はやぶさ2 往路大詰め、小惑星接近へ軌道調整

はやぶさ2 往路大詰め、小惑星接近へ軌道調整

科学&新技術
2018/6/3 6:30
 生命の起源を探る探査機「はやぶさ2」が、目的地の小惑星「りゅうぐう」に到着するまで1カ月を切った。地球からの移動に使ってきたイオンエンジンを5日にも停止。軌道を微修正するエンジンに切り替え、本格的な接近を始める。最も早くて21日とされる観測開始へ最初のヤマ場を迎える。
りゅうぐうに到着するはやぶさ2の想像図(池下章裕氏・JAXA提供)
はやぶさ2が搭載するカメラの1つ(JAXA提供)
 はやぶさ2はりゅうぐうを視野にとらえる位置まできた。到着時の高度20キロメートルまで近づくうえで難関となるのが軌道調整だ。
 これまでりゅうぐうの位置は大まかに推定されており、誤差は約200キロメートルはあるとみられている。宇宙航空研究開発機構JAXA)などのプロジェクトチームは星を眺めて機体の姿勢を知る装置を使い、5月11~14日にりゅうぐうを撮影。画像をもとに誤差を130キロメートルに減らし、正確な軌道を求める作業を始めた。
 はやぶさ2は2014年12月の打ち上げから約3年半がたつ。これだけ時間がかかったのは、りゅうぐうが通る軌道へ正確に入るためだ。
 到着から1年半の滞在中、はやぶさ2はりゅうぐうに着陸しているわけではない。地球と火星の軌道の間を通るりゅうぐうに横づけし、高度20キロメートルを定位置に観測を続ける。並走するには、りゅうぐうの軌道に合わせる必要がある。はやぶさ2の製造に関わったNECの大島武プロジェクトディレクタは「搭載するカメラで軌道を正確に求める」と説明する。
 カメラでは星を背景にりゅうぐうを撮る。星の位置はあらかじめ特定されているため、りゅうぐうの方向が分かる。目を離さないようにして、距離を慎重に縮める。大島プロジェクトディレクタは「(機体がぶつかる恐れのある)着地と比べ、それほどリスクは大きくない」と話す。
 機器のトラブル以外に到着を阻む原因があるとすれば、人類未到の小惑星のみえない顔だ。その一つが地球に月があるように、りゅうぐうが衛星を伴う場合だ。
 りゅうぐうの大きさは約900メートルとされる。これだけ小さいと衛星が存在する可能性は低いとみられるが、進路をふさぐ障害物になりかねない。接近を一時停止する事態も想定される。接近開始以降、カメラでりゅうぐうの周囲もくまなく観察する計画だ。
 これまで目立ったトラブルはなく、往路のゴールが見えてきた。JAXAなどの研究者にとってめったにないチャンスで、観測計画は盛りだくさんだ。現地の様子が明らかになるこれからは、優先する計画などを状況に合わせて判断する。
 はやぶさ2の先代にあたる探査機「はやぶさ」は「地球と小惑星を往復できれば成功」といわれた。はやぶさ2では金属の弾丸を小惑星にぶつけて表面を掘り返し、生命の起源に迫る物質を地球に持ち帰るという難度の高い目標を掲げる。
 挑戦に失敗はつきものだが、成果を欲張りすぎれば地球への帰還が難しくなる。計画ありきではなく、現実を見すえた冷静な判断が求められる。(加藤宏志)