「全固体蓄電池」2年後に実用へ スマホ、EVなど安全・高性能化 他の次世代型も猛追

「全固体蓄電池」2年後に実用へ スマホ、EVなど安全・高性能化 他の次世代型も猛追

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次世代リチウム蓄電池

 携帯機器や電気自動車などに使う次世代蓄電池の開発が加速している。現在のリチウムイオン電池より安全で高性能な新技術の研究が活発化しており、本命視される「全固体電池」は2年後にも実用化する見通しだ。(伊藤壽一郎)

 小型で高出力のリチウムイオン電池は1991年、ソニーが世界で初めて発売。充電して繰り返し使える蓄電池に革命を起こし、スマートフォンや電気自動車を実現させるなど社会を大きく変えた。

 課題は安全性と性能の向上だ。可燃性の電解液を使うため液漏れや発熱などに伴い発火する恐れがあり、昨年は韓国サムスン電子製のスマホ発火事故が多発した。性能面でも、蓄える電気の量を増やすことなどが求められている。

延びる走行距離

 そこで注目されているのが電解液を固体に変えた全固体電池だ。固体は電気を運ぶリチウムイオンの移動が困難とされてきたが、東京工業大の菅野了次教授が昨年、新たな素材を開発して解決した。

 硫黄とリチウムなどの化合物が格子状に並ぶ結晶構造が特徴で、その隙間をリチウムイオンが従来の2倍の超高速で動く。蓄電量は2倍で充電も速い。液漏れの心配はなく100度の高温にも耐える。

 リチウムイオン電池は、電解液を正極側と負極側に隔てるセパレーターという部品を使っているが、これが不要になり、構造が単純で作りやすいのも利点だ。

 電気自動車が1回の充電で走行できる距離は、2020年ごろに350キロで頭打ちになるとみられる。ガソリン車の給油1回の走行距離500キロに劣るが、全固体電池なら距離を大幅に延ばせる。ロボットや小型無人機ドローンに使えば行動範囲が拡大。風力発電などの電力を貯蔵する施設も大型化できそうだ。

 ただ、硫黄を含むため、空気中の水分と反応し有毒な硫化水素が発生する可能性があり、密閉性の強化や生じたガスを吸着するなどの対策が必要になる。
空気も電極に

 次世代の候補はまだある。リチウムイオン電池は正極にリチウム化合物、負極に炭素を使うのに対し、正極に硫黄、負極に金属リチウムを使うのが「リチウム硫黄電池」だ。硫黄は安価なため大型化が容易で、家庭用の電力貯蔵への利用が期待される。

 放電時に硫黄が電解液に溶け耐久性が低いのが欠点だったが、横浜国立大の渡辺正義教授が11年、硫黄が溶けない電解液を開発。寿命を10倍に延ばすことに成功した。

 空気を利用する「リチウム空気電池」もある。正極の炭素材料に多くの隙間があり、ここに含まれる空気中の酸素とリチウムイオンが放電時に結び付く。酸素は無尽蔵に供給されるため、蓄電量はリチウムイオン電池の3~5倍に達し、飛躍的に長時間の利用が可能になる。

 ただ、負極に使う金属リチウムは空気中の水分に触れると発火する恐れがあり、表面に水分を通さない被膜を作るなどの解決方法を研究中だ。

 科学技術振興機構で次世代蓄電池の開発プロジェクトを統括する首都大学東京の金村聖志教授は、実用化の時期を全固体電池が19年、リチウム硫黄は20年、リチウム空気は23年ごろとみている。
「脱リチウム」

 さらに未来の蓄電池は別の金属を使うことになりそうだ。リチウムは高価な希少金属で、日本は輸入に頼っているため、元素戦略上のリスクが大きいからだ。

 蓄電池は充放電を繰り返すと、通電を阻害する物質が電極に付着して性能が落ちる。これを防ぐためセパレーターを使うが、リチウム以外の金属では効果が不十分だった。

 金村教授は08年、微細な穴が無数に開いた新型セパレーターを開発。阻害物質が移動して付着するのを防ぎ、マグネシウムカリウム、ナトリウムなどのありふれた金属で蓄電池を作る道を開いた。

 蓄電池の世界市場は20年に20兆円に達するという。次世代開発は日本が先行しているが、米国や中国も強化しており、特に米国は人工知能(AI)を駆使した材料開発に乗り出した。金村教授は「日本も経験と勘だけでなくAIの活用を急ぐ必要がある」と危機感を募らせている。