サッカー日本、禍根残すハリルホジッチ監督解任

サッカー日本、禍根残すハリルホジッチ監督解任
サッカージャーナリスト 大住良之

 4月9日にバヒド・ハリルホジッチ監督との契約解除を発表した日本サッカー協会田嶋幸三会長は、1枚の書類を送るだけでもよかったのだが、ワールドカップ出場権獲得などこれまでの感謝の気持ちを伝えるためにパリまで出向いて本人に直接伝えたと明かした。その「誠意」がハリルホジッチ氏にも伝わったのかと考えていたら、どうやらそうではなかったようだ。
 ハリルホジッチ氏は「陰謀だ」などと報道陣に語り、訴訟も辞さない構えだという。そして4月中にも来日して記者会見を開くと息巻いている。
ハリルホジッチ氏は4月中にも来日し、記者会見を開くという
ハリルホジッチ氏は4月中にも来日し、記者会見を開くという
 日本サッカー協会は顧問弁護士と十分相談のうえ、契約解除に至ったという。その手続きに不備はなかったはずだが、ハリルホジッチ氏が承服しなければ、ワールドカップを前にさらにごたごたが続くことになる。
 ベルギーのリエージュを舞台にした日本代表の3月の2試合のパフォーマンスは、信じがたいほどに低調だった。ハリルホジッチ氏が「笛吹けども踊らず」という状況になっていたのなら、監督解任自体は仕方のないものだったかもしれない。

見逃せない2つの問題点
 だが、今回の「解任劇」には、見逃せない問題点があったように思う。
 一つはハリルホジッチ氏をサポートする立場だった西野朗前技術委員長を後任の監督に据えたことだ。
 「西野さんはハリルホジッチ監督を最後までサポートしていました。そういうロイヤルティー(忠誠ぶり)があるからこそ、技術委員長として最後までサポートに徹してくれたからこそ、監督にふさわしいと思った」
 田嶋会長はそう説明した。そして「日本代表の監督人事は会長の専権事項」と、自分自身で監督交代を決めたことを話した。
 しかしどう考えても、西野前技術委員長は今回の解任劇に重大な責任を負わなければならない立場のはず。技術委員長にも責任を取らせて解任するならともかく、逆に監督就任を求める、また西野氏もそれを受けるというのは、理にかなっていない。
 それ以上に大きな問題は、田嶋会長がその説明のなかで選手たちを中心にコーチら周辺を含めて話を聞いて、選手たちとの「コミュニケーションの溝」「信頼関係の喪失」と結論を出したと説明したことだ。

 「選手にとっていい監督とは、自分を使ってくれる監督」とよくいわれる。どんなにうまくいっているチームでも、なかなか使ってもらえない選手がいる。そうした選手たちが不満を持つのは避けられない。
 15日夜のNHKのスポーツニュースに出演した田嶋会長は「自分が出られないから監督を代えてくれなどという選手は一人もいない。日本のサッカーというものを本当に考えているということがわかった」と話したが、それは甘いのではないだろうか。
W杯でいかに勝つかが使命
12日、就任記者会見を終え握手する西野監督(右)と田嶋会長
12日、就任記者会見を終え握手する西野監督(右)と田嶋会長
 ハリルホジッチ氏は、ワールドカップでいかに勝つかを考えてチームをつくってきた。
 日本は「フィジカルが弱い」といわれてきた。だから2014年ワールドカップまで「日本らしいサッカー」として、技術の高さや集団で協力し合えるという長所を生かしてパスをつなぐサッカーを志向してきた。
 ワールドカップで1次リーグを勝ち上がれなくても、「日本のサッカーは美しい」「見ていて楽しい」とほめられることで満足できるなら、それでいい。しかしハリルホジッチ氏が求められていると感じたもの、そして日本サッカー協会が期待したのは、そういうことではなかった。1次リーグを突破し、決勝トーナメント1回戦から準々決勝へ、さらにその上へと勝ち進むことがミッションだった。
 だからこそ、ハリルホジッチ氏は「デュエル(1対1の強さ)」「縦に速いサッカー」などを掲げ、激しく体を張って戦い、ボールを奪ったら相手が守備組織を整える前に攻めきる攻撃を求めたのだ。そのサッカーは、17年8月にワールドカップ出場を決めたオーストラリア戦で見事に実現され、ようやく日本代表が新しいサッカーをつかんだかのように思われた。
 しかしこのサッカーを続けるのは、精神的にも肉体的にも非常にきつい。ワールドカップ後の親善試合で一度もそうしたサッカーができず、かといってしっかりとしたパスができるわけでもなく、どんどん中途半端な方向に行ってしまっていたのは確かだ。
 こうした状況で選手たちが考えたのが、オーストラリア戦のサッカーを取り戻すことではなく、「日本らしいサッカー」への回帰だった。「ハリルのサッカーは日本人には無理」「もっとパスをつなぐサッカーをしたほうが自分たちに合っている」などの発言は、田嶋会長が言うような「日本のサッカー」のためではなく、あんなきついサッカーはしたくないという甘えにすぎない、と私は思う。

 仮に、選手たちが心から「ワールドカップで勝つにはハリルのサッカーではだめだ」と考えているにしても、選手たちの話を聞いて監督の解任を決めるというのは、日本のサッカーに大きな禍根を残しかねない。
2017年8月28日、オーストラリア戦を前にしたハリルホジッチ氏(右)と西野氏=共同
2017年8月28日、オーストラリア戦を前にしたハリルホジッチ氏(右)と西野氏=共同
 日本代表はロシアのワールドカップで終わるわけではない。その後にも新しい目標に向かって新監督が就任し、チームがつくられる。

今後の監督選びに悪影響も
 日本サッカー協会が「これは」と思う人に監督就任のオファーをしたとき、相手は「選手の意見に流されて監督を解任する協会でどんな仕事ができるだろうか」と疑念を抱かないだろうか。日本人、外国人を問わず、有能な監督に「この協会とは仕事をしたくない」などと思われたら、そのダメージは大きい。
 ハリルホジッチ氏の解任は、避けがたいものだったかもしれない。しかし後任に前技術委員長を据えるのは、他に人材がいないといっても、非常にまずい人事だった。そして何より、解任の理由として選手たちの意見を取り入れた結果であることがクローズアップされてしまったのは、大きな過ちだった。
 「代表監督人事は会長の専権事項」というなら、田嶋会長は「自分の目で見てダメだと思ったから解任した」とだけ言えばよかった(そして技術委員長も一緒に解任すべきだった)。言葉が多くなればなるほど、事態は悪い方向に転がっていく。
 ワールドカップ西野監督が指揮を執ることが決まった以上、大会準備が順調に進み、監督の期待通り選手たちが持てる力をフルに発揮して納得いく戦いをしてくれることを祈りたい。しかし日本サッカー協会としては、その前にハリルホジッチ氏との対決という、解任以上に難しい仕事が待っている。