給食牛乳の異味異臭問題はなぜ繰り返されるのか? 検査をしても「異常なし」

給食牛乳の異味異臭問題はなぜ繰り返されるのか? 検査をしても「異常なし」


明治が小学校で実施している「みるく教室」のようす。スライドやクイズなどを交えて牛乳について学ぶ(明治提供)
明治が小学校で実施している「みるく教室」のようす。スライドやクイズなどを交えて牛乳について学ぶ(明治提供)

 給食の牛乳に児童らが、異味や異臭がすると訴える問題が繰り返し起きている。ただ、検査をしても異常はみつからず、安全性には問題がない場合がほとんどだ。にもかかわらず牛乳の異味・異臭問題がなくならないのは、なぜなのか。
ガソリンっぽい、チーズくさい
 学校給食の異味異臭問題は、最近でも4月13日の参議院の特別委員会で取り上げられた。共産党議員が、平成29年9月に東京都新宿区や板橋区などの小中学校で約1900人の児童生徒が給食に出た牛乳の味やにおいの異常を訴えた件で、消費者庁に適切な調査を行うよう求めた。
 新宿区教育委員会によると、児童生徒は「味が薄い」「チーズくさい」「ガソリンっぽいにおい」「脂っこい」などと訴えた。
 牛乳は明治の戸田工場(埼玉県戸田市)が製造。同県の保健所が大腸菌群や残留農薬、化学物質などの検査を実施したが、いずれも異常は認められなかった。
 給食牛乳の異味異臭問題はたいていの場合、調べても異常が見つからない。例えば26年5月には千葉県の児童生徒から「牛乳の味がおかしい」との声が相次いだうえ、1200人超が腹痛を、約300人が下痢を訴えるなどの事態となったが、安全検査では異常が見つからなかった。ちょうどそのひと月前、神奈川県や東京都内の小中学校でも「味が違う」「にがい」などの訴えがあったが、これも同様だった。

 明治が小学校で実施している「みるく教室」のようす。スライドやクイズなどを交えて牛乳について学ぶ(明治提供)
牛乳は農産物
 「子供は大人より暗示にかかりやすく、集団パニックが起こりやすい」と指摘するのは、精神科医勝田吉彰関西福祉大学教授だ。誰かが「おかしい」と言い出せば、それが“伝染”する子供たちの特性が、給食牛乳の異味異臭問題の根底にはある、とする考え方だ。
 新宿区などに牛乳を納めていた明治は、ホームページで「調査の結果、商品の安全性に問題はなかった」との見解を掲載した際、「一般的にお子さまは風味に敏感と言われており、特定の地域で生産された生乳(せいにゅう)の風味を、通常と異なると感じられた」などと分析した。
 牛乳は、産地によって味が異なる。子供たちは、そこに敏感に反応するという説明だ。
 「食の安全・安心財団」の唐木英明理事長も「成分を調整していない牛乳は野菜や果物と同じ農産物なのに、加工食品と誤解している人が多い」ことが根本的な問題だと指摘する。
 唐木理事長によると、加工食品は、色や味、におい、大きさ、包装はすべて同じで、消費者はその規格から外れたものを『おかしい』と感じる。一方、農産物は収穫された場所や時期によって味やにおいに違い(個性)がある。
 「昔の人は牛乳が農産物であり、個性があることをだれもが知っていたが、生産地と消費地が離れている今は誤解も仕方がないのでしょうね」と話している。

 明治が小学校で実施している「みるく教室」のようす。スライドやクイズなどを交えて牛乳について学ぶ(明治提供)
においや味は手がかり
 ただ、今年4月に茨城県であった同様の事例では、牛乳を調べたところ製造業者が誤って洗浄液を混入していたことがわかった。幸い健康被害は出なかったが、安全性ではアウトだった。
 においや味は食品の腐敗などを知る手がかりだ。子供たちの訴えをむげにすることは、決してできない以上、給食牛乳の異味異臭問題はなくなりそうもない。
 ところで、新宿区はこの新学期から、給食牛乳を瓶入りから紙パックに変更した。これに伴い納入業者は、紙パックの給食牛乳を製造していない明治から他社に変わった。
 区教育は「瓶入り牛乳は重い。当初から紙パック入りに切り替える予定だった」というが、同時に明治の見解に「1千人を超える子供が異常を訴えているのに、子供の過剰反応が原因のような指摘には違和感がある。『誠意が感じられない』と反発する保護者もいた」と明かす。
 明治は、牛乳についての理解を深めてもらおうと、18年から出張授業による食育活動を行っている。小学校を中心に行う牛乳をテーマにした「みるく教室」は、29年度に全国で約1400回実施した。(文化部 平沢裕子)