北朝鮮に対話を拒否された米中がついに踏み込む「最終手段」
北朝鮮に対話を拒否された米中がついに踏み込む「最終手段」
テロ国家再指定はそのための一手だった「説得に応じない」ことは明白
米国のトランプ政権が11月20日、北朝鮮を「テロ支援国家」に再指定した。北朝鮮を訪れた中国特使による「仲介」が失敗したためだ。米国にとって、中国頼みの交渉は手詰まりになっている。こうなると、鍵を握るのはロシアである。
いまは、ひとつ判断を間違えれば、重大な結果をもたらしかねない局面だ。先の米中首脳会談を通じて、米中は緊密な関係を深めている。そう考えると、中国は不調に終わった宋特使と北朝鮮側の会談内容を米国に伝達した可能性もある。トランプ氏は特使の「成果なし」を確認したうえで、再指定に踏み切ったとみて間違いない。
誤解が許されないのは、中国と北朝鮮の間も同じである。
宋特使は中国の考え方とともに、軍事攻撃も辞さないトランプ氏の固い決意を北朝鮮側に伝えたはずだ。トランプ氏は特使派遣について「大きな動きだ。何が起きるか見てみよう」とツイートしていた。これは「オレの意図をしっかり北朝鮮に伝えろよ」という中国向けのメッセージでもある。その意味で、特使はトランプ氏のメッセンジャー役も務めていた。
ワシントン・ポスト紙によれば、米国は「60日間、核とミサイル発射実験を停止すれば、米朝対話に応じる」考えを北朝鮮に提示していた。トランプ氏は再指定の準備を整えたうえで、アジア歴訪に出発している。この時点で、米国は硬軟両用の構えだった。
トランプとプーチン「急接近」の背景
となると、トランプ氏に残された手段は何か。それはロシアを積極的にかませる戦略だ。実際、そういう展開になった。
先週11月17日公開コラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53526)で書いたように、米ロは先のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせて、トランプ・プーチン会談を開く準備をしていた。ところが、実際にはドタキャンされた。
プーチン氏は記者会見で、外交文書のとりまとめをめぐってロシア側の事務方に不手際があったことを認め「関係者を処分する」と発言している。つまり、大統領自身は米ロ会談を望んでいたが、上手くいかなかったのだ。
ロシアはクリミア侵攻後、米国から経済制裁を受けている。その後、シリアのアサド政権に対する支援や米大統領選への介入疑惑も加わって、制裁措置は強化された。トランプ氏が北朝鮮問題でロシアの協力を求めてくるなら、ロシアは逆に制裁緩和を求めるだろう。
これを裏返して米国から見れば、ロシアに対する制裁緩和を代償にすれば、北朝鮮問題でロシアから共同歩調を引き出す可能性は十分にある。プーチン氏がこれまで北朝鮮問題であまり前面に出てこなかったのは、最後に自分が「漁夫の利」と主導権を握る展開を待っていたからかもしれない。
今後の展開はどうなるのか。先週のコラムで少し触れたが、トランプ氏は「米国と中国、それにロシアが歩調をそろえて北朝鮮に核とミサイルの破棄を迫るシナリオ」を描く、とみる。
具体的に言えば、これから習近平、プーチン両氏と交渉を重ねて、最終的にはトランプ、習近平、プーチンの3巨頭がどこかで一堂に顔を合わせる。そして北朝鮮に対して、軍事的圧力を背景に3国がそろって「核とミサイルの放棄」を求める。それが理想形だろう。
日本が切り捨てられるかもしれない
ただ、そううまく事が運ぶとは限らない。これまで中ロは表向き「米韓合同軍事演習の凍結」と「核・ミサイル開発の凍結」(ダブル・フリーズ案)を唱えている。ところが、ロシア側からは「北朝鮮の核保有を容認する」かのような発言も飛び出している。
たとえば、プーチン氏は6月2日、北朝鮮の核開発について「小さな国々は自らの独立や安全と主権を守るためには、核兵器を持つ以外、他の手段がないと思っている」と述べた(http://www.asahi.com/articles/ASK631V8SK63UHBI003.html)。これは米国を批判する文脈の中で出た発言だ。
核保有を容認しても「大陸間弾道ミサイル(ICBM)を放棄させれば、とりあえず米国の安全は確保されるではないか」というのが、ロシアの本音かもしれない。これは、米国のスーザン・ライス前大統領補佐官らの主張とも重なり合っている。
そうなると、取り残されるのは日本と韓国だ。日本と韓国はすでに数百発が実戦配備されている中距離ミサイル、ノドンの射程に入っている。完成された小型核兵器がノドンの弾頭に装着されたら、日本と韓国は北朝鮮の核に脅かされたまま生きていく形になってしまう。
トランプ氏は「同盟国を見捨てない」と繰り返し言明している。だが、プーチン氏との交渉次第で話がどう転んでいくか、予断は許さない。
そう考えると、日本の左派が唱える「米国の言いなりだ」とか「日本は対話路線を米国に求めよ」などという主張がいかに的外れか、分かるだろう。