「色に染まった」委員会が主導する政治的声明

「色に染まった」委員会が主導する政治的声明 「反対できない」単位会元会長が吐露


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日弁連の政治的な意見表明の〝源流〟は委員会にある
 《弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする》

 安全保障関連法反対など政治闘争の色彩の濃い意見表明を行う日本弁護士連合会(日弁連)や単位弁護士会が決まって持ち出すのが、弁護士法1条がうたう「弁護士の使命」だ。
 安保法制は戦争のリスクを高める。戦争は最大の人権侵害だから弁護士会は使命に従い、果敢に行動するのだ、と。だが、ときに弁護士会の言う「使命」には首をひねらざるを得ないものもある。

 例えば、ミサイル攻撃のリスクが現実味を増してきた北朝鮮。平成18年、北朝鮮弾道ミサイル日本海に向けて発射し、非難が渦巻いていたときだ。
 異例の保守派だった当時の大阪弁護士会会長、小寺一矢=今年3月死去、75歳=によると、朝鮮学校の生徒がチマチョゴリを破られる事件があり、同会の人権擁護委員会が「卑劣」として対策を求める会長声明案を提案してきた。

 事件自体は許されない人権侵害だ。ただ、小寺は、国際情勢を踏まえた声明にしなければ国民の広い理解が得られないと考えた。北朝鮮が日本人を不法に拉致した事実とミサイル発射にも触れ、「無関係な子供に危害を加えるのは恥ずべき行為だ」という趣旨に変えると伝えると、委員会側は提案を引っ込めたという。
 「北朝鮮を支援する一派の影を感じた」。小寺は生前、そう述懐していた。
政治的意見の土台

 日弁連と単位弁護士会にはそれぞれ下部機関として委員会が設置されている。憲法や人権擁護などのテーマに分かれ、所属する会員弁護士が専門的な議論を重ね、会の姿勢や方向性を決める核となる。ときに弁護士会が出す政治的意見の土台をなすものだ。

 関係者によると、日弁連の場合、主に委員会の提案が会長と各単位会選出の副会長13人・理事71人で構成する理事会の審議にかけられ、原則として承認を得て表明されるのが意見書。ただ、緊急だったり、従前の日弁連意見と同趣旨だったりすれば理事会の審議を省略でき、正副会長の承認だけで表明できる。従前の意見書の範囲内にとどめる会長声明も同様だ。
 各単位会の仕組みも基本的には同じだ。委員会が提案する意見書は議決機関の常議員会の決議が必要だが、意見書の範囲内か緊急に出す簡潔な会長声明は正副会長の承認のみで表明できる。いわば委員会の主導で意見を出せる構造になっている。

 弁護士にとって委員会活動の負担は大きい。日弁連では、交通費などは支給されるが、基本はボランティア。メンバーは単位会の推薦、指名などで決まる。必然、会務に熱心な会員が中心となり、ある弁護士は「人権擁護など、委員会によっては左派が主導権を握ってしまう」と明かす。
 ある中規模単位会の会長経験者は「弁護士会がなぜ左寄りになるかというと、委員会が色に染まっているから」と語り、委員会に所属する少数の左派が政治的な会長声明案作りを主導する実態を吐露した。「『これが総意だ』と詰め寄られる。とても会長一人だけで『出せない』と反対することはできなかった」

「反主流派」も護憲では一丸
 「特定団体の人がリーダーシップを発揮し、日弁連の意見を誘導することもあった」。日弁連の元幹部は振り返り、誘導したのは「高山一派」と指摘した。

 日弁連の政治的な意見表明の〝源流〟は委員会にある
 高山とは、昨年の日弁連会長選で敗れた高山俊吉(76)を指す。執行部を批判する反主流派だ。かつて自民党が「共産思想を持つ団体」と見なして敵対した左翼法曹団体、青年法律家協会の一人でもある。
 高山は「戦前の弁護士会が戦争を翼賛した反省の上に戦後の弁護士会がある」という考えに立つ。ただ反主流派といっても、執行部との対立点は、法曹人口問題など弁護士の職域が絡むテーマが中心だ。
 委員会には反主流派も参加し、安保法反対など政治闘争では執行部と一致した行動をとるケースが多い。昭和25年の第1回定期総会の平和宣言以降、護憲に貫かれた日弁連の政治的姿勢に双方の違いはない。(敬称略)
 【用語解説】日弁連の委員会
 弁護士法などにより設置が義務づけられた法定委員会▽会則により定められた常置委員会▽理事会の議決で設けられた特別委員会-の3種類がある。法定委は資格審査会や懲戒委員会など7つ、常置委は人権擁護委員会など5つ、特別委は憲法問題対策本部、死刑廃止検討委員会など専門分野ごとに細分化され、76委員会に上る(いずれも平成28年度)。