F-2後継機、無人子機搭載でなにをさせる? 「より高度な管制下で無人機の運用」とは

F-2後継機、無人子機搭載でなにをさせる? 「より高度な管制下で無人機の運用」とは

5/7(月) 6:20配信

乗りものニュース
日本政府、米英にF-2後継機要求性能を伝達か

 読売新聞は2018年4月21日、防衛省が今年の3月に、アメリカ、イギリスの両政府に対して、航空自衛隊F-2後継機に要求される性能の一部を伝達したと報じました。

【写真】「ファントムII」を無人機化、QF-4

 F-2後継機は開発コストの低減や開発期間を短縮するため、外国との共同開発も検討されています。今回の伝達は要求性能を伝えて、アメリカ、イギリスの両政府と2ヵ国の企業が、どのような形で対応できるかを確認するためのものですが、読売新聞はアメリカ、イギリスに伝達されたF-2戦闘機を後継する新戦闘機の要求性能の中に、「小型無人(航空)機を『子機』として搭載する」という項目があるとしています。

 戦闘機への無人航空機の搭載は過去にも例が無いわけではなく、アメリカとイスラエルは戦闘機から投下後にレーダーを欺瞞するチャフや、赤外線誘導型ミサイルを欺瞞するフレアを撒き散らしながら飛行するデコイ(囮)無人機のADM-141「TALD」を運用しています。また日本でも実用化には至りませんでしたが、防衛省F-15に搭載する自律飛行型の写真偵察無人航空機「TACOM」の研究を行なっていました。

 TALDやTACOMは母機から投下後、事前にプログラムされた行動をとるというもので、母機からの管制(コントロール)は想定していません。一方、読売新聞が報じたところによれば、F-2後継機に搭載する小型無人航空機は、投下後も母機から管制を受けながらレーダーなどのセンサーで情報を収集し、その情報を母機へ送信する能力を持つ、TALDやTACOMに比べてより高度な航空機と想定されているようです。

防衛省が描く将来の戦闘機のビジョンとは

 防衛省は2010(平成22)年8月に、将来の航空自衛隊の戦闘機に必要な技術を、どのように研究開発していくかをまとめたレポート「将来戦闘機の研究開発ビジョン」を発表しています。

 このレポートでは、F-2が退役を開始する20年後の実用化をめざす5つの技術と、2040年から2050年ごろの実用化を目指すふたつの技術の研究開発を進めていく方針が示されていますが、後者には有人戦闘機と無人航空機を連携して運用するための研究開発「将来アセットとのクラウド」が含まれていました。

 読売新聞の報道が事実であるならば、防衛省は有人戦闘機と無人航空機の連携運用能力の実用化を、20年ほど前倒しすることを決めたことになります。

 防衛省が有人戦闘機と無人機の連携運用能力の実用化を前倒しする決断を下したとすれば、その理由はアメリカとヨーロッパで研究開発が進められている、将来戦闘機の多くが、この能力を持つためなのではないかと考えられます。

 アメリカ海軍は現在の主力戦闘機であるF/A-18E/F「スーパーホーネット」を後継する新戦闘機「F/A-XX」の検討作業を進めていますが、「スーパーホーネット」のメーカーでもあるボーイングが発表したF/A-XXのコンセプトCGには、F/A-XXが無人航空機と共に飛行する姿が描かれています。

 フランスとドイツは4月25日に、ドイツ空軍のユーロファイター「タイフーン」と、フランス空海軍のダッソー「ラファール」を後継する新戦闘機の共同開発に合意しましたが、ドイツ側の担当企業となるエアバスが2017年に発表した将来戦闘機のコンセプト動画では、戦闘機からの要請を受け、A400M輸送機から発進した前方偵察型とTALDのようなデコイ型、そして地上攻撃型の無人航空機が、戦闘機からの指令を受けて作戦を遂行しています。

 こうした例からも、防衛省F-2後継機と連携する無人航空機においても、前方偵察機型だけではなく、デコイ型や攻撃型が開発される可能性もあると筆者(竹内修:軍事ジャーナリスト)には思われます。


無人子機のパートナーは英企業の可能性も

 防衛装備の開発を担当する防衛装備庁は、2016(平成28)年8月に発表した「将来無人装備の研究開発ビジョン」という名称の報告書の中で、有人戦闘機との共同作戦も可能な無人航空機に不可欠な自律飛行技術の研究に注力していく方針を明らかにしています。

 ただ、この報告書のなかでも認めているように、欧米や中国がすでに技術実証機の飛行を行なっているのに対し、日本では要素技術の研究にとどまっており、残念ながら日本は遅れをとっていると言わざるを得ません。

 防衛装備庁は2017(平成29)年3月に、イギリス国防省と将来戦闘機の協力の可能性を探ることで合意していますが、この協力の範疇には無人航空機も含まれています。イギリスのBAEシステムズは戦闘用無人機の技術実証機「タラニス」を開発し、飛行試験に駒を進めており、この分野では世界をリードする企業のひとつと言えます。F-2後継機が国際共同開発となった場合、有人戦闘機のパートナーはロッキード・マーチンなどのアメリカ系企業が選定される可能性が高いと見られていますが、F-2後継機と行動を共にする無人航空機は、BAEシステムズがパートナーとなる可能性もあるのではないかと考えられます。

 ヨーロッパや中国、韓国などでは戦闘機と行動を共にするのではなく、単独で偵察や攻撃を行なう無人戦闘用航空機の研究開発も進められています。

 アメリカ海軍は空母で運用する無人偵察/攻撃機「UCLASS」の開発に取り組み、技術実証機の「X-47B」はニミッツ級航空母艦からの発着艦試験にも成功しています。ただ、予算不足などから「UCLASS」計画は中止されてしまいました。イギリスとフランスは2014年に無人戦闘用航空機の共同研究に合意し、現在様々な研究が進められていますが、イギリスのEUヨーロッパ連合)離脱により、将来を危ぶむ声もあります。

 ただ、少子高齢化という問題を抱えている先進国にとって、無人戦闘用航空機は、将来予想されるパイロット不足の解決策として大きな期待が寄せられているのも確かで、ある程度時間はかかるでしょうが、現在有人機が担当している偵察や爆撃といった任務は、将来的には無人航空機が担当することになると見られています。


対人圧勝の無人機が実用化されない理由

 他方、現在研究開発が行なわれている無人戦闘用航空機は、空対空戦闘を行なえるほどのエンジン出力や機動性、運動性は求められておらず、空対空戦闘を行なえる無人航空機の実用化の目処は立っていません。

 アメリカのシンシナティ大学が開発した戦闘機用人工知能(AI)の「ALPHA」は、元アメリカ空軍の戦闘機パイロットとの空対空戦闘シミュレーションで圧勝しており、将来は空対空戦闘を行なう無人機も登場するものと思われますが、たとえば国籍不明機に対するスクランブル(緊急発進)といった、平時と有事のグレーゾーンにある任務にAIが制御する戦闘機を投入し、AIの判断ミスによる攻撃によって戦争が勃発した場合、誰が責任を取るのかといった、倫理的な問題も残されています。

 アメリカで政府関連事業の評価を行なっている戦略予算評価センターは、伝統的に戦闘機パイロットが重視されるアメリカ海軍では、無人機に対する反発が大きいという報告を発表しています。これは海軍だけでなく空軍も同様で、アメリカ空軍の機関誌『エアフォース・マガジン』によれば、有人機から無人機に配置転換されたパイロットの多くが大きな不満を抱えていると報じており、空対空戦闘を行なう無人航空機の導入には、このような軍の「文化」も、大きな障壁になるのではないかと思われます。