韓国の文在寅大統領は米朝「橋渡し」役にあらず 目指すゴールは同じではない!?
韓国の文在寅大統領は米朝「橋渡し」役にあらず 目指すゴールは同じではない!?
6月12日にシンガポールでの開催が再び決定した米朝首脳会談まで波乱含みの情勢下、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の“活躍”に日米外交・安全保障関係者の「『注目』が集まっている」。“活躍”に「『期待』が集まっている」と報ずる韓国メディアもあるが、違う。
わずか1カ月の間に2回の南北首脳会談に臨んだ文大統領は、北朝鮮・朝鮮労働党の金正恩(キム・ジョンウン)委員長とドナルド・トランプ米大統領との「橋渡し」役を自任する。しかし、金委員長の発言や意思を「加工」し、米韓首脳会談でトランプ大統領に説明していたとする疑惑が、日米外交・安全保障関係者の間で浮上。今後も「加工」説明を繰り返すのではと懸念が出ているのだ。CIA(米中央情報局)に言わせれば「『注目』も間違い。金正恩政権に肩入れし、米政府の判断を誤らせかねない危ない文大統領を『監視』している」ということになる。
北延命を謀る文政権がトランプ政権へ「捏造伝達」?
トランプ政権にとり、「北朝鮮が大好き」な文在寅政権は、信頼する安倍晋三政権とは違い、敵か味方かを断定する「彼我の識別」に困難が伴う。敵だと身構えられる金委員長との駆け引きの方が、ある意味でストレスが少ないかもしれない。ストレスはトランプ大統領の書簡に透けて見えた。
《私たちは、会談は北朝鮮が求めたものだと伝えられたが、それが見当違いだったということが分かった》
複数の日米外交・安全保障関係者が、「橋渡し」役たる文在寅政権は北朝鮮の米朝首脳会談実施に向かう姿勢&言動を「加工」した上でトランプ政権に伝えていたと観測。書簡は、トランプ大統領の不快感を示唆したと分析しているのである。
お復習いするが、米国は「完全かつ検証可能で不可逆的な北朝鮮の非核化=CVID」を要求する。対する北朝鮮は中国の習近平国家主席との2回目の中朝首脳会談(5月7~8日)など複数の声明で「関係各国が責任をもって『段階的かつ同時並行的な措置』を講じ、最終的に朝鮮半島(全土)の非核化を実現させることを希望する」(金委員長)。トランプ政権の《CVID》=先行核放棄要求を突っぱねているのだ。
ところが文大統領以下、韓国の閣僚・特使(側近)らはトランプ氏を含む米政権のカウンターパートに「金委員長の非核化への情熱はホンモノだ」と刷り込み続けている。まさに「粉飾伝達」に当たる。
《例えば、南北首脳会談で「どうか、トランプ大統領に自分(金委員長)が米朝首脳会談を希望していると伝えてほしい」と作戦上、文大統領に明言しなかった可能性だ。むしろ、慌てた韓国側が「トランプ大統領は、本心ではICBM(長距離弾道ミサイル)の米本土襲来を恐れ、米朝首脳会談を望んでいる」などと吹聴→米朝首脳会談の開催条件&議題を勝手に緩和し、告げた上で→「米朝首脳会談の絶好機だ。会談しましょうよ」などと勧誘→本音では何としてでも経済制裁解除に持ち込みたい金委員長らに「首脳会談を検討してもいいよ」と言わせ→米側には「金委員長の米朝首脳会談熱望姿勢」を報告した…》
仮説が事実なら、「橋渡し」役による「粉飾伝達」どころではなく、金正恩政権の延命を謀る「売り渡し」役による「捏造伝達」に等しい。
いずれにしても、文在寅政権はなぜ、そこまでして米朝首脳会談開催にこぎつけたいのか。もちろん、「橋渡し」役を演じきり内外に影響力を行使したい野心は強烈。韓国が戦場と化す事態を防ぎ、景気・雇用を浮揚させたい思惑もある。が、もっと先がある。
《米朝首脳会談 米韓は同床異夢 韓国の文大統領が目指すゴールは米国と同じではない》
内容も文大統領の正体に肉薄している。
《米朝首脳会談開催は米国の利益にかなう結果を達成するためのプロセスだ。このプロセスと結果は、米国の安全保障以外に優先させるべき事柄がある韓国の大統領には任せられない》
WSJ社説のトーンは、トランプ政権の「対韓警戒度」を表現している。WSJの社説を裏付ける韓国側の動きもあった。韓国の李洛淵首相は5月27日、記者団を前に告白した。
「非核化問題に関して『韓国はあまり深く入り込まないでほしい』と、米国が(4月27日の南北首脳会談に際して)要請してきた」「韓国が乗り出して事態がもつれかねない問題もあり、韓国政府は(最近)発言を『自制』している」
素直な告白には驚いたが、いまだ『自制』したようには見えない。
中国の対北「入れ知恵」と闘う米国
こうして、トランプ政権が米朝首脳会談をめぐる韓国と北朝鮮の「共闘」に疑心暗鬼ながらも実施を視野に入れていた矢先、北朝鮮はミスを犯した。米FOXニュースの報道番組で、マイク・ペンス米副大統領が「(トランプ大統領を翻弄できると考えているとしたら)大きな間違いだ」と北朝鮮に警告。これに対し崔善姫・外務次官が談話(5月24日の朝鮮中央通信)で噛み付いた。いわく-
「身の程知らず」
「彼がどんなに政治的にマヌケであるか、推測して余りある」
「米国がわれわれと会談場で会うか、『核対核の対決場』で会うかは、全面的に米国の決心と行動いかんにかかっている」
「米国が経験したことのない、想像もできぬほどの恐ろしい悲劇を味わわせる」
北朝鮮の場合、「官僚の談話」は後々、言い訳可能の私的な観測気球。よもや