産経抄 3月25日

 日本の有人ロケットが火星に着いた。安倍晋三首相は地表に巨大な日の丸を描かせた。次に中国のロケットが着いた。習近平国家主席は「日の丸の上から赤いペンキを塗れ」と指示し、中国国旗に変えさせた。最後に着いたのは米国のロケットである。
 ▼トランプ大統領は言った。「上にコカ・コーラとでも書いておけ」。早坂隆さんの『新・世界の日本人ジョーク集』(中公新書ラクレ)にある。外国企業の商品や技術に見境なく塗料をかぶせ「メード・イン・チャイナ」と居直る。コピー大国への当てつけだろう。
 ▼知的財産の侵害といい、外国企業への締め付けといい、横紙破りの商慣行で国土を肥やしてきた中国には、いずれ歯止めをかける必要があった。それにしても禁じ手に訴えるのは考えものである。トランプ米政権が、中国製品に25%の追加関税を課す制裁を決めた。
 ▼こちらも国際ルールなどお構いなしの一方的な発動で、最大600億ドル(約6兆3千億円)の製品が対象になるという。中国も報復の構えを見せており、貿易戦争の様相である。「保護主義には保護主義で」という不毛な拳の応酬は、世界の景気を冷やしかねない。

 ▼本来なら、各国が手を結んで中国に改心を迫るのが筋だろう。気になるのはトランプ氏の対日観である。「長い間、米国を出し抜いた」との表現でなじり、鉄鋼・アルミニウムの輸入制限対象から日本を外していない。安倍首相と演出した蜜月ぶりは何だったのか。
 ▼世界1位と2位の経済大国が殴り合っても勝者は生まれない。落としどころを探るのに、日本が一肌脱ぐ余地はあるのか。全てを自分のものにしたがる国と「米国第一」に凝り固まる大統領、悩ましいのはどちらも常識で測り難いことである。