事故続出のハイテク米軍、3つの盲点

事故続出のハイテク米軍、3つの盲点  編集委員 高坂哲郎

 米海軍のイージス駆逐艦が6月の伊豆半島沖に続いて8月にもマラッカ海峡で民間商船と衝突事故を起こし、修理のため持ち場を離れざるを得ない事態となった。事故の全容は明らかになっていないが、背景には「軍隊のハイテク化しすぎの弊害」が見え隠れする。どうやら日本もひとごとでは済ますことのできない問題のようだ。
8月21日、マラッカ海峡でタンカーと衝突事故を起こし、船腹がへこんだ米海軍イージス駆逐艦「ジョン・S・マケイン」=AP
8月21日、マラッカ海峡でタンカーと衝突事故を起こし、船腹がへこんだ米海軍イージス駆逐艦「ジョン・S・マケイン」=AP

 8月21日にマラッカ海峡で起きた事故をめぐって、世界の軍事関係者の間でこんな観測が流れている。「外部の何者かがサイバー攻撃をしかけ、駆逐艦の操舵(そうだ)を一時的にまひ状態にした時点で、商船を意図的に駆逐艦にぶつける『サボタージュ(破壊工作)』をしかけたのではないか」
 これが仮に事実なら、サイバー攻撃と破壊工作の合わせ技により、ハイテク兵器のかたまりである米海軍の駆逐艦を戦闘を経ずして作戦行動不能の状態に追い込んだことになる。平時、有事の別なくさまざまな手段を駆使して相手を不利に追いやる一種の「複合戦」(ハイブリッド・ウォーフェア)である。

■自動に依存、技量低下の恐れも
 米海軍は「破壊工作やサイバー攻撃の痕跡はない」(スウィフト米太平洋艦隊司令官)としている。ただ、調査はなお続いている。また、今後の調査で仮にサイバー攻撃を受けていた事実が判明したとしても、米軍は自らの失態や不利を外部にオープンにすることは避けたいだろうから、事実は長期間機密扱いにされ、結果的に闇に葬られてしまうかもしれない。
 そんな中で確かなことが一つある。米軍をはじめ、世界の多くの国々の軍隊が、コンピューター化を軸にした装備のハイテク化や自動化に突き進み、その結果、さまざまな副作用が生じているということだ。
無人操縦の普及がパイロットの技量低下を招くリスクも(写真は米空軍のC130輸送機の操縦席)=AP
無人操縦の普及がパイロットの技量低下を招くリスクも(写真は米空軍のC130輸送機の操縦席)=AP

 先進国では近年、少子化などで兵士のなり手となる若者の不足が深刻になり、軍隊でもさまざまな領域に自動化・省人化の波が押し寄せている。長時間偵察などの任務を負う無人航空機や無人化されたレーダーサイトなどはその一例だが、有人の航空機や艦艇でも、自動化・省人化が時代の潮流となっている。
 その結果、生じた第一の副作用は、乗組員が機械に頼る傾向が出始めたということだ。ある安全保障関係者は「軍のパイロットが自動操縦などに過度に頼るようになり、マニュアルでの操縦技量が低下する恐れが出てきた」と打ち明ける。

 輸送や哨戒など長時間飛行を続ける任務の場合、離着陸などはマニュアルで操縦するが、高高度を一定速度で目的地に飛び続ける場面では操縦を自動に切り替えることがある。ただ、自動操縦に慣れすぎると、乱気流などとっさのトラブルの際に慌てて不適切な反応をしてしまうケースがあるという。実際、民航機のパイロットが自動操縦中にトラブルに遭い、手動モードに切り替えたものの、かえって不適切な操縦をして墜落してしまった事例も報告されている。日本の自衛隊でも飛行の一部を自動操縦モードにすることは既に現実になっており、気になるところである。

 6月の伊豆半島沖での米イージス駆逐艦の事故について、米海軍は警戒監視に落ち度があったとの認識のようだ。全容が明らかになったわけではないが、乗組員が、便利なレーダーに頼るあまり、艦船の航行の基本中の基本である目視による監視をおろそかにしていた可能性が浮かんでくる。

■同盟国との共同行動に支障も
 ハイテク化の結果として生じている第二の副作用は、ネットワークでつながれた軍隊のレーダーシステムや指揮・統制・通信システムなどがサイバー攻撃で外部から干渉を受けた場合、機器の機能停止や、偽の情報をつかまされるリスクが浮上してきたことである。軍隊の神経系統が乗っ取られるという事態は、コンピューターネットワークの登場以前にはおよそ起こりえなかった。

 第三の副作用は、同盟国同士の共同行動に支障が出始めたということだ。米国の国防予算は世界最大で、有力な軍事産業も多く、他国の軍隊に比べてもハイテク化や省人化は進みやすい環境にある。一方で、日米やオーストラリアなどは近年、東南アジア諸国などの軍隊に対し、「能力構築支援」と称してさまざまな指導や助言をしている。ただ「ハイテク化した米軍に途上国の軍隊がついていけないほど技術に差がついてしまったことを受け、米軍は、自分たちほどは装備が近代化していない日本の自衛隊に各国軍への能力構築支援を期待するようになっている」(関係者)という。

 軍隊のハイテク化の副作用をめぐっては、今年5月の本欄で、北朝鮮が高高度で核爆弾を爆発させ、その際生じる強力な電磁波で周辺国の軍や民間の電子機器をダウンさせる「高高度核爆発(HANE)」のリスクがあることを紹介した。この記事を書いてからしばらくして、ある日本の安保関係の知人から面会を求められ「あんまり際どいことを書くと、身に危険が及ぶかもしれませんよ」と言われた。冗談めかしてはいたが、目つきはこわばって見えた。日米などの弱点をことさらに強調すべきでないとの趣旨だったようだ。北朝鮮は米軍の盲点を突く手段を持っていることを自覚しているだろう。一方で、こうしたリスクの所在を指摘しなければ、日本全体の備えは向上しないと筆者は考えるのだが、いかがだろうか。