MITが人間の思考を読み取るロボットを開発

[FT]MITが人間の思考を読み取るロボットを開発

2017/3/7 14:02

 米国の研究者が思考を読み取る装置を開発して、人間からロボットへのテレパシーでの意思疎通に一歩近づいた。この装置を使えば、人間が脳波だけで即時にマシン(ロボット)の誤りを是正することが可能だ。
人間の思考を読み取るにはまだ写真のような頭部装着型の脳波計キャップをかぶる必要がある=ロイター

 マサチューセッツ工科大学(MIT)が開発したブレイン・コンピューター・インターフェース(BCI)のプロトタイプは、ロボットが誤った行動をとった際に、人間のオブザーバー(観察者)がロボットに即座にエラーメッセージを送信して誤りを修正させることが可能。人間が思考だけで直感的にロボットと交流できる技術は、ロボット義肢から自動運転車に至るまで幅広く応用できる。

 MITコンピューター科学・人工知能研究所(CSAIL)のダニエラ・ラス所長は「コマンド(命令)を打ち込むこともボタンを押すこともなく、さらには何も言わなくても、ロボットに瞬時に一定の動作を行う指示が出せるようになると想像してみてください」と語った。また、「このような合理化されたアプローチにより、工場用ロボットや無人運転
、未開発の技術などに対する我々の監督能力が向上する」とも述べた。

 MITのプロトタイプは、EEG(頭部装着型の脳波計)キャップを用いて人間の脳の活動を記録するしくみだ。今回は対象物を二つに分類するといった単純な二択を処理する設計ではあったものの、ラス教授は、開発を進めることでさらに複雑な処理を行うロボットと人間が意思疎通できるようになると期待している。

 BCIは科学分野で最もホットな研究項目の一つだ。他の研究所も、身体障害者がロボット義肢を動かすことや、まばたきさえできないほどまひ状態の「閉じ込め症候群」の患者がコミュニケーションをできるようにするBCIの開発に取り組んでいる。

 問題は、これらのシステムが一般的に電子インプラントか、あるいは、EEGを使用する場合は、コンピューターに利用者の脳波を認識させるための膨大な訓練を必要とすることだ。

 ボストン大学神経科学者と共に研究に取り組むMITのチームは、誤りに気付いた時に脳から出る「エラー関連電位(ErrPs)」と呼ばれる脳信号に着目した。チームの機械学習アルゴリズムが100分の1秒以内に感知する観察者の脳波から、特有の神経パターンがあることに気付いたのだ。

 ラス氏は「ロボットを見ているときにするのは、ロボットが行っている動作について心の中で賛成か反対をするだけだ」と説明したうえで、「人間側に一定の思考を行うための訓練は必要ない。ロボットが人間に合わせてくれるのであり、その逆は必要ない」と述べた。

 「バクスター」と呼ばれるこのロボットは、訓練したこともない、事前にEEGを装着したこともない12人のボランティアが発するエラー信号を識別した。バクスターが間違った物を間違ったボックスに入れるのを人間の観察者が見たら、動作の修正に間に合うように脳信号がロボットに届く。ErrP信号は非常に弱い場合もあり、ロボットが誤りを修正しなかった場合は、システムが脳から出されるそれよりも強い「2番目のエラー」のメッセージを検知することもある。

 ラス氏は「現在、ロボットの意思伝達能力はあまり高くない。ロボットが我々の考えを読み取れるようになるかどうかを考えよう」と述べた。同氏は今回の進歩について、自身が「広がるロボット工学」と呼ぶ時代に新時代が到来したとの見方を示している。このテクノロジーは、自動運転車の同乗者を効果的な「後部座席のドライバー」にしうるものだ。

 このプロジェクトには参加していないフライブルク大学のウルフラム・バーガード教授は「この成功により、脳で制御できるロボットや義肢に用いる効果的なツールの開発に近づいた」と述べた。

By Clive Cookson
(2017年3月7日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/

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