ETF購入に2つの誤解 「6兆円」維持した日銀の真意 編集委員 清水功哉

ETF購入に2つの誤解 「6兆円」維持した日銀の真意
編集委員 清水功哉

 日本株の相場が上昇基調で、日銀による上場投資信託ETF)購入の必要性が低下しているとの声が出るなか、31日の金融政策決定会合は「年間約6兆円」としてきたETF購入方針の維持を全員一致で決めた。黒田東彦総裁は会合終了後の記者会見で今回の決定について説明し、今後も株式市場のリスクプレミアム縮小に努める姿勢を示した。ETF買い入れについて、日銀はマーケットに2つの誤解を与えてきたようだ。黒田総裁の発言も踏まえつつ、日銀の真意について考えてみた。
金融政策決定会合を終え、記者会見する日銀の黒田総裁(31日午後、日銀本店)
金融政策決定会合を終え、記者会見する日銀の黒田総裁(31日午後、日銀本店)

 ETF購入に関する第1の誤解は、「最近の株式市場の過熱を理由に、ETF購入の必要性がなくなってきた、と日銀がみているのでないか」とする見方だ。日経平均株価が一時およそ21年ぶりに2万2000円台を付けるなど、10月に入り株価は上昇基調を強めた。こうした中、ETFを購入しない状態が29日まで続いたのは事実だ。
 だが、最近の株価は「企業収益の改善期待にみあうかたちで上昇している」(金融システムリポート)というのが日銀の評価で、過熱しているとはみていない。黒田総裁も記者会見で「資産市場や金融機関行動において過度の期待の強気化を示す動きは観察されていない」と述べた。

 さらに、「株価に悪影響を及ぼしかねないリスクには引き続き注意が必要」というのが日銀の判断だ。31日公表の経済・物価情勢の展望(展望リポート)も、海外経済の動向に関する様々な不確実性にあらためて言及した。株式のリスクプレミアム縮小に努める必要性も依然消えていないということだ。
 もちろん、日銀の介入により株価形成がゆがむ副作用にも注意が必要だが、現時点では株価下支えのメリットの方がなお大きい、というのが日銀の立場だ。

 第2の誤解は、日銀が6兆円の枠を維持した以上、年末までにそれを完全に消化するとの見方だ。そうなるとまだ1兆円を上回る規模の購入が必要になる。だが、ここで忘れてはいけないのは、6兆円はあくまで「約」(英文ではabout)が付いた目安のようなものである点だ。黒田総裁も「幅のある表現で、特定の期間の定めもない」と述べた。「株価が好調なら、完全消化のための強引な買い入れは必要ない」と日銀は考えている。すなわち「常識の範囲内でおおむね6兆円になっていればいい」ということであり、30日に久しぶりに実施したETF購入でも、額を従来よりやや小さい709億円とした。

 そもそも、ETF買い入れは午前の株価が下落した場合に実施するのが一般的。仮に年末に向けて株価が上昇基調を続けたとすると、この条件を満たすケースは10月と同じように少なくなるだろう。6兆円の枠を完全に消化しようとすれば、1回当たりの購入額を増やさなければならなくなる。市場環境が改善しているのに増額するのは奇妙であり、日銀は不自然な印象を与える対応をできるだけ避けたい考えだ。

 先ほど触れたように、経済・物価情勢の先行きのリスクが消えていないのは事実だが、その度合いは徐々に小さくなっているとの声が日銀内にある。展望リポートでも、前回7月のリポートで「下振れリスクの方が大きい」としていた経済について、「リスクがおおむね上下にバランスしている」とする判断を示した。もちろん、物価に関しては依然「下振れリスクの方が大きい」としているが、ETF購入は柔軟に対応しそうだ。黒田総裁も31日の記者会見で「市場の状況に応じて今後もETFの買い入れを進めていく」と語った。

 実は、長期国債の買い入れに関しては、「年間約80兆円」をめどとして示しつつ、実際にはそれを下回る60兆円前後のペースの購入になってきている。「約6兆円」のETF購入についても事実上の緩和縮小(テーパリング)が進むのか。この点は年末に向けて市場の関心を集めそうだ。