独裁国家に核・ミサイル放棄させるには実力行使

独裁国家に核・ミサイル放棄させるには実力行使 米国が北朝鮮を攻撃しなければ日本を最悪の危機が襲う

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 《米国第一=アメリカ・ファースト主義》を掲げる米トランプ政権が、北朝鮮の核・ミサイル開発問題で分水嶺に立たされている。米国だけの問題ではない。トランプ政権の決断を待つわが国の国運も、天国と地獄の分かれ道に立たされている。

 《米国本土に到達する核ミサイルの開発が最終段階に入りつつある現在、米国民の安全『第一』を最優先にすべく、北朝鮮に攻撃に踏み切るのか》
 それとも-

 《米国本土に到達する核ミサイルの開発が最終段階に入りつつある現在、米国民の安全『第一』を最優先にすべく、北朝鮮を核保有国として認め、既に日本や韓国に着弾させられる核ミサイルの実戦配備のみ容認し、代わりに米国本土に届く核ミサイルの開発・配備を断念させるのか》

 結論を先に言う。日本国内では、ディール(取引)が得意な経済界出身のドナルド・トランプ米大統領を念頭に、後者の懸念を口にする専門家が多い上、米国でも対北攻撃に積極的な関係者・専門家は少ない。しかし、小欄はこれまで通り前者の「主戦論」を採る。核・ミサイル開発を絶対止めない独裁国家に開発を放棄させる最終手段は、残念ながら実力行使以外に見当たらない。米国が日本を標的にする核ミサイルを容認するシナリオは、日米同盟の機能停止も意味し、戦後最大にして最悪の危機と化す。米国の「主戦論」を支持する他、わが国が危機を回避する戦略は現時点で、無い。 

 北朝鮮に対する米国の姿勢は、最短で7月中旬に現れるはず。4月上旬に行われた米中首脳会談の席上、2通りの《100日計画》が合意に至った経緯があるためだ。

 首脳会談で、トランプ大統領は、北朝鮮の対外貿易の9割を占める中国の習近平国家主席に対北経済制裁強化を要求。中国が協力しない場合、北朝鮮と取引する大手金融機関を含む中国企業を制裁対象に加える米国政府独自の新制裁実施を突き付けた。中国企業が制裁対象になれば、米国の金融機関や企業との取引が停止するので、習国家主席は、米中両国の貿易不均衡是正について同意した《100日計画》と並行し、安全保障分野でも同じ期限を設定するよう猶予期間を訴え、トランプ大統領が受けいれた。

 米中首脳会談の100日後は、おおよそ7月中旬に当たる。
 けれども、中国は制裁強化を巧妙に演じるだろうがヤル気なし。特に米中首脳会談以降、中国は北朝鮮に「かつて」なかったレベルの「強い圧力」を掛けてはいるが、「かつて」が弱過ぎで、「かつて」に比して「強い圧力」では、米国を満足させる効果はあげない。何しろ、中国が影響力を行使できる北朝鮮こそ、対米韓緩衝帯として最も利用価値が有る理想型。「生かさず、殺さず」というワケだ。

 実際、国連安全保障理事会の対北制裁決議で石炭に規制をかぶせても、中国の「配慮」によって鉄鉱石の対中輸出は増え、石炭の規制分を埋め合わせている。

 中国の「配慮」は対北輸出でも顕著。国連制裁決議後も、中国による1~4月期の対北輸出は前年同期比で増大(中国税関総署公表)した。中国は北朝鮮からの石炭輸入を規制して、国連や米トランプ政権に“協力的姿勢”見せながら、北が中国に頼る石油・鉄鋼製品を従来にも増して輸出しているのだ。

 米中首脳会談で習主席が、独自制裁の検討を示唆したといわれる北朝鮮向け石油は現在、パイプ・ラインによる輸出に偏重し、パイプ・ラインの「100%利用説」も出ている。国連の経済制裁に今後、石油がリスト・アップされても石油の流れは闇の中、否、「パイプの中」ということになる。

 また、北朝鮮は核・ミサイルに必要なハード&ソフト・ウエアを、中国企業や中国国内に展開するダミー会社や地方政府の闇ルートはじめさまざまな抜け道を使って入手する。2016年2月に発射されたロケットの破片を回収したところ、中国企業が欧州より密輸し、北朝鮮に売った圧力伝送器などが含まれていた。アフリカや東南アジアへの兵器輸出も、同種のルートで実行し、核・ミサイルの開発費に充てている。

