タカタ会長、最後まで死者への謝罪はなし
タカタ会長、最後まで死者への謝罪はなし
民事再生法の申請で会見も、変わらぬ「消費者不在」
6月26日午前11時半、東京駅前にそびえたつJPビルの高層フロア。タカタの民事再生法の申請代理人で、企業再生の分野での活躍が知られる小林信明弁護士が所属する長島・大野・常松法律事務所の一室が記者会見場となった。
高田重久会長が会見の場に姿を見せるのは、米運輸省・高速道路交通安全局(NHTSA)から罰金を科されたことについて発表した2015年11月以来のこと。詰めかけた数百人の報道陣が注目する会見の冒頭、高田会長が発した謝罪の言葉はこうだった。
「ご支援とご協力を頂いた全ての関係者の皆さま、債権者の皆さまにご迷惑をおかけすることになり、タカタ株式会社を代表して心より深くお詫び申し上げます」
民事再生法の申請に関する会見とはいえ、謝罪の対象となったのは完成車メーカーなどの取引先や金融機関などの債権者だった。そこには一言も、エアバッグの異常破裂が原因とみられる事故による十数人の死者への弔意の言葉はなかった。
報道陣からは、これまで高田会長が説明責任を果たしていないとして「消費者を軽視していないか」という質問もあった。
こうした声に対し、高田会長は「いろんな方から、私見を述べたりコメントを出したりするのは適切ではない、(弁護士らによる)外部専門家委員会に任せ、ノイズは出すなと言われてきた。私が唯一言ってきたのは(完成車メーカーに対する部品の)安定供給を続けたいというお願いの行脚だけだ」と答えた。
高田会長が会見で繰り返した自動車メーカーへの部品の「安定供給」こそが、タカタ再建のための大義名分だ。「自動車に必要な安全部品なので、供給を継続しなければいけない」(高田会長)ということだ。もちろん日本経済の屋台骨である自動車産業において、クルマの生産が停滞することは是が非でも避けねばならない。これは「産業界の常識」だろう。しかし、たとえそこに本音があったとしても、タカタの謝罪姿勢には、建前の中にすら最終的なクルマのユーザーである「消費者」の常識が見当たらない。
これはタカタ製エアバッグのリコール問題が傷口を広げていったことと無関係ではない。NHTSAがエアバッグの欠陥を指摘してリコールを強く迫るようになった14年ごろ、自動車産業界では「部品メーカーなのに矢面に立たされるのは珍しい」などと同情的な声もあったという。部品メーカーとは消費者と直接係わらない自動車産業における黒子であり、リコールも法的には完成車メーカーの責任で行われるものだからだ。タカタは「完成車メーカーに協力する」という見解で、同社製エアバッグが原因とみられる死亡事故が相次いでも、部品メーカーとして黒子で居続けようとした。
しかし、完成車メーカー各社が部品を共通化していく中で、このような「自動車業界の常識」は徐々に変わってきていた。当局にしてみれば、完成車メーカー各社に同様の部品を供給する部品メーカーに説明を求める方が合理的だからだ。タカタが緩慢とした対応を続ける中で事故の死者数は増えて続けていく。自動車産業の中でもタカタに対する厳しい意見が出てくる一方、タカタの常識は変わらなかった。
「日本では不具合起きていない」
「日本では何も不具合が起きていない。死傷者が出ているのはアメリカ。これはアメリカの政治の問題だ」。14年末頃、タカタ創業家のある人物はこんな言葉を口にしていた。現実には、日本でも異常破裂によるけが人が発生し、マレーシアでも死亡事故が起きた。
さらに15年末頃、8人目の死者が米国で出た直後には「亡くなったのは10代の少年で、運転の仕方にも問題があるんじゃないか?」とも発言していた。
「我々は原因も分からないのに悪者にされ、ひたすら糾弾されている」。創業家の内部には、自分たちがむしろ被害者であるかのような意識があるように見えた。このようなタカタの論理は社外で受け入れられず、完成車メーカーとの間で再建方針を巡るすれ違いにつながった可能性もある。
タカタは一貫して、創業家を中心に当事者間で合意すれば経営を再建しやすい私的整理を希望してきた。しかし、完成車メーカーは裁判所が関与する法的整理をタカタに求めてきた。このすれ違いは再建方法の決定の遅れにつながった。
高田会長は26日の会見で「我々の想定よりも完成車メーカーとの意見調整は複雑で、1週間で回答をもらえると思った案件が1カ月たっても返ってこないこともあった」と振り返った。完成車メーカーが部品の安定供給を受けるためには、苦しんでいるタカタを支援するのが当然という認識があったことがうかがえる。
結局、今日に到るまで、事故が発生する原因の詳細は明らかになっていない。「専門家に任せた検証でも『再現性がない』という結果だった。未だに苦慮している」と高田会長は語る。消費者が最も求めている問題の核心は明らかにならないまま、タカタは新たな株主の下で再建への道を歩み始めることになる。