世界初「可視光」で水素を生成、阪大の産研が高効率の光触媒

次世代エネ加速…世界初「可視光」で水素を生成、阪大の産研が高効率の光触媒

http://www.sankei.com/images/news/170601/wst1706010028-n1.jpg
黒リン(BP)、チタン酸ランタン(LTO)、金ナノ粒子(Au)の3物質からなる光触媒電子顕微鏡写真(大阪大学産業科学研究所提供)

 太陽光エネルギーを受けて水から水素をつくり出す光触媒は、二酸化炭素(CO2)を出さないクリーンな水素の使用が主力になる時代に欠かせない材料だ。このため、実用化に見合う性能に向上する研究が各国で進んでいる。その中で大きな課題のひとつは、太陽光に含まれる紫外光、可視光、近赤外光という異なる波長の光のエネルギーをすべて吸収して水素を生産する効率を高めることにある。

なぜなら、これまでの光触媒のほとんどが利用している光は、太陽光全体の3-4%に過ぎない紫外光のみ。44%を占める可視光、52%の近赤外光は吸収できなかったからだ。

■黒リンなど3材料の複合体
 大阪大学産業科学研究所の真嶋哲朗教授らの研究グループは、リン(P)の一種で幅広い波長の光を吸収する黒リン(BP)という物質などを使った光触媒を開発。可視光や近赤外光にも応答し、水からの水素生成を効率よく起こすことに初めて成功した。太陽光を無駄なく利用し、実用化するための突破口を拓(ひら)く技術開発につながりそうだ。

 光触媒は光の照射により、化学反応を進める触媒の作用があり、水を分解して水素と酸素を出したり、壁に付いたゴミなど有機物を分解したりする作用もある。代表的な物質は、本多・藤島効果で知られる二酸化チタン(TiO2)だ。

 研究グループは、次世代の半導体材料としても注目されている黒リンが、表面積の広い層状の構造をしていて、波長が短い紫外光から可視光、そして近赤外光まで強く吸収することに着目。黒リンと、層状構造のチタン酸ランタン(La2Ti2O7)という物質を重ねて超薄膜をつくり、さらに可視光を吸収する数ナノ(10億分の1)メートルサイズの金ナノ粒子を加えて、3種の物質の複合体をつくった(写真参照)。

 その結果、黒リンと金ナノ粒子が、それぞれ吸収可能な波長の光に反応する光増感剤として働いて複合体内部の電子のエネルギーを高め、その励起電子がチタン酸ランタンの層に移動し、プラスの電荷を持つ水素原子(H+)を還元することによって水素を高効率で生成することができた。

 真嶋教授は「次世代エネルギーとして検討される水素を基本としたエネルギー社会で、その根幹の太陽光による水素製造の実現へつながること、同時に環境問題の解決にも大きく貢献することが期待されます」と話す。ただ、今回、使用した黒リンは高価につくなどの問題があり、「今後、材料を検討するなど改良を重ね、安価で安全、繰り返し使える安定性を兼ね備えた光触媒を構築していきたい」としている。

次世代エネ加速…世界初「可視光」で水素を生成、阪大の産研が高効率の光触媒

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黒リン(BP)、チタン酸ランタン(LTO)、金ナノ粒子(Au)の3物質からなる光触媒電子顕微鏡写真(大阪大学産業科学研究所提供)

 太陽光エネルギーを受けて水から水素をつくり出す光触媒は、二酸化炭素(CO2)を出さないクリーンな水素の使用が主力になる時代に欠かせない材料だ。このため、実用化に見合う性能に向上する研究が各国で進んでいる。その中で大きな課題のひとつは、太陽光に含まれる紫外光、可視光、近赤外光という異なる波長の光のエネルギーをすべて吸収して水素を生産する効率を高めることにある。

なぜなら、これまでの光触媒のほとんどが利用している光は、太陽光全体の3-4%に過ぎない紫外光のみ。44%を占める可視光、52%の近赤外光は吸収できなかったからだ。

■黒リンなど3材料の複合体
 大阪大学産業科学研究所の真嶋哲朗教授らの研究グループは、リン(P)の一種で幅広い波長の光を吸収する黒リン(BP)という物質などを使った光触媒を開発。可視光や近赤外光にも応答し、水からの水素生成を効率よく起こすことに初めて成功した。太陽光を無駄なく利用し、実用化するための突破口を拓(ひら)く技術開発につながりそうだ。

 光触媒は光の照射により、化学反応を進める触媒の作用があり、水を分解して水素と酸素を出したり、壁に付いたゴミなど有機物を分解したりする作用もある。代表的な物質は、本多・藤島効果で知られる二酸化チタン(TiO2)だ。

 研究グループは、次世代の半導体材料としても注目されている黒リンが、表面積の広い層状の構造をしていて、波長が短い紫外光から可視光、そして近赤外光まで強く吸収することに着目。黒リンと、層状構造のチタン酸ランタン(La2Ti2O7)という物質を重ねて超薄膜をつくり、さらに可視光を吸収する数ナノ(10億分の1)メートルサイズの金ナノ粒子を加えて、3種の物質の複合体をつくった(写真参照)。

 その結果、黒リンと金ナノ粒子が、それぞれ吸収可能な波長の光に反応する光増感剤として働いて複合体内部の電子のエネルギーを高め、その励起電子がチタン酸ランタンの層に移動し、プラスの電荷を持つ水素原子(H+)を還元することによって水素を高効率で生成することができた。

 真嶋教授は「次世代エネルギーとして検討される水素を基本としたエネルギー社会で、その根幹の太陽光による水素製造の実現へつながること、同時に環境問題の解決にも大きく貢献することが期待されます」と話す。ただ、今回、使用した黒リンは高価につくなどの問題があり、「今後、材料を検討するなど改良を重ね、安価で安全、繰り返し使える安定性を兼ね備えた光触媒を構築していきたい」としている。