「政治家と官僚は東電問題を解決したくない」
「政治家と官僚は東電問題を解決したくない」
東京理科大の橘川武郎教授インタビュー
東京電力が再建計画「新々総合特別事業計画」を発表し、新たな枠組みが定まりつつあります。どのように評価していますか。
橘川:東電の新々総特については、東電の関与が残存している限り、他電力は「福島リスク」の波及を恐れて、原子力分社・連携案に参加するはずはなく、実現可能性は皆無だと思います。
せっかく、川村隆氏のような立派な経営者を招聘しても、実現性がない新新総特を押し付けられては、数土文夫会長の場合と同様に、身動きがとれなくなるでしょう。
そもそもの問題からお話します。
福島の事故処理費用が21兆5000億円。東電がすべて出せる訳ではないので、多くの部分が国民負担になります。
ただ、けじめがありまして、少なくとも廃炉は東電の負担。除染、賠償の費用は東電が出すべきだが、被災者に払えないと問題なので国民負担にならざるをえないのでしょう。電力会社が送電線を利用する託送料から徴収し、電気料金を通じて国民が負担するという仕組みは、仕方がない面があります。
それでも物事には順番があります。
これだけ国民が巨額負担をするのですから、東電がやるべきことを全部する。資産売却をしなければなりません。まずは柏崎刈羽原子力発電所。火力発電所も資産売却の対象となるでしょう。
柏崎刈羽は別の事業者が運営するということですか。
橘川:そうです。私は反原発ではありません。日本経済のために柏崎刈羽の騰水型軽水炉(BWR)を動かした方がいいでしょう。その立場から東電は邪魔だと言っています。地元が納得しないでしょう。地元なので東北電力が絡まざるを得ませんが、キャッシュが足りません。
受け皿としてなぜ原電がいいのでしょうか。
橘川:原電は今、「原発なき原電」になっています。3つある原発のうち、敦賀1号は廃炉、2号も活断層で問題になって再稼働が厳しい。東海村はさほど原発を必要としていないので、柏崎刈羽より動かすのが難しいでしょう。最終的に頼みの綱だったベトナムへの原発輸出も望みがなくなりました。
こうした事情から、原電が生きる道は柏崎刈羽のオペレーションになります。私は原電を「問題児沸騰水オペレーション会社」と呼んでいます。
閉塞感のある電力の小売り市場が活性化するかもしれません。
橘川:浜岡原発と大間原発まで動いて卸売市場に流したら、シェアは高まるでしょう。ターゲットは8%です。米国の電力卸市場関係者は、最低8%は卸市場がないと自由化は成り立たないと話していました。「日本には卸市場がほとんどないのに、自由化がうまくいくわけがない」と。
東京電力と共同出資でJERAを設立した中部電力の経営陣は、こんな展開を読み切っていたのではないでしょうか。浜岡では地震対策をやって再稼働させることを追求し、最終的には株主に国を訴えさせる、そんな狙いがあるように見えます。そうでないと、会社が株主から訴えられます。
東京電力には残す事業は何ですか。
東電委員会ではPGまで再編しようという議論がありましたが、安定収入の素がなくなってしまいます。
EPが基盤とする東京はすごくいい市場です。住宅が途切れない都市圏という定義だと世界一の広がり、という見方があります。
自由化後の離脱率は10%に満たず、EPがその顧客を取り返せる可能性もあります。
大手電力系の小売りの中で、東電の小早川社長が一番まともだと思います。関西電力などは、原発が再稼働すれば安い電力を手に入れられるのでそれから値下げできるという姿勢で、まじめに小売りをやっているように見受けられません。
東電のPGとEPから継続的に賠償の負担をできるのではないでしょうか。そうすると東電問題は解決に向かっていくように思います。
世界の経営史でこんな会社はありません。みんな逃げるか、潰れてしまうのです。儲かる仕組みがあり、新しい技術者が入って、賠償を続けています。50年経ったら東電は立派な会社だったね。と言われるように今、頑張らないといけません。
水俣の町は環境問題のために世界で有名になりました。賛成か反対かではなく、こうした前向きな話をしていくべきです。
日本のように原発も火力もダメだと、選択肢は省エネと再エネしかなく、対案が作れません。時間の稼ぎ方の対案がないのです。
東電に批判的な人の間でも、具体的な対案について議論は活発になされていません。そうした状況の中で議論が深まらず、先送りの案が採用されているように映ります。
橘川:これまでの東電改革は、ごまかしが続いてきました。官邸は原発の建て替えを言いません。政治は次の選挙までの短期的な視野で考えています。資源エネルギー庁は様々な問題を分かっていますが、官邸と次のポストを気にして、結局は3年先しか考えていません。
東電問題がすっきりするのは、政治家と官僚にとってリスクなのです。東電という悪者がいるために、自分たちに批判の矛先が向かないからです。
最初は東電を悪者にして、その悪者の範囲を電力会社からガス会社に広げて、自由化のみに力を入れ、電力会社やガス会社を叩く構図が必要なのです。その一方で原発や東電については、できるところまで問題を先送りしたいのです。私には、政治家や官僚は東電が改革にもたもたしていることを望んでいるとしか思えません。