タカタ、読み違えた米世論 トヨタの教訓生かせず

タカタ、読み違えた米世論 トヨタの教訓生かせず

2017/6/26 16:09 日本経済新聞 電子版
 欠陥エアバッグの大規模リコール(回収・無償修理)問題で経営が悪化したタカタが26日、東京地裁民事再生法の適用を申請した。最初に不具合を把握してから10年余り。トヨタ自動車ブリヂストンなどが過去に米国で直面した品質問題の教訓を生かせず、世論や当局の姿勢を読み違えたことが事態をいっそう複雑にした側面がある。
 タカタが最大の取引先であるホンダからエアバッグの不具合を知らされたのは2005年。タカタは当初、エアバッグを膨らませるガス発生剤そのものではなく、湿度管理など製造工程のミスに原因があるとの解析結果をまとめた。この結論に基づき、ホンダが対象製品について米国で最初のリコールを実施したのは3年後の08年だった。
 

■原因説明に綻び

 ところが09年に米国で発生した初の死亡事故では、リコール対象ではないエアバッグが異常破裂を起こした。その後も製造ミスがないはずの製品で不具合が相次ぎ報告されたことで、タカタの説明に不信感が生じ始める。これまで原因調査をタカタに委ねていたホンダなどの自動車メーカーは14年6月、米国の高湿度地域で原因究明のための調査リコールに着手した。

 エアバッグの異常破裂問題が米消費者の注目を集めるようになったのもこの頃だ。14年秋に米フロリダ州で起きた事故では、部品が散乱した凄惨な車内の映像がメディアによって繰り返し流された。「殺人エアバッグ」という不名誉なイメージとともに、「TAKATA」の社名が全米に知られるようになっていった。

 世論に押される形で14年末に米議会が開いた公聴会での対応も、タカタ批判の火に油を注いだ。全米規模のリコールを求める議員らに対し、タカタ経営陣が「リコール実施の是非は自動車メーカーが判断するもの」との原則論を貫いたことが、「消費者保護に消極的」と受け止められたためだ。

 過去のリコール案件では「弱腰」との批判を浴びることもあった米運輸省高速道路交通安全局(NHTSA)も、タカタに対しては強硬姿勢を示した。次第にエアバッグを膨らませるガス発生剤が高温多湿の環境に長期間さらされることで爆発力が高まるとの見方を強める。16年5月には根本原因が不明のまま、異常破裂の恐れがある全てのエアバッグをリコールするようタカタに認めさせた。
 

■トップの説明遅く

 日本企業が米国で品質問題に直面するのはタカタが初めてではない。1999年に米子会社ファイアストン製のタイヤを装着した米国車が横転した事故で、ブリヂストンは翌年の8月に650万本のリコールを表明。原因特定よりも消費者の不安解消を優先したことでブランドへの信頼を保った。

 アクセルペダルがフロアマットに引っかかるなど、09~10年にかけて「意図せぬ急加速」問題に見舞われたトヨタでは、豊田章男社長自ら米議会の公聴会に出席し顧客第一の姿勢を表明。「批判は真摯に受け止める」と誓ったことで、米世論の風向きを変えるきっかけになった。

 一方、タカタの高田重久会長兼社長が欠陥エアバッグ問題について自ら表舞台で説明したのは問題把握から10年後の15年になってから。この間、幹部層を含む元社員らが自動車メーカーに安全に関わる試験データを繰り返し偽って報告していたことも米司法省の捜査で明らかになっている。

 今後、タカタは中国・寧波均勝電子傘下の米自動車部品大手、キー・セイフティー・システムズ(KSS)が設立する新会社に事業を譲渡し、新たな経営体制で再建を目指す方針。当面は交換用エアバッグの供給で各工場は高い稼働率が見込まれるが、全社的に新規受注は減少したまま。消費者をはじめとするステークホルダーとの対話を軽視する企業風土を刷新できなければ、再建はおぼつかない。(白石武志)