韓国サムスンの「誤算」、高級TVでソニーやLGに後塵

韓国サムスンの「誤算」、高級TVでソニーやLGに後塵


[ソウル 2日 ロイター] - 2013年開催された米ラスベガスでのコンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)で、韓国サムスン電子(005930.KS)の新製品として展示され、脚光を浴びたのは、クレジットカード程度の薄さしかないスクリーンが売り物の有機EL(OLED)テレビだった。
55インチ型の小売価格は当時約1万ドル(約109万円)。サムスンは同年、大金を投じて超富裕層向けに有機ELテレビの売り込みを行った。販促イベントとして、世界的超高級マンション、ロンドンのワン・ハイド・パークで住民限定のペントハウス・パーティも行われた。
だが、2015年までに、サムスン電子有機ELテレビから撤退。電流に反応して発光する有機化合物のモジュールで構成された薄いフィルムをベースとする有機EL技術はコストが高く、受け入れる市場環境がまだ整っていない、というのが撤退の理由だった。
代わりに、サムスン電子は、バックライト付きで、「量子ドット」と呼ばれる半導体ナノ結晶を使って色を生成し画質を改善する、先端的な液晶ディスプレイ(LCD)の開発に集中することを決めた。「QLEDテレビ」と呼ばれている技術だ。
これは高くつく誤算となった。
有機ELテレビはその後、製造コストが急激に低下する中で、サイズが55インチ以上で価格2500ドル以上の高級テレビ市場における主役の座に躍り出ている。
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有機ELディスプレイを製造していない主要TVメーカーは、もはやサムスン電子だけだ。同社利益のうちTV事業が占める比率は3%未満であり、大きく稼いでいるのは半導体と携帯電話の事業部門だ。
とはいえ、利ざやの大きい高級テレビ市場で主導権を失ったことはサムスンにとって大きな痛手となる。
有機ELテレビの製造中止が犠牲の大きい失敗だったかどうか、またその決断を下したのは誰かという点について、サムスンはコメントしなかった。
有機ELテレビやQLEDテレビに関する近年のオンラインレビューによれば、韓国LG電子(066570.KS)やソニー(6758.T)が製造する有機ELテレビが、画像品質の高さでファンを魅了している。特に指摘されているのは、よりリアルな色彩と高い解像度、魅力的なデザイン、そしてますますリーズナブルになりつつある価格だ。
とはいえ、サムスンのQLEDテレビにファンがいないわけではない。画像品質は改善されており、価格も安くなっているが、レビューでトップに取り上げられてはいない。

「高級テレビ市場で有機ELテレビのシェアが急増しているのは、傑出した画像品質の直接的な結果だ」。調査会社ディスプレイ・サプライチェーン・コンサルタンツのロス・ヤング最高経営責任者(CEO)はそう語る。「サムスンが2017年の新製品で、画像品質よりも製品デザインを強調したのは、失敗だったかもしれない」

調査会社IHSマークイットによれば、高級TV市場の世界売上高(ドル換算)に占めるサムスンのシェアは、2015年の54.7%から、昨年は18.5%にまで低下してしまった。一方、ソニーとLGはそれぞれ36.9%、33%の市場シェアを確保し、サムスンを一気に追い越してしまった。

それでもサムスンは世界最大のテレビメーカーであり、市場でトップの座を12年間維持している。またGfKのデータによれば、高級テレビ市場のシェアでも4割を超え、首位につけている。ただしこのデータは、IHSが「高級テレビ」と定義する価格2500ドル以上という基準に到達しない55インチテレビも含んでいる。

