迫り来る「ロボット軍拡」競争
コラム:迫り来る「ロボット軍拡」競争
これはまさしく革命的な変化で、すべての主要国が他をリードしたいと考えている。以前から、無人システムを持つことにより、各国が戦争に走りやすくなるのではないかと懸念する声が上がっていた。今日では、非常にリアルなリスク管理が、そもそも人間の手を離れてしまうのではないかと考える人もいる。
テクノロジー系起業家のイーロン・マスク氏は以前からずっと、人工知能(AI)に関して人類はきわめて深刻な失敗を犯す瀬戸際にある、と警告してきた。同氏は先月さらに、自律性を持つ兵器プラットフォームは、壊滅的な結果を生みかねない軍拡競争を引き起こす可能性がある、と強い警告を発した。
マスク氏の警告からまもなく、その指摘を裏付けるかのように、ロシアのプーチン大統領は学生を相手に、無人兵器テクノロジーが状況を一変させるだろうと語り、ロシアがこのテクノロジーに力を注ぐことを明言した。「この分野でリーダーとなる者は、世界を支配するだろう」とプーチン氏は語ったと伝えられている。
すでにドローンは、人間の操縦者との通信が切れた場合に空中にとどまれるよう、独立した飛行能力を備えている。近いうちに、ドローンが自ら戦術的判断を下せるようになるかもしれない。米国のジョージア工科大学では、研究者らがこの夏、多数のドローンが人間の誘導なしに空中戦を演じるプログラムを作成した。米軍も同じような製品を実験している。
ロボット工学分野で起きていること以上に重要なのは、AI分野における、さらに広範囲な発展かもしれない。これが必ずしも戦争を今以上に悲惨なものにするとは限らない。ドローンから投下される爆弾はそれ自体、有人の航空機から投下されるものよりも致死性が低いわけではない。精度が増すことで犠牲者が減少する可能性はあるものの、新たな無人システムがもたらす変化それ自体が、新たな紛争に火をつけるのではないかと一部の専門家は懸念している。
ハーバード大学ベルファーセンターが米国の情報当局関係者のためにまとめた報告書は、「革新的なテクノロジーの変化によって、政策面での発想もまったく新しくなる」と結論づけている。この報告書では、AIをめぐる「必然的な」軍拡競争は、核兵器の発明と同じくらい革命的な結果をもたらす可能性があると警告している。
AIは偵察テクノロジーの効率を劇的に改善する可能性がある。単一のシステムで、数百万件ものデジタル通信による会話やハッキングした個人用デバイス、その他の情報源を監視することが可能になるからだ。民主的な監視がほとんど、あるいはまったく存在しない一部の国家においては特に、これは恐ろしい意味を持つ可能性がある。
先日英国で行われたパネルディスカッションで、かつて英国の特殊部隊指揮官を務めたグレアム・ラム中将は、2030年までにテクノロジーの画期的進歩(AIだけでなく、量子コンピューターなど)によって、まったく予測不可能な変化が生まれるだろうと予言した。ラム中将は、特殊部隊の一部としてロボットやAIを伴う要素が配備されても不思議はないと示唆している。米陸軍が「有人/無人編成」と呼んでいるものだ。
ほとんどの国は自国の国防用AIについて慎重に秘密を守っているが、それが結局のところ、マスク氏の警告する軍拡競争を加速してしまっている。一部の科学者はすでに、アーノルド・シュワルツェネッガー主演の映画「ターミネーター」シリーズに出てくる、米国がサイバー攻撃を懸念して重要な軍事システムの管理を人工知能「スカイネット」に委ねるという想定が現実になるのではないかと懸念している。
ロボットのシステムは、ハッキングや通信妨害に対するぜい弱性があり、あるいは電子戦においてはあっさり運用不能になってしまう可能性がある。こうした手法があるため、イラクにおける米軍主導の部隊は、過激派組織「イスラム国」が使用する市販のドローンをほぼ無力化することができた。ロシアもウクライナにおいて、西側諸国で製造されたドローンに対して同様の手法を用いた。
皮肉なことに、北朝鮮危機をきっかけに、今なお最も危険なテクノロジーは、実は70年以上前に発明されたもの、つまり核兵器とそれを運搬するミサイルなのかもしれない、ということをわれわれは思い知らされている。仮に人類が核による滅亡を避けられるとしても、今後のAIとロボットによる革命も、同じように人類の存亡にかかわる課題であることが証明されることになるかもしれない。