温暖化に懐疑論なぜ トランプ政権下の米で勢い

温暖化に懐疑論なぜ トランプ政権下の米で勢い

 トランプ米大統領が温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」からの離脱を決めた。歴史的に共和党政権下では「温暖化懐疑論」が根強く、世界に影響を与えてきた。米国でも大多数の科学者は、人間活動が温暖化を深刻にするという考えを支持する。しかし、予測の不確実さなどを問題視する一部の研究者が政府と結びつき発言力を増している。

■証言者選び「意図的」
 今年3月、米下院の科学・宇宙・技術委員会が気候科学をテーマに公聴会を開いた。委員長のラマー・スミス議員(共和党)は一貫して温暖化の科学的根拠に疑いを投げかけてきた人物だ。

 証言した4人の科学者のうち3人は懐疑派として知られる。ジョージア工科大学のジュディス・カリー名誉教授は「気候の複雑なシステムは根本的に予測が難しい」「人間活動が温暖化の支配的原因かは不明だ」などと主張。国連の気候変動に関する政府間パネルIPCC)を中心とした温暖化予測の「コンセンサスづくり」も批判した。
 科学政策に影響力をもつ非政府組織(NGO)「憂える科学者連合」のピーター・フラムホフ気候問題主任科学者は「委員会は意図的な証言者選びによって、懐疑派が主流かのような印象を与えた」と指摘する。

■温暖化止まる?
 2月にはマサチューセッツ工科大学(MIT)のリチャード・リンゼン名誉教授が約300人の科学者らの署名入り書簡を大統領に送った。二酸化炭素(CO2)の増加は問題どころか「食糧生産に役立つ」と持論を展開した。するとMITの他の研究者が連名でCO2のリスクを強調する手紙を大統領に送付。再びリンゼン氏が反論文書を出すなど混乱が続く。

 最近のオーストラリアの研究グループの調査では、温暖化に関する論文の著者の約97%は、人間活動が温暖化をもたらすとの考えを支持した。一方、米調査機関ピュー・リサーチ・センターや米エール大学の世論調査で、人間活動による温暖化について「科学者が合意に達している」との回答は半数に満たない。

 科学的論争は未決着と考える人が多い背景の一つに、1998年から十数年間、温暖化が止まったようにみえた「ハイエイタス」現象がある。大気中のCO2は増えているのに、気温が予測通りに上がらない現象だ。

 温暖化懐疑派が勢いづいたが、2015年6月に科学誌サイエンスにハイエイタスを否定する論文が載った。米海洋大気局のトム・カール氏らが整理し直した観測データを使い、直近15年間の地上気温の上昇ペースは20世紀後半と変わらず速いことを示した。

 ところが翌年、逆の結果とも受けとれる論文が専門誌ネイチャー・クライメート・チェンジに出た。カナダの研究機関のジョン・ファイフ氏らの成果で、21世紀初期の気温上昇は20世紀後半に比べ確かに鈍ったという。

 なぜ違いが出るのか。観測データは均一に存在せず、測器の種類や精度にもばらつきがある。補正して、物理的な矛盾がないよう計算で確かめつつ気温を決める。手法によって数値が変わる。

 また、過去との比較はどの期間の気温を基準とするかに左右される。ファイフ氏らの論文の共著者の小坂優・東京大学准教授は「長期的な温暖化と短期の(10年規模の海洋循環やエルニーニョなどの)自然変動の両方が存在するので、期間によっては相殺して上昇が鈍く見える」と説明する。

 とはいえ、データの処理法次第で温暖化ペースが異なるのは「トリックのようだ」と感じる人もいる。気候科学に対する不信の一因にもなる。

 日本にも温暖化を疑う研究者はいる。IPCC第4次報告書が出た07年以降の一時期、関連書籍も増えた。気象・気候学者は比較的少ない。経済学や工学の専門家が温暖化の進み方や影響の不確実性を理由に、対策コストをかけすぎることに警鐘を鳴らす例が目立つ。

■解析改善促す
 今後、気温や降水量はどう変わるのか。大気と海の相互作用、大気中の微粒子の性質や動き、雲の種類や量の変化などが複雑に絡み合い、未解明な現象も多いため予測は常に不確実さを伴う。

 ただ、懐疑派の指摘も参考に観測網、データ解析法、計算モデルなどは着実に改善されてきた。健全な批判は科学を前進させる。

 温暖化ガスが増え続ければ、多くの人の生活が脅かされる可能性が高いことはかなりはっきりしてきた。不確実性を考慮してなお対策を急がねばならない理由を、研究者はわかりやすく示し続ける必要がある。(編集委員 安藤淳