空前の「がん治療薬」開発競争、投資家が味わうジレンマ

空前の「がん治療薬」開発競争、投資家が味わうジレンマ[ロンドン 2日 ロイター] - 欧米や中国で新種のがん治療薬の開発競争が激しさを増し、技術革新の速度も速まってきた。患者にとっては朗報だが、投資家は多数の中でどの企業が成功を収めるか見極めるのが難しく、ジレンマを味わっている。

英国の小規模なバイオ技術企業、オートラスはキメラ抗原受容体T細胞(CAR─T細胞)の開発に手ごたえを感じ、米ナスダック市場への上場を計画中だ。CAR─T細胞療法はがん免疫療法の1種で、オートラスのほかにも多数の企業が開発を競っている。

研究開発に多額の投資が行われているのは欧米だけではない。ロイターによる最新データの分析によると、中国で行われているCAR─T細胞療法の臨床試験は162件と、米国を上回っている。
がん免疫療法全体で見ると、医薬品の種類は2000以上と空前の数になる。各企業は独自の薬を開発しようとしのぎを削っているが、多くは似通った薬だ。
ファーマプロジェクツのデータベースによると、現在研究・開発中のがん治療薬は全体で5200種で、1年前に比べて7.6%増えた。科学者は臨床試験用に十分な数の患者を確保するのに苦労するほどだ。
開発中の新薬全体に占めるがん治療薬の割合は、2010年の26.8%から現在は34.1%に拡大した。新たな療法が成功すれば年間の治療費が10万ドルを超えることも多い有望分野とあって、企業が資源を集中させている。
<投資選別は慎重に>
スイスのノバルティス(NOVN.S)と米ギリアド・サイエンシズ(GILD.O)がそれぞれ開発したCAR─T細胞療法が昨年初めて、希少な血液がんの療法として米食品医薬品局(FDA)の承認を得たことで、がん治療の世界が一変する可能性が現実味を帯びた。
この療法が固形がんにも効くようになれば、なおさら希望は膨らむ。
しかし、数多くの医薬品企業とバイオ技術企業ががん治療分野に殺到する状況は、投資家にとっては痛しかゆしだ。よく似た製品がひしめいているため、どの企業が商業的な成功を収めるかの見極めが難しい。
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新興企業などに資金を提供するシリコン・バレー・バンク(ロンドン)の生命科学責任者、ヌーマン・ヘイク氏は「競争が激しいということは、より慎重を期す必要があるということだ」と語る。
「バイオ技術における従来の投資テーマは、競争相手が少なく差別化され、価値を生み出す医薬品を見つけることだった。現在の状況は患者にとっては大いに恩恵があるが、問題は、競争優位性がどの程度長持ちするか、商業的な競争力がどの程度あるかだ」とヘイク氏は続けた。
トムソン・ロイターがまとめたアナリスト予想によると、がん免疫療法の売上高は2021年までに250億ドルを超える見通しで、年間1000億ドルのがん治療薬市場の中で最も急成長を遂げている分野だ。
医薬品企業の幹部は、その中で勝ち組となる療法の開発を目指しているが、競争の激しさを認識していないわけではない。
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NOVN.S
  • NOVN.S
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  • ROG.S

世界最大のがん治療薬企業であるロシュ(ROG.S)のセベリン・シュワン最高経営責任者(CEO)は「巨大な脱落者」が出てくると予想。仏サノフィの調査責任者Elias Zerhouni氏は先週アナリストに対し、複数の社が同時に開発を進めているため、各社とも研究・開発費を回収するまでの猶予期間が短くなるとの警戒感を示した。

非営利のキャンサー・リサーチ・インスティテュートのアイマン・シャラビ最高医薬品責任者も「技術革新のサイクルが大幅に短くなった」と語った。
(Ben Hirschler記者)