対北強硬派ボルトン氏、国家安保担当大統領補佐官に就任

対北強硬派ボルトン氏、国家安保担当大統領補佐官に就任 先制攻撃主張 外交派との対立懸念

国家安全保障問題担当の大統領補佐官に就任したボルトン氏。政権の調整役としてどのような采配を振るうかが注目される(AP)
 国家安全保障問題担当の大統領補佐官に就任したボルトン氏。政権の調整役としてどのような采配を振るうかが注目される(AP)

 【ワシントン=黒瀬悦成】ブッシュ(子)米政権下で国連大使などを務めたジョン・ボルトン氏が9日、トランプ大統領の補佐官(国家安全保障問題担当)に就任した。5月末までに米朝首脳会談の実施が見込まれる中、北朝鮮やイラン、中国などに対して強硬論を唱えてきたボルトン氏が、政権を束ねる「調整役」として対北朝鮮政策などでどのような采配を振るうかが注目される。
筋金入りの強硬派
 先に解任されたマクマスター氏の後任として迎えられたボルトン氏に対しては、賛否両論が噴出。特に民主党勢力からは「最悪の選択だ」(カーター元大統領)などとして、同氏の「タカ派的姿勢」を問題視する声が絶えない。
 しかし、ボルトン氏は国務次官(軍備管理・国際安全保障担当)当時の2003年、北朝鮮の核関連物資の密輸阻止を狙った「大量破壊兵器拡散防止構想」(PSI)を始動させるなど、トランプ政権が最大懸案と位置づける北朝鮮問題で確固とした実績を持つ、指折りの安全保障の専門家であるのも事実だ。
 北朝鮮核兵器で米本土を脅かすようであれば、先制攻撃を決行すべきだとする主張も、保守勢力の間では北朝鮮に明確なメッセージを送るものであるとして高く評価されている。

 米紙ウォールストリート・ジャーナル(3月22日付)は社説で「(ボルトン氏の就任で)北朝鮮は、今や米国に対し虚勢は通用しないことを理解したはずだ」と歓迎の意を示した。
マティス氏との関係
 問題となりそうなのは、「自分が常に正しい」として主張を押し通し、反論されれば進んで対決するという強い個性の持ち主とされるボルトン氏がトランプ氏の黒子に徹し、関係省庁との調整を踏まえて同氏に適切な政策案を提示するという、補佐官本来の役割を破綻なく実行できるかだ。
 その中でも特に注目されるのが、ボルトン氏とマティス国防長官との関係だ。
 強硬姿勢に傾きがちなトランプ氏の外交・安保路線の「修正役」を務め、北朝鮮問題で「外交解決優先」の立場を堅持するマティス氏と、北朝鮮への軍事攻撃を持論とするボルトン氏が「政策面で折り合えると思えない」(元米政府高官)との声は少なくない。
 マティス氏は先月29日、補佐官就任が決まっていたボルトン氏と国防総省で初めて会談した際、「あなたは悪魔の化身だと聞いていたので会いたかったんだ」と冗談を飛ばした上で、会談後はボルトン氏との政策遂行に「何の不安もない」と強調。ボルトン氏も補佐官として「公正な調停者」になりたいと表明した。

 周囲からの懸念の一掃を図った両氏の発言とは裏腹に、ワシントンの観測筋の間では、トランプ氏の腹心であるポンペオ次期国務長官(現中央情報局=CIA=長官)とボルトン氏が外交・安全保障政策の主導権を握り、マティス氏は孤立化の様相を強める恐れが高いとの見方も出ている。
政策に変更なし?
 一方でトランプ氏は、「力による平和」を希求しつつ、地域情勢に関しては大規模かつ長期的な軍事介入の回避を図る、かつての「レーガン・ドクトリン」の信奉者でもある。
 また、ボルトン氏は北朝鮮やイラン問題に関してはトランプ氏と大筋で主張に違いはないとみられ、ボルトン氏の政権入りで方針が劇的に転換するとは想定しにくいとの指摘も多い。
 政策研究機関ヘリテージ財団のジェームズ・カラファノ研究員は「トランプ氏がボルトン氏を補佐官に招いたのは、現行の安保政策を変更するためではなく、政策判断と実行を迅速化するのが狙いだ」と指摘。これまでは海兵隊大将(退役)のマティス氏の上位となる国家安保担当補佐官が陸軍中将のマクマスター氏だったことで、ホワイトハウスマティス氏に遠慮していた状況が解消されるとの見方を明らかにした。