 他方、中国が《中朝友好協力相互援助条約》第2条の不履行をかざし、北朝鮮を説得しているとの情報もある。1961年に中朝両国が北京で署名した中朝友好協力相互援助条約は第2条で《いずれか一方に対する、いかなる国の侵略も防止する》と定め、一方の国が武力攻撃され戦争状態に陥った場合、もう一方の国は《直ちに全力をあげて軍事及びその他の援助を与える》と明記されている。

 確かに2003年には、中国・国務院(政府)直属の中国社会科学院の世界経済・政治研究所が発行する論文集で《条約の軍事同盟部分の削除》を明言している。中国が条約改正を持ち出したとすれば、「少しは言うことを聞いたフリをしろ!」との脅しだろう。

 条約第7条では、双方が《改正又は終了について合意しない限り、引き続き効力を有する》とされる。第2条が廃棄されれば、休戦中の朝鮮戦争が再び戦端を開く前に北朝鮮の敗北が決まる。第2条廃棄に、北朝鮮が賛同する道理がない。第一、北朝鮮との軍事同盟は、米国を牽制する上でも、北朝鮮に介入し→引き続き居座る口実上でも、極めて有用で、中国は積極的に条約を維持したい環境に置かれている。

 しかも、一方的に中朝軍事同盟を破棄すると、北朝鮮金正恩労働党委員長がどう出るか? 金委員長の戦略思考能力レベルが不明なこともあり、今以上に朝鮮半島はキナ臭くなる。
米国はレッド・ラインとデッド・ラインの二段構え

 米トランプ政権が7月中旬の「対中契約」延期を認めれば、延長期限は今秋になろう。今秋、中国は指導部が入れ替わる共産党大会を開くが、中国の「対北努力」の評価が低ければ、米軍は党大会前に爆撃機+護衛機を平壌上空に飛ばすといった、実戦に近い対北挑発を実行に移し、中国を揺さぶる可能性もある。

 荒っぽい行為でリスクはあるが、経済制裁をステップ・アップさせなければ、北朝鮮の金委員長に「誤ったシグナル」を送ってしまう。フリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領が4日、訪比中の河井克行首相補佐官に伝えた言葉を借りれば、金委員長は「バカ者」で、「生存し続ける限り、あの地域は危険なままだ」。その金委員長が米トランプ政権の言動を読み誤り、「米国は戦意を喪失した」などと自らに都合良く解釈すれば、様子見していた《6回目の核実験》を強行する。

 かくして、中国共産党大会が催される今秋までの、中国による「米中再契約」の履行状況が見せかけであれば、米国が意図的に曖昧にしている「レッド・ライン」は次第に姿を見せ始める。

 ここでお復習いするが、北朝鮮が米国本土に撃ち込める核・ミサイル(ICBM=長距離弾道ミサイル)開発に狂奔する理由は、米国民の大量殺戮と引き換えに、中国でも、まして韓国でもなく、米国と直談判をして核保有国として政権を存続させる一点にある。

 つまり、米軍事拠点(点)ではなく、広大な米国本土内のどこかの都市(面)を攻撃できればよく、ICBMの《命中精度》に米露レベルなど不要だ。《6回目の核実験》にしても、経済制裁を激化させるが、過去の実験は核弾頭の小型化に向け既に相当の実績をあげている。《命中精度》と《6回目の核実験》は「レッド・ライン」にはならない。

 むしろ「レッド・ライン」は、小欄が度々触れてきた《大気圏への再突入成功》と《米国本土に届くロケット・エンジンの推進力確保》だ。

 米国防当局者は、5月14日に発射された《火星12》の弾頭が燃えなかった点に注目。弾頭の材質開発&大気圏への進入角度・速度制御が成功した、と分析している。ただし、グアムを射程に入れたものの、《火星12》の再突入速度は米国本土に向かうICBMのそれには達していない。

 エンジンの推進力も長足の進歩を遂げた。飛距離だけなら1万キロ離れた米西海岸を狙える《テポドン2改良型》が2012年と16年に発射を成功。5月に発射されたグアムに達する計算の《火星12》も完成段階に迫り、ICBMへの「試作品」となった。

 もっとも、《大気圏への再突入成功》と《米国本土に届くロケット・エンジンの推進力確保》は「レッド・ライン」には成り得ても、「デッド・ライン」には成り得ない。整理しよう。

 小欄では「越えてはならない一線」を「レッド・ライン」、「外交による解決が武力行使に転換する最後通牒」を「デッド・ライン」と、あえて分けて考えている。米トランプ政権は、国際社会に「誠実に段階を踏んだ」軌跡を刻んでおく証拠が必要で、北朝鮮の「レッド・ライン」越え後、もう一度、中国に「執行猶予」を与える。

 米国の「レッド・ライン」を中国が感じてなお、漏れ無き徹底的経済制裁に全力で取り組まなければ、米国はいよいよ自衛権発動の最終基準となる「デッド・ライン」を定める。が、「レッド・ライン」同様、「デッド・ライン」も明示的に公言はしない。というより線引きができない。「デッド・ライン」を決断する最大要素が「時間」であるためだ。トランプ大統領と習主席が合意した対北説得《100日計画》よりケタ外れに、長く、暗い、極度に緊張する「時間」である。

 振り返ってみれば、米国は北朝鮮による核開発の危険性が指摘されて以来、ビル・クリントンジョージ・ブッシュ(息子)~バラク・オバマの各政権が北朝鮮に核開発の放棄か凍結を求めてきた。3政権=24年の間、国連&関係国の経済制裁や、ヤル気のない中国に頼った6カ国協議を継続したが結局、北朝鮮に核・ミサイルの開発時間を献上するだけであった。

 クリントン大統領は軍事攻撃を計画したが、北朝鮮の反撃で大きな被害がシミュレートされ腰を引いた。ブッシュ大統領も「悪の枢軸」と罵倒し、テロ支援国家に指定したが、自ら取り下げた。オバマ大統領に至っては、「戦略的忍耐」を主張し、軍事力行使の完全放棄を宣言する愚を犯した。

 過去3政権時代とは違い、北朝鮮は米国本土に到達する核・ミサイル開発に手が届きだした。進化を遂げる北朝鮮に対し、米国が軍事オプションを放棄するのなら、米国は北が繰り広げる核・ミサイルを使った恫喝に、次の24年も耐えなければならない。トランプ大統領は決断できぬ「4人目」の米大統領で終わるばかりか、北朝鮮を核保有国と認定し、政権存続を保障した初めての米大統領として世界史に汚名を刻む。プライドの高いトランプ大統領が強く批判したオバマ氏の「戦略的忍耐」の踏襲に加え、米国の国際社会への影響力低下が加速していく序曲でもあり、自らの信念「米国第一」と逆行する米国衰退を座視できるとは考え難い。

 半面、北朝鮮への攻撃は、最初の数時間で大勢が決まり、最短で1週間程度(異説アリ)で決着する。米トランプ政権は今後、「戦略的忍耐」と「対北攻撃」にかかる「時間」の差と国益を分析し、行動に移す。

 忘れてはならぬのは、日本や韓国の恐怖と危機の度合いは、地理上も、軍事上も、抑止力上も、米国の比ではないとの現実。わが国も、北朝鮮の核ミサイルの射程に入っている危機を正視し、憲法・法律上、自衛権行使が許される「座して死を待つ事態」だと深く認識して、米軍と被害を分け合う覚悟を決める重大局面を迎える。日韓が自衛権行使発動の構えを証明しなければ、トランプ大統領は絶対に動かない。

 ところで、米国の対北攻撃の前提は、日韓が覚悟を決めるだけではない。米国をだまし続けてきたのは、北朝鮮に限らなかった歴史を、米国自身が自覚すべき時だ。

 全体、米国は中国に歴史上何度だまされてきたのか。第二次世界大戦後、米国が支援してきた国民党政権を台湾に潰走(かいそう)させたのは中国共産党だ。朝鮮戦争でも米軍は、朝鮮人民軍を支援した「中国人民志願軍」をかたる中国人民解放軍と死闘を演じ、4万人以上の戦死者を出した。ソ連を牽制する戦略目的の下、中国と国交を結び、経済・軍事支援した揚げ句、南シナ海岩礁占領など中国の軍事的膨張と自由経済体制の一部破壊を許している。 

 米国は覚醒する「時間」を無駄に費やした。日本も目を覚ますときなのだが…