欧州風力発電、生き残り賭けた「超巨大風車」

欧州風力発電、生き残り賭けた「超巨大風車」

6月27日、欧州の風力発電事業者は、高層ビルにも匹敵する、新世代の巨大風車に将来を賭けようとしている。デンマーク沖の風力発電所で2009年9月撮影(2017年 ロイター/Bob Strong)

コペンハーゲン/フランクフルト 27日 ロイター] - 欧州の風力発電事業者は、高層ビルにも匹敵する、新世代の巨大風車に将来を賭けようとしている。それは欧州各国で、1990年代以降グリーン産業を形成してきた補助金が削減されるなか、彼らが生き残る鍵になるとみられている。

洋上風力発電の世界的大手であるデンマークのドン・エナジー(DENERG.CO)、独EnBW(EBKG.DE)、スウェーデンのバッテンフォールの3社はそれぞれ、政府の補助金削減への対応策として、巨大風車に着目しているとロイターに語った。

少なくとも、シーメンス・ガメサ(SIEGn.DE)が、来年までに巨大風車のプロトタイプを建設し、今後5年以内に最初のウィンドファームが稼働する見込みだ、と風力発電機メーカーや技術者への取材で明らかになった。
巨大風車は、それぞれ高さ300メートルにも達し、西ヨーロッパで一番高い英ロンドンの「ザ・シャード」ビルとほぼ並ぶ高さで、回転面の直径は200メートルと、サッカー場2つ分を並べた長さになる。

1990年代初頭から発展を支えてきた政府補助金の段階的打ち切りが決まり、風力発電業界は重要な岐路に立たされている。欧州各国では、風力発電を商業採算ベースに乗せ、他の電力源と競争できるようにするため、かねてからの計画通り、補助金を削減して圧力をかけ始めた。
欧州の洋上発電産業の拠点となっているデンマーク、ドイツ、オランダ、英国は、今後10年で段階的に補助金をなくす方針だ。事業者にとっては重要な収入源が絶たれることを意味する。2014年に実施された入札では、補助金はいまだに欧州の風力発電事業の収入の半分程度を占めていた。

こうした状況を受け、ドン・エナジーとEnBWは、2024年に運転を開始するドイツ風力発電所プロジェクトの4月入札において、補助金を考慮しない事業計画案を提示した。補助金ゼロを前提とした入札は業界初で、風力発電業界の一里塚となる出来事となった。
その一方で、風力発電事業者がいかに利益を上げて自らの存続を図りつつ、石炭火力や原子力発電の代替となり得る商業的に魅力的な電力提供ができるのかとの疑問の声も上がった。

事業者によると、答えは、巨大風車だ。より多くの風を捉え、メガワットあたりの発電コストを下げることができるという。巨大風車1台あたりの出力は10─15メガワットになる。現在稼働している最大の風車は、三菱重工業デンマークのベスタスの合弁企業「MHIベスタス」が製造したもので、高さ195メートル、出力は8メガワットだ。

だが、巨大風車で全てが解決する保障はない。
技術面では、非常に巨大な風車タワーを建設し、強力な風の力に耐えられる、スリムで軽いブレードと呼ばれる羽を開発しなければならない。経済面においても、巨大風車が発電効率を改善したとしても、補助金ゼロでプロジェクトの採算が取れるかを疑問視する専門家もいる。

<巨大風車のプロトタイプ>
それでも、発電事業者は、新たな技術をあてにしている。
スウェーデンのバッテンフォールの海外事業を統轄するMichael Simmelsgaard氏は、10メガワット風車の登場は、「多くの人が想像するより早く実現する」と予想する。10メガワット級の風車は、9000世帯に電力供給できる。

ドン・エネルギーの風力発電を担当するサミュエル・ロイポルト氏は、今月ロンドンで開かれた洋上風力発電の国際会議で、「13─15メガワットの風車を導入できる」と発言。これまで10メガワット級の風車については議論があったが、それを上回る大きさの出力について業界幹部が公の場で言及したのは初めてだった。
独EnBWも、巨大風車に関心を寄せている。同社の発電ポートフォリオ開発を担当するDirk Guesewell氏は、「効率を上げるには、大きさが重要だ。回転翼が大きければ、同じキャパシティの電力を発電するのに風車の数が少なくて済む」と話す。

ドイツの風力発電機大手センビオンは、出力10メガワット超の風車を開発していることを明らかにした。まだ設計段階だが、すでに事業者に提案しており、担当者は今後5年以内に設置が始まる見込みだと語る。

シーメンス・ガメサに協力している技術者によると、同社は、来年までに巨大風車のプロトタイプを建設するという。大手風車メーカー数社と働く別の技術者によると、巨大風車の設計は業界全体で、ほぼ完成しており、プロトタイプの製作がもうすぐ始まるところだという。シーメンス・ガメサはコメントの求めに応じなかった。

<技術的ハードル>
最大の技術的ハードルは、海底に基盤を固定する風車構造に過度な負荷を与えることなく、ブレードを長く伸ばすことにある。ブレードの長さは現在稼働する最も強力な風車のそれよりも約50メートル長くなる。
常にさまざまな強さの風にさらされるブレードの製造は、カーボンやガラス繊維製のレイヤーを接着して正確な温度で乾燥させなければならず、極めて複雑だ。
風力発電の先端技術を開発してきたデンマークの国立研究機関、デンマーク工科大学(DTU)ウィンド・エネルギーは、炭素繊維の量を増やして、長大なブレードの重量を抑える研究をしている。乱気流でもブレードが壊れないよう、航空機の翼のフラップ部分に似た構造を採用したブレードも設計した。
「一般の人も、航空機やヘリコプターの翼を計算するのが複雑だと理解している。風車も同じように複雑で、同じ技術を使っている」と同研究所のフレミング・ラスムセン氏は話す。

<採算性の問題>

巨大風車が稼働しても、事業者が補助金なしに利益を出すためには、他の条件を満たす必要がある。重要なのは、収益が投資コストを上回るレベルまで、電力価格を引き上げることだ。

バーンスタインの研究者は、現在の電力価格予測に基づけば、事業者が補助金ゼロで事業収支をトントンまで持ち込むには、設備投資を6割程度カットする必要があると試算する。一方で、風車サイズを7メガワット級から14メガワット級に大型化すれば、設備投資は4割程度削減できるとしている。
また、現在のメガワット時当たり30ユーロの電力価格は、2023年までに5─6ユーロ値上げされるとみている。
補助金なしの事業で採算性を取るには、コスト削減と電力価格引き上げの両方が必要だ」と研究者は指摘する。
(Stine Jacobsen記者, Vera Eckert記者、翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)