<製造効率化が進行>
サムスン電子が、テレビ事業をLCD技術ベースにすると決定した背景には、現在は機能停止しているサムスングループ未来戦略室の提言がある、と事情に詳しい関係者は語る。
「未来戦略室は、実績の乏しい有機ELに移行するよりも、LCDに注力する方が収益性が向上すると提案していた」と同関係者は、匿名を条件にロイターに語った。
つまり、テレビ事業は収益性低下に苦しんでおり、サムスンとしては、高コストの有機ELよりLCD技術の方が収益性に優ると感じていた、というのが有機EL撤退を決定した理由だというのだ。
問題は、この決定が下された時期、LGではすでに、はるかに効率性の高い有機ELディスプレイ向け製造プロセスの開発に着手していたという点だ。
LG製55インチ有機ELテレビの小売価格は、2013年の1500万ウォン(約152万円)から、今年はたったの300万ウォン(約30万円)にまで低下した、と同社は語る。
未来戦略室が関わったサムスンの決断が疑問視されるのは、これが初めてではない。
サムスン電子の崔志成(チェ・ジソン)副会長が室長を務めていた未来戦略室は昨年、サムスングループの事実上のトップである李在鎔(イ・ジェヨン)サムスン電子副会長が贈賄罪などで逮捕された政治スキャンダルの中で批判を浴び、閉鎖に至った。
李被告は容疑を否認しており、今年2月に控訴審で執行猶予付き判決を受け、釈放された。
サムソンは、同社が有機ELテレビを製造していない最大の理由は、画面の「焼き付き」、つまり長時間同じ画像を表示させておくと残像が残ってしまう問題だ、とロイターに説明した。
一方、LGは自身の米国向けウェブサイトのなかで、こうした焼き付き現象は、ほとんどすべてのタイプのディスプレイで生じ得るが、同社では画面へのダメージを防ぐ技術によってこの問題に対処し、短期的な問題を修正していると述べている。
<決算数字は語る>
こうした企業間の闘いが決算に与える影響は、先月一段と鮮明さを増している。LGは先月、テレビ事業の四半期利益が、77%と飛躍的な伸びを記録し、1─3月期の利益率が過去最高の14%に達したと発表。
サムスン電子は先月26日、テレビ及び家電製品を扱う家電部門の四半期利益が32%減少したと発表。製品ラインアップを変更し、低・中価格帯テレビの一部販売を中止したことで、前年同期から減収となっていると報告した。
10年間で総額8000億円の損失を計上していたソニーのテレビ事業は、2017年度に黒字に転じた。
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黒字化を目指したソニーは、販売する海外市場を絞り込み、サプライヤー多角化し、有機ELとLCD双方のディスプレイを提供した。またサムスン電子とのLCD合弁事業を解消している。
ソニーの戦略は実を結んだ。
世界のテレビ市場におけるソニーのシェアは昨年、金額ベースでは10.2%にすぎなかったが、高級テレビ市場では首位に立った。シンハン・インベストメントのアナリスト、ジョン・ソー氏は、同社の9─12月期営業利益率が10.7%に達したと指摘する。
高級テレビ市場において、サムスンはさらに苦戦を強いられる可能性がある。同市場における有機ELテレビのシェアが、昨年の51%から今年は71%に上昇すると、IHSは予想しているためだ。
しかも、6月には2018年サッカーFIFAワールドカップのロシア大会が開幕する。1カ月にわたって開催されるワールド杯は、常に世界中で最も多くの視聴者を集めるテレビイベントであり、テレビメーカーにとって、販売に拍車をかける絶好の機会となる。
サムスンの元ディスプレイ技術者で、現在はUBIリサーチを率いる李忠壎(イ・チュンフン)氏は、撤退決定時点ではサムスン有機EL技術を未成熟だと考えていたため愚かな決定とは思えなかったが、今となっては「サムスンは失敗を犯したようだ」と語る。
有機ELテレビを製造再開する計画があるかを尋ねると、サムスンはより競争力のある他の技術に注力するという従来の立場を繰り返した。
サムスンのテレビ事業部を率いる韓宗熙(ハン・ジョンヒ)氏は先月、記者団に対し「(戦略に)変更はない」と語った。
ディスプレイ分野に詳しいアナリストからは、サムスンが価格面で反撃する可能性があることから、まだ勝敗が決したわけではないという声も出ている。

オンライン情報によれば、サムスンの中位機種である55インチQLEDテレビ「Q7F」の価格は、昨年の2500ドルから今年は1900ドルにまで低下。一方、LGの55インチ有機ELテレビ「C7」は、当初2017年に3500ドルで発売されたが、後継機種の「C8」は今年2500ドルで発売されている。

「われわれの目標は、何年連続でナンバーワンになることではなく、永遠にナンバーワンであり続けることだ」とサムスンの韓氏は語った。