介護の現場でまかり通る「理不尽なルール」ご存知ですか?

介護の現場でまかり通る「理不尽なルール」ご存知ですか?
厚労省の奇妙な言い分

「なぜダメなのか」が理解できない

介護の現場で何が起きているのか。政府の規制改革推進会議(大田弘子議長)が2月21日、東京・霞が関で公開ディスカッションを開いた。
あきらかになったのは、家族用の食事など保険外サービスの同時提供を認めない厚生労働省の頑なな姿勢だった。

高齢の要介護者にヘルパーが付き添って食事や入浴、リハビリなどの世話をする。これは介護保険が適用されるサービスだ。ところが、要介護者と暮らす家族に対して、食事や買い物といった保険外のサービスを同時一体的に提供するのは認められていない。

ヘルパーが要介護者の食事を作るなら、一緒に家族の食事も用意してもらえないか、という声はけっして例外的ではない。家族分は当然、保険外になるが、別料金を支払ったとしても、その方が便利で家族も助かる場合があるからだ。保険外サービスを頼むかどうかは、もちろん利用者の選択次第である。
現行の介護保険制度の下で、なぜ保険内サービスと保険外サービスの同時一体的な提供が認められないのか。
なんとか柔軟に運用改善できないのか、というのが公開ディスカッションを開いた規制改革推進会議の問題意識である。
参加したのは厚生労働省の担当者をはじめ、介護の現場で働く関係者たち、それから規制改革推進会議で医療・介護・保育ワーキンググループ(WG)を担当する林いづみ座長ら委員たちだ。私は委員の1人としてモデレーターを務めた。

念のために言えば、厚労省は保険内サービスと保険外サービスの併用を全面的に禁止しているわけではない。だが、実際には「保険内と保険外を明確に区分する」など厳しい条件を設けて事実上、規制している。たとえば調理時間が同じだと認められない。
なぜ同時併用はダメなのか。
厚労省は問題点として次の5点を挙げた。

●利用者の負担が不当に拡大する恐れはないか
●トラブルが生じた際の救済をどうするか
介護保険の理念である自立支援・重度化防止を阻害する恐れはないか
●給付費の増加につながる恐れはないか
●規制を緩和した場合にかかる追加の行政コストがメリットに見合うか


これに対して、委員たちからは「保険外サービスの内容と料金をしっかり説明すればいい」「トラブルについては別途、救済措置を講じればよい」「保険内と保険外を切り分けるガイドライン厚労省が作成すべきだ」などと反論した。

保険外のサービスを追加で頼むのだから、利用者負担が増えるのは当然である。だが、厚労省が言うように「不当に」負担が増えるとは言い切れない。事業者がサービス内容と料金をしっかり説明し、利用者がそれを正しく理解していれば、問題が生じる可能性は少なくなるだろう。

委員たちが保険内と保険外サービス同時併用の解禁を求めたのは、要介護者と家族が一緒に暮らす普通の介護の現場では「保険外部分を明確に切り離す」と言っても、実際にはなかなか難しいからだ。
家族は要介護者と同居している。すると台所はもちろん、

調理用具も同じになる。食事時間も同じとすれば、たとえば、ヘルパーが要介護者用のスープを作る際に家族用に煮物も一緒に作ってもらえたら便利だろう。
家族が仕事を持っていればなおさらだ。

私は「厚労省が負担増を懸念しているのであれば、なおさら保険内と保険外の区別をはっきりさせるために、自治体向けガイドラインが必要ではないか」と指摘した。介護保険の運用は自治体に任されている。保険内と保険外のグレーゾーンにあるサービスの取り扱いが自治体や担当者の裁量に任されている実態もある。

「家族用の食事など保険外サービスを利用したい」というニーズはあるのに役所が認めないと、何が起きるか。
結果として、現場のヘルパーと家族の裁量に委ねられて、謝礼などの形で不明瞭なサービスが生じかねない。不明瞭な区分が不明瞭なサービスを生む原因になる。それでいいのか。

いっそ「ぐるなび」に任せてはどうか

保険外サービスの例として、日本在宅介護協会の代表は、要介護者がヘルパーを指名するパーソナルスタッフ制度や時間帯指定制度の創設を提案し、さらに要介護者以外の部屋の掃除や家族分の調理、選択、買物などを例示した。

厚労省の担当者は時間帯指定制について「食事サービスの希望時間帯は朝と夕方に集中する」などの理由を挙げて反対した。だが、時間帯別料金を設定することで利用時間がばらつき、結果としてサービス全体が効率的になる可能性もある。

介護事業をビジネスの観点から見れば、保険外サービスの充実は事業の多様化を促して、ひいては介護職の処遇改善につながるかもしれない。安倍晋三政権は家族を含めて介護者の負担を減らし「介護離職ゼロ」を打ち出している。ここは厚労省の再考を促したい。

もう1つのテーマは、介護を含めた福祉施設の第三者評価をめぐる問題だった。親にいざ介護が必要になったとき、どうやって介護施設を選ぶか。多くの国民が現実に直面している切実な問題であるにもかかわらず、実際には途方に暮れるケースが多い。

なぜかといえば、選びようにも選び方が分からないからだ。
実は、利用者が介護施設を比較検討するために都道府県が情報提供する仕組みがすでにある。インターネット上で「介護サービス情報公表システム」(http://www.kaigokensaku.jp)と検索すれば、厚労省都道府県の情報(約19万施設)をまとめて紹介しているから、比較検討ができないわけではない。

ところが、このサイトは一般に知られていない。公正取引委員会の調査によれば「介護サービス情報公表制度を利用したことがない」と「利用したかどうか分からない」が合わせて92.5%に上った。つまり、ほとんど使われていないのだ。

いくつか候補の施設が見つかったとしても、どれがいいかとなると、そこでまた迷ってしまう。施設内容を第三者の目で客観的に評価する仕組みもあるにはあるのだが、そんな第三者評価を受けた施設が極めて少ないからだ。

公取委の調査によれば、介護サービス事業者の第三者評価受審率は特別養護老人ホームで6.41%、訪問介護で0.29%、通所介護で0.58%にとどまっている。利用者に対するアンケート調査でも「第三者評価の結果を参照した」との回答は8.8%にすぎなかった。

つまり第三者評価という仕組みはあっても、これまたあまり使われていない。都道府県の推進組織が認証している第三者評価機関がどのくらいあるかといえば、2016年3月末現在で412機関に上っている。そんな数字自体が私には驚きだった。

これは、一言で言えば「仏作って魂入れず」である。委員の中からは「使われない仕組みを放置しているくらいなら、いっそ民間の『ぐるなび』にでも任せたほうがいいのではないか」という声も出た。私も同感だ。
委員からは「現行のabc(注・いわば優良可)評価に加えて、未受審施設はd(不可)評価にしたらどうか」など改善提案があった。私は未受審施設は先のサイトでレッド表示したらいいと思う。第三者評価を受けないような施設には「レッドカード」を出すのだ。

厚労省も現状に問題がある点は認めている。委員や会場参加者からの批判に押されて、担当者は「今日の議論を受けて改善策を検討していきたい」と答えた。厚労省は仕組み全体に予算を付けているのだから、当然である。

介護問題は「仕組みさえ整えればいい」という話ではない。仕組みがあっても現実にそぐわない部分は柔軟かつ大胆に改める必要がある。厚労省は保険外サービスの同時併用や第三者評価のあり方について、利用者目線に立って知恵を絞ってもらいたい。