「電線を地中に」、都心部主要道路では

「電線を地中に」、都心部主要道路では

全国に約3500万本あるとされる電柱。五輪開催地である東京都の小池百合子知事が、歩行者の安全や防災、景観の観点から電線を地中に埋めて電柱を撤去する「無電柱化」を呼び掛けており、関心は全国的に高まっている。
  電柱のないロンドンやパリなど世界の主要都市に対し、日本で最も進んでいる東京23区でさえ無電柱化率は7%、全国では1%にとどまる。戦後復興時にスピード重視で地上の電柱に電線を架ける形で全国的に張り巡らせた結果、地中化が遅れた。過去30年間、国主導で無電柱化の取り組みを進めているが、費用が課題となり2000年代中盤をピークに整備のペースは伸び悩んでいる。
  無電柱化の遅れを取り戻すため、政府は16年末に無電柱化推進法を施行。これに基づき国土交通省は今後5年間程度の国の無電柱化計画の策定を進めており、地方自治体にも計画策定の努力義務を課した。国土交通省道路局環境安全課の田中誠柳課長補佐は、ブルームバーグの取材に「海外から多くの観光客が来るオリパラを契機に、東京以外の無電柱化も進めていく」と話した。

  無電柱化を公約に掲げた小池氏が昨年6月末に都知事選への出馬を表明すると、株式市場では電線地中化で恩恵を受ける電線メーカー、コンクリート製品メーカー、工事を請け負う企業など関連する企業の株が買われ、右肩上がりで上昇する銘柄が相次いでいる。
東京スカイツリーと電線
Photographer: Akio Kon/Bloomberg
  自身も阪神淡路大震災の被災者として倒壊した電柱が救援・復旧活動を停滞させる現実を目の当たりにした小池氏は知事就任前から無電柱化に関心を示しており、3月31日には都道に新たに電柱を設置することを禁止する無電柱化推進条例案発表した。

  当面は東京五輪の1年前までに、競技会場や首都機能が集中する首都高速中央環状線内の拡幅済みの都道で無電柱化100%(15年度末時点の無電柱化率92%)を実現させる計画。最終的には、都内全域の拡幅済みで地中化に十分な歩道幅もある総延長2328キロメートルの都道(同38%)を無電柱化したい考えだ。

1kmで5億3000万円

  国交省によると、最大の課題となる費用は一般的に1キロメートル当たり5億3000万円。このうち道路を管理する国や地方自治体が3億5000万円、電力・通信会社が1億8000万円を負担する。15年度末時点で未整備の都道約1442キロメートルの無電柱化に必要なコストを試算すると7643億円。従来の電線や通信ケーブルを専用の管に入れて埋設する電線共同溝という工法では、ガスや下水管を移設する必要もあり、400メートル整備するのに設計段階から完成まで約7年かかる。

  国や地方自治体が負担する土木工事費の削減に向けて、政府は従来に比べ浅く埋設することで費用を1割削減できる工法や、小型ボックスを連ねて電線や通信ケーブルを収納するという3割の費用削減が可能な工法も16年度の規制緩和で導入可能にした。さらにケーブルを地中に直接埋設することで7割の削減が可能になる工法の技術検証も進めており、低コスト化で地方自治体の無電柱化を支援する意向だ。

  一方、3分の1の費用を負担する電力・通信会社側の合意も得る必要がある。東京電力パワーグリッド配電部の今別府誠・無電柱化推進グループマネージャーは、東京電力ホールディングスが年5000億円の福島第一原発の事故処理費用捻出を迫られる中、「1円でもコストはかけたくないが、無電柱化は国策でもあり、徹底的にコストダウンして捻出する」と述べた。今後5年間は年165億円の予算の確保を見込んでいる。