宇宙と素粒子の未解明現象、解明にはスパコン「京」が千台あっても足りない…

宇宙と素粒子の未解明現象、解明にはスパコン「京」が千台あっても足りない…

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地球から約1万光年離れた超新星爆発の痕跡「カシオペヤA」。米航空宇宙局(NASA)の赤外線宇宙望遠鏡スピッツァーなど3つの宇宙望遠鏡の観測データを基に着色した(NASA提供・共同)

 幼いころ、夜空を眺めるのが好きだった。科学雑誌、テレビのサイエンス番組、1980年代後半のハレー彗星(すいせい)接近や超新星爆発などの一大天体イベントの影響もあり、私はいつしか神秘的で広大な宇宙に魅了されていた。そして今、素粒子を研究することで宇宙が「始まった」その時を解明する、人類の夢を追い続けている。
 われわれの宇宙は、約138億年前にビッグバンと呼ばれる急激な爆発的膨張によって誕生した。
 宇宙は最初、クォークや電子やグルーオンといった素粒子(物質を構成する最小単位のこと)がドロドロに溶けた状態であった。ビッグバンから約0・0001秒後、膨張とともに宇宙が冷えて、1兆度ぐらいになると、クォーク3つが強く結びつき陽子や中性子が作られた。まるで水が氷に変化するかのように、宇宙の物質の状態が急激に変化したのである。
 このような現象のことを「相転移」と呼ぶ。相転移にはいくつか種類があり、この種類によって宇宙進化のシナリオが異なってくる。現在、宇宙はとてつもなく大きいが、実はその進化とミクロなスケールでの物理現象には密接な関係があるのだ。
 クォークグルーオンの間には量子色力学(QCD)という物理法則が働く。残念ながらQCDは一般的に式の変形だけで答えを導き出すことはできず、数値シミュレーションによって答えを得るしかない。そこでスーパーコンピュータースパコン)が必要になるのだ。

 今、必要だと考えられている計算を全部いっぺんにやろうとするとスパコン「京(けい)」が1千台あっても足らない。だから私は、少しでも効率よく計算できるような方法を研究しつつ、宇宙と素粒子の未解明現象を調べている。
 ドイツのレーゲンスブルク大の研究員時代には、IBM社と共同でQCD計算専用スパコンを開発したが、他分野の研究者や技術者との共同研究は思いの外楽しかった。今、富士通と共同でポスト「京」の開発を行っているが、ドイツ時代の経験が役に立っている。
 宇宙には、まだわかっていないことがたくさんある。物理学の最先端に身を置き、未来永劫変わることのない真理の探究に少しでも貢献できれば幸せだ。
 中村宜文(なかむら・よしふみ) 理研AICS研究員。博士(理学)。平成17年、金沢大大学院自然科学研究科博士後期課程修了。同年、ドイツ電子シンクロトロン研究所研究員、20(2008)年、レーゲンスブルク大研究員。22年、筑波大学研究員を経て、23年より現職。スパコンを用いた素粒子物理学の研究とポスト「京」の開発を行っている。