。家の中の照明にはすべて黒い布をかぶせ、夜は暗くて本当に怖かった…」と。

 広島に原爆が投下された3日後の昭和20年8月9日。米爆撃機B29は2つ目の原爆を投下するため、目的地・北九州市を目指していた。ところが上空に霧や煙が漂い視界が悪かったため、機体は進路を変更し、第二目的地である長崎市へ向かい原爆を投下した。

 北九州市に住んでいた母は当時6歳。もしその時間、上空が晴れ渡っていたら、私はこの世に生まれていなかったかもしれない。空襲は決して“遠い過去の非日常”ではない…。
 空襲を描いた日米映画4作品を見て、改めてそう実感した。当時、世界中で空襲が行われた。運が悪い人は命を落とし、運がいい人は助かった…。生死は偶然で決まり、生きていることは奇跡なのかもしれない。

 だからこそ現在、生きている我々は命のありがたみ、尊厳を訴え続けなければならない-。4作品が描く空襲シーンから、こんなクリエイターたちの心の叫び、鮮烈なメッセージが聞こえてくる。