『米中もし戦わば 戦争の地政学』 「戦争が起きる確率は70%以上」

『米中もし戦わば 戦争の地政学』 「戦争が起きる確率は70%以上」



 ■対中政策の要が説く「平和」
 昨年、翻訳書の編集者にとって最大のテーマは、米大統領選だった。最有力候補のヒラリーが勝つのか、それとも大穴のトランプか。書籍の刊行には時間がかかるため、11月に行われる本選の少なくとも半年前には、その「選択」をしなければならなかった。

 私たち文芸春秋国際局は、トランプが当選すると見た。そして2冊の本の企画をスタートさせた。1冊は、ワシントン・ポスト取材班による『トランプ』。もう1冊がこの『米中もし戦わば』だ。

 対中強硬派として知られる著者は大統領選中、トランプ陣営の政策顧問だった。彼は本書において、世界史の実例から「米中戦争が起きる確率は70%以上」という、衝撃的な数字を導き出している。その現実を前に、両国の軍事力や最新兵器、そして尖閣諸島南シナ海をめぐる地政学を丹念に分析。海洋進出する中国に対し、日本を中心とした東アジアに位置する米軍を強化して「力による平和」を実現せよと説いている。

 結果、トランプ大統領が誕生した。著者は新設された国家通商会議のトップに任命され、政権内で対中政策のブレーンを務めることになった。

 そのニュースを知った当日、それまでも何度かやりとりを重ねていた著者に就任を祝うメールを送った。返信は3日後だった。「ホワイトハウスに入ることになった。申し訳ないが、これまでのように連絡はできない」と。著者が閣僚入りしたことで、本書に描かれた世界は確実に、現実へと近づいている。

(ピーター・ナヴァロ著、赤根洋子訳、飯田将史解説/文芸春秋・1940円+税)
 文芸春秋国際局・坪井真ノ介