米朝ユーフォリア崩壊で円高再来の現実味

2018年5月22日 / 19:02 / 32分前更新

コラム:米朝ユーフォリア崩壊で円高再来の現実味=斉藤洋二氏斉藤洋二 ネクスト経済研究所代表

[東京 22日] - 3月後半に104円台で底値を探っていたドル円相場はその後上昇に転じ、5月18日には111円台に乗せ、数カ月内に年初来高値113円をトライするとの予想すら出始めている。

この背景には、武田薬品工業によるアイルランド製薬大手シャイアー大型買収(総額約7兆円)に絡んだ実需玉や、米金利高(米10年債利回りは22日現在3%近辺)を反映したドル買いなどが指摘されている。
だが、何よりも大きな要因は、昨春以降、折に触れリスクオフの円高に作用してきた米朝対立の沈静化観測ではないだろうか。北朝鮮の脅威と隣り合わせの日本に安心感が広がり、円安地合いが強まったことは大きい。

2月の平昌冬季五輪以降、朝鮮半島では南北融和ムードが高まり、さらに米韓朝3カ国間での非核化に向けた動きが鮮明化してきた。実際この間、北朝鮮を複数回訪れ、金正恩キム・ジョンウン朝鮮労働党委員長と会談したポンぺオ米国務長官(中央情報局=CIA前長官)の姿は、1970年代初頭に米中の電撃的な国交回復(ニクソン・ショック)をもたらしたキッシンジャー大統領補佐官(当時)を彷彿させるものだ。

また、1989年11月のベルリンの壁崩壊から1990年10月の東西ドイツ統一に至る過程で欧州を覆ったユーフォリア(陶酔感)の記憶もよみがえらせてくれる。
もっとも、現実を冷静に見つめれば、朝鮮半島の非核化については、即時の核兵器廃棄とその査察を制裁解除の出発点とする米国と、非核化の段階的実施を約束することの見返りに早期の制裁緩和を取り付けたい北朝鮮との交渉スタンスの違いは明らかである。
実際、米朝ともここにきて、6月12日にシンガポールで予定される首脳会談を中止する可能性をほのめかすなど、雲行きが再び怪しくなってきた。「米朝ユーフォリア」に支えられてきた円安相場が、逆回転を始めるタイミングに差し掛かっているのかもしれない。
<リアルタイム政治ショーが相場狂わす時代>
ところで、このところの国際政治は一段と映像化が進み、政治ショーの様相を呈している。

韓国と北朝鮮軍事境界線がある板門店で4月27日に行われた南北首脳会談では、両首脳の固い握手に始まり、散策、橋の上での会談、共同会見と見る者を飽きさせない演出が映像を通じて逐次、世界の隅々まで届けられた。このような為政者による政治ショーが、リアルタイムで投資家の目を曇らせる時代になったと言えよう。

例えば、南北首脳会談で「完全な非核化を通じ、核のない朝鮮半島の実現」を目指すことは確認されたが、今後の具体的なプランについては事実上、米朝首脳会談に委ねられたわけであり、市場が「地政学リスクは後退した」と楽観視できる材料は実は全く手元にないと言ってよい。
むしろ、過去の雪解けムードがいずれも短命に終わり、北朝鮮の核ミサイル開発が水面下で予想を上回るペースで進行したこと、また金委員長による政敵の粛清や異母兄の暗殺疑惑などを考えれば、南北融和機運は北朝鮮の時間稼ぎにすぎないとの疑念を持つ方が妥当ではないか。