衝撃受けたNHKの空襲番組…米国による被害を軽視するな

衝撃受けたNHKの空襲番組…米国による被害を軽視するな 元東京大学史料編纂所教授・酒井信彦


 毎年終戦の日の前後にマスコミは戦争関係の報道を行うのが通例だが、私が今年注目したのは、NHKによる2つの空襲に関する番組であった。それは8月12日に地デジで放送された「本土空襲 全記録」と、13日にBS1で放送された「なぜ日本は焼き尽くされたのか」である。両方とも米国に存在する資料を発掘して、今回制作されたものである。

 前者では、米国側が空襲の実態をガンカメラによって克明に撮影したカラーフィルムが使われていた。特に戦闘機から地上の人間を機銃掃射する模様は極めて衝撃的であった。
 男女、子供を問わず、民間人を狙って銃撃するのだから、この機銃掃射は明らかに虐殺行為である。この番組によると、日本への空襲は、66都市へ2千回に達し、その犠牲者の数は45万9564人と極めて詳しい数字が示されていた。

 後者は、当時の空襲を展開した軍幹部の証言テープによるもので、無差別爆撃を行った米国側の背景を明らかにしたものである。
 B29による日本への空襲は1944年秋から開始されたが、なかなか効果が上がらず、指揮官は解任された。代わった指揮官がかのカーチス・ルメイ(06~90年)であり、夜間低空での焼夷(しょうい)弾による無差別爆撃に切り替えた。その最初が45年3月10日の東京大空襲であった。

 ルメイが無差別爆撃をやってまでも空襲の飛躍的効果を求めたのは、当時は陸軍に属していた航空部隊を独立した空軍にしたい-という悲願が存在したからだという。現に戦後の47年には米空軍が創立されている。
 また、無差別爆撃の思想そのものは、さらにそれ以前から存在していたことが説明される。その意味で疑問となるのは、「本土空襲 全記録」の中で米国が無差別爆撃を行った理由は、日中戦争で日本軍が重慶爆撃を行ったからだ-との説明である。これは「なぜ日本は焼き尽くされたのか」との説明とは完全に矛盾している。重慶爆撃を取り上げるのは以前からよくある日本の空襲を相対化して、米国がその悲惨さをごまかす手法に倣ったものである。

 ところで広辞苑では、ホロコーストを「ユダヤ教の、焼き尽くした献(ささ)げ物が元の意味」と説明している。だとすれば、ガス室を使ったユダヤ人虐殺より、日本の空襲の方がはるかにホロコーストと表現するのにふさわしい。
 新聞は、日本の戦争被害において、沖縄戦や2つの原爆投下と比較して、日本全土で広く展開された空襲の問題を、あまりにも軽視していないだろうか。その意味で、空襲被害者救済の法案ができなかった原因として、新聞の責任が大きいだろう。