トヨタはこれまで水素技術の開発に巨額を投資してきた。同技術を巡っては、米電気自動車テスラ(
TSLA.O)の
イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が「非常に愚か」と指摘しているものの、
トヨタはガソリン車の代替には、テスラの「モデルX」のような全電気自動車と、自社の水素FCVの両方の技術が必要だと考えている。
トヨタの内山田竹志会長は、
東京モーターショー開幕前にロイターに対し、EVと水素FCVの間には、一方が利益を得ればもう一方が損失を受けるといった「
ゼロサム」的な敵対関係はないとみているとし、「FCVについて手を緩めるつもりは全くない」と述べた。
トヨタは2014年にセダン型量産車「ミライ」を724万円の価格で発表し、ガソリン車に代わる主な車として燃料電池車普及への取り組みを開始。その後、米国など世界でもミライを発売した。しかし中国や欧州を含む主要市場が電気自動車への傾倒を加速するのに伴い、燃料電池車を巡る当初の興奮は薄れてきた。
これまでに販売されたミライは4300台。一方、大ヒット車種となる
ハイブリッド車(HV)「
プリウス」の販売台数は約400万台に上る。
ただ同社は水素カーにも強みがあるとみている。こうした自動車は、
燃料電池に水素と空気中の酸素を取り込み
、化学反応させて電気を作り、動力にする。
EVが直面する大きな問題の一つは充電時間の長さで、中には最大18時間というケースもある。自動車メーカーが走行距離を長くするためより多くの電池を搭載しようとする中、この問題は増幅している。
ミライの開発責任者、田中義和氏は、急速充電の技術は問題解決につながっているものの、大半の一般ドライバーにとっては30─40分の待機時間は依然として長過ぎると述べた。また、何度も急速充電をすればバッテリーの寿命が大幅に短縮されると、同氏や他のエンジニアは指摘している。
水素を燃料として走るFCVの場合、水素補給にかかる時間は5分以下と短い一方、技術のコスト高や
水素ステーションの不足が課題となっている。
田中氏は、
水素ステーション不足の問題を補うため、走行距離を大幅に伸ばすことも目指している。
まだ構想段階ではあるものの、田中氏はミライの「実用的な」走行距離を現行の350─400キロメートルから500キロ程度に伸ばしたい考え。エアコンや不要なアクセルの使用などにより、FCVの実際の走行距離は通常、発表されている距離(650キロ)の65─70%となる。
田中氏は、
燃料電池システムの効率化を進め、水素を駆動力に変換するその効率の拡大が鍵になると指摘。また、より大きな燃料タンクの設置スペースを確保するため車体のデザインの効率性も高めたいとしている。
<中国への期待>
トヨタは、水素FCVにとって最も期待できる市場は中国だと指摘する。中国は電気自動車の普及を強く促進する一方で、FCV技術の活用にも注力し始めている。
上海市は先月、水素充填(じゅうてん)ステーションの追加、
燃料電池技術を手掛ける企業への
補助金提供、研究開発施設の設置により、FCV開発を促進する計画を示した。2025年までにFCVの乗用車2万台、商用車1万台が
上海市内を走行することを目標とした。
一方で、車両以外の水素技術促進の取り組みも進んでいる。
他の産業での水素利用を後押しするため、トヨタとエア・リキードは「水素協議会」の発足に関与した。同協議会は今年1月、スイスのダボスで開催された世界経済フォーラムに合わせて設置されたロビー団体で、政策担当者や投資家に対し、水素を利用した新エネルギー移行に向けた活動を行っている。この移行については発電、家庭向けエネルギーに加えて、モビリティの分野も含まれているという。
電力の貯蔵と輸送は容易でなく、送電網のバッファーがほとんどないことから、水素協議会は高需要時には電力供給は限られ、安定性に欠ける可能性があると指摘している。
トヨタの内山田氏は、水素技術の大規模な採用によってこの問題を解決できるとの考えを示した。
夜間に発電され、使用されなかった電力や、
太陽光発電と
風力発電によって作られた電力は、ガソリンと同様に液体水素として貯蔵と輸送が容易になる。電気を直接
リチウムイオン電池に蓄電することももちろん可能だが、電池の大きさや重さを考慮すると輸送は容易でない。
前出の田中氏は、水素から発電するのではなく「ダイレクトに電気を使える」という利点を認め、「イーロン・マスク氏は正しい。電気自動車を直接プラグに差し込んで充電する方がいい」と指摘した。ただその上で、水素技術にはガソリンに対する実現可能な代替手段としての大きな可能性があると述べた。