小池百合子氏「私が代表なら興味あるかしら?」 焦る民進・前原誠司代表は… 水面下では「金庫」争奪戦も

小池百合子氏「私が代表なら興味あるかしら?」 焦る民進前原誠司代表は… 水面下では「金庫」争奪戦も


 「どんな手段を使っても安倍政権を止めなければならない。もう一度政権交代を実現して身勝手で政治を歪める安倍政権を退場に追い込みたい。私は皆さんが大好きだ。これからも皆さんと一緒に行動し、もう一度われわれの理想の社会を創る。そのために名を捨てて実を取る。その決断をぜひご理解頂きたい」

 28日午後、民進党本部で開かれた両院議員総会民進党代表の前原誠司が熱っぽくこう語ると、万雷の拍手がわいた。
 ここで前原が示した方針は、前原を一人民進党に残して全員が離党し、東京都知事小池百合子が率いる「希望の党」に公認申請するという内容だった。事実上の「解党宣言」と言えるが、特に異論もなく了承され、所属議員はむしろ高揚感にあふれていた。
 この少し前、首相の安倍晋三は国会内で開かれた自民党両院議員総会で厳しい表情でこう語った。
 「いよいよ厳しい戦いが始まります。この日本を守り抜くのか、国民の命と平和な暮らしを守り抜くのかを問う選挙です。選挙のためだけに看板を替える政党に日本の安全を、子供たちの未来を任せるわけにはいきません。皆さん、まなじりを決して戦い抜いていこうではありませんか」
 解党する民進党が意気揚々とし、電撃解散に打って出た安倍が悲壮な表情なのはなぜか。安倍の脳裏に平成21年夏の衆院選の悪夢がよぎったからだろう。

 この衆院選で現副総理兼財務相麻生太郎率いる自民党は大敗し、鳩山由紀夫率いる民主党が政権を発足させた。当時は政権交代への期待感が異様に強かったこともあるが、最大の敗因は野党が「反自民」で一致結束したことにある。
 「1強」と言われる自民党だが、反自民勢力が一つにまとまると意外なほどもろい。希望の党創設に伴う、ここ数日の電撃的な動きは8年前のあの日を彷彿とさせた。
 つい1週間前まで絶望に打ちひしがれていた民進党議員の表情が急に明るくなったのはこのためだ。希望の党に衣替えした元民進党議員は今後3週間にわたり、ひたすら「安倍政権打倒」を訴えるに違いない。

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 水面下で一体何が起きていたのか-。
 前原が希望の党合流に向け、動き出したのは9月18日。産経新聞が17日付朝刊1面で「首相、衆院解散を決断」と報じたのがきっかけだった。
 小池新党の動きを受け、民進党では離党者が続出していた。前原は離党者に「刺客」を立てる方針を示す一方、裏では共産党との選挙協力を進めていたが、内心忸怩たる思いだった。
 「共産党選挙協力したところで小池新党と『刺し合い』になれば、自民党に漁夫の利となるだけ。民進党は存亡の機を迎える」

 前原と小池は、平成5年に細川護煕率いる日本新党から初当選した。その後、疎遠となっていたが、前原が側近を介して小池との接触を試みたのは自然な流れだといえる。
 小池にとっても、前原のアプローチは「渡りに船」だった。安倍の電撃解散により、新党の準備は整っておらず、組織も資金も不足していたからだ。

 実は小池は7月から、前代表の蓮舫にも接触していた。「女ツートップでどうかしら」などと持ちかけると蓮舫も乗り気だったというが、蓮舫の辞任により頓挫してしまった。
 再浮上した連携構想は一気に動き出した。前原と小池は頻繁に電話で連絡を取り合うようになった。
 2人の動きを知っていたのは、それぞれの側近数人だけ。民進党幹事長の大島敦でさえ、前原の合流構想を知ったのは25日だった。小池側近を自認する細野豪志若狭勝らは「蚊帳の外」だった。
 20日ごろ、自由党代表の小沢一郎も前原に接触してきた。小沢は「まず民進と自由が合流し、小池の新党と社民を交えて比例代表の統一名簿を作ろう」と持ちかけた。前原は小池との合流話はおくびにも出さず、この構想にも一枚かんだ。
 統一名簿構想は社民党の反対で頓挫したが、「反安倍」の足並みは確実にそろいつつあった。

それでも前原は小池の合流構想にどこか煮え切らなかった。24日、小池は前原に電話でこう尋ねた。
 「若狭や細野が新党の代表なら興味ある?」
 前原が「興味ない」と答えると、小池はこうたたみかけた。「じゃあ私が代表なら興味あるの?」
 前原は「もちろん興味ある」。25日午後の小池の緊急記者会見を待たずして、ここで小池の代表就任は決まった。
 前原にはもう一つ大仕事があった。民進党の支持母体で、選挙の実務の大半を担う連合を説得せねば、構想は水泡に帰す。
 前原は25日午後、都内で連合会長の神津里季生とひそかに会い、「安倍政権を打倒するため力を貸してほしい」と頭を下げた。

 「民進党の自主再建」を持論とする神津だが、長い沈黙の後、こう言った。
 「希望の党民進党と連合との政策協定を丸飲みするなら支援しよう」
 神津は翌27日午後、連合本部で開いた中央執行委員会で「厳秘」と前置きした上で、小池新党との合流構想を説明した。左派の強い官公労系幹部は反発したが、神津はなんとか一任を取り付けた。
 連合の支持を取り付けた前原は26日午後10時すぎ、都内の料理店で小池と初めて向き合った。

 前原は、民進党希望の党の完全合流を求めたが、小池は「第2民進党」と批判されることを恐れ、「議員の個別吸収」を譲らなかった。2人が折り合ったのは、日付が変わる少し前だった。

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 民進党希望の党の合流構想の裏にはもう一つ、民進党の「金庫」をめぐる暗闘があった。
 民進党は年に約90億円の政党助成金を受け取っている。「締まり屋」の先々代代表の岡田克也は「来るべき日のために」と最小限しか使わず、前代表の蓮舫は使うすべを知らなかった。このため、民進党の「金庫」には150億円前後の金が眠っているとされる。
 これに対し、希望の党はほぼすっからかん。このため、公認希望者には供託金を含めて700万円の拠出を求めていた。細野はなぜか「一人1千万円」を要求していた。
 全選挙区での候補者擁立を目指す小池は、この資金はのどから手が出るほど欲しいはず。この資金をめぐり、今後は前原と小池、そして参院民進党による激しい争奪戦が起こる可能性がある。

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 今後の焦点は小池が都知事を辞め、衆院選に出馬するかに移る。
 小池は28日午後、日本記者クラブで会見し、「今の国会が変わらない限り、都政でしっかり頑張る」と出馬を否定した。だが、小池が出馬しない限り、希望の党に破壊力は生まれない。世論の動向をじっくり見ながら、待望論が出るのを待っている可能性は十分ある。
 小沢の動向も気になる。民進党との合流構想から弾かれたようにも見えるが、28日昼の自由党両院議員総会では上機嫌だった。
 「本会議を欠席してたら解散されたそうです。ふっふっふっ。なんやかんや動きがあるけど、われわれも政権交代のため何をすべきか今後のことを決めたい」
 こう語るとカツカレーをパクついた。