「ポスト安倍」、長期政権の再現が難しい理由

ポスト安倍」、長期政権の再現が難しい理由


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[東京 14日 ロイター] - 自ら主導した変革によって官邸の力を高めてきた安倍晋三首相だが、政権の長期化を可能にした大きな要因は、強力な政治同盟と野党の貧弱さ、そして強運にある。
このような「ハットトリック」を、後継となるポスト安倍が再現するのは困難かもしれない。
安倍首相(63)は、政権トップとして再登板した2012年12月以来、最も厳しい政治危機の最中にある。昭恵夫人と繋がりがあった学校法人「森友学園」に対する大阪府豊中市の国有地売却において、「身びいき」な対応を取ったのではないかと疑われている。
安倍首相は、自身や妻がこの土地売買に介入したことを否定している。だがこの疑惑により、今年9月に行われる自民党総裁選での3選が阻まれ、首相交代が予想より早く実現する可能性が浮上している。
同首相が実施した改革の1つが、2014年に行った内閣人事局の設置だ。これにより、安倍首相と側近の菅義偉官房長官は、数百に及ぶ省庁の幹部人事の決定権を手中に収め、霞が関の官僚機構をより強力に掌握することが可能となった。
これは、過去20年にわたり、官邸への権力集中を進めてきた中で最新の一手となった。
「安倍首相は、それ以前から始まっていた『誰が最終責任者か』を明確にするための改革の集大成だ。安倍氏の後は、どう制度が機能するかは属人的になるだろう」と、米コロンビア大のジェラルド・カーティス名誉教授は言う。
安倍首相と菅官房長官は、強化された影響力を巧みに行使した。例えば、内閣人事局が設置される以前にも、安倍首相は、自衛隊を巡る平和憲法による制限の緩和を目指すという、自身の考えに同調的な元外交官を、憲法解釈を担当する内閣のポストに起用していた。

安倍首相はまた、側近による強固なインナーサークルを作り上げている。これらの中には、2006─2007年の第1次安倍政権の失敗から学んだ者も多い。第1次安倍政権は、閣僚不祥事や、与党の過半数割れを起こした参院選、自らの健康問題などが原因で、安倍氏が唐突に首相の座を去る結果に終わった。

「信頼する友人で形成されたインサイダーグループが、極めて安定的に政権運営を担っている」と、エクィティファンドのウィズダムツリー・ジャパンのジェスパー・コール最高経営責任者(CEO)は指摘する。「極めて非日本的な形で、彼(安倍氏)は、権力を行使し、制度の枠組みを利用することを恐れていない」

<あめとムチ>
野党が分裂し、民主党政権時代の混乱ぶりが有権者の記憶にあったことも、安倍首相に有利に働いた。民主党はその後、3党に分裂。野党票の分散や、投票率の低迷もあり、安倍首相は3度の衆院選で連立与党を圧勝に導いた。
日銀の超金融緩和策と財政支出を柱とする成長戦略「アベノミクス」により、日本が1980年代以降で最も長期にわたる経済成長を達成したことも、有権者の意識にある。ただ、消費は減速しかねず、賃金上昇も弱いままだ。
この4年で2度解散総選挙に踏み切った安倍首相の決断も、政権トップの座に挑戦するよりも、再選を果たすことに自民党議員の関心を向けさせ、党内の歩調を保つ効果があった。その一方で安倍首相は、公共事業で選挙区の支持者に報いている。
安倍首相は、巧みに「あめとムチ」を使いこなしていると、東大の内山融教授は指摘する。
しかし、情報へのアクセスを制限することによってメディアの批判を抑えたり、官僚への統制を強化したりする首相戦略の一部は、裏目に出つつあるのかもしれない。
自民党内のライバルたちは、今回の「身びいき」スキャンダルを公に批判するなど、威勢を強めつつある。
「安倍首相はメディアに宣戦布告し、メディアは今、復讐しつつある」と、テンプル大日本校アジア研究学科ディレクターのジェフリー・キングストン教授は言う。
安倍首相の「天敵」と言われるリベラルな朝日新聞は、森友学園への国有地売却を巡る、財務省による決裁書類の改ざんを最初に報じた。
「安倍首相は、官僚の自律性にも宣戦布告した。だが私は、官僚が負けるとは思わない」と、キングストン氏は指摘する。
<後継首相は短命か>
安倍首相の後任候補として名前が挙がっている岸田文雄前外相や石破茂元防衛相には、安倍氏のように官邸の権力を操るスキルを持った側近が周辺にいないと、アナリストは分析する。
そのため、日本の首相が、回転ドアのように頻繁に交代する事態に再び陥ることを懸念する専門家もいる。
第2次安倍政権が発足する前の5年間で、5人の首相が誕生した。1989年─2001年にかけては9人の首相が登場した後に、小泉純一郎首相が5年の長期政権を担った。
「いま安倍首相が退陣すれば、次の首相は2年ともたないだろう」と、コール氏は予測する。「安倍氏は、積極的な首相だ。次の首相は誰であれ、受動的になるだろう」
(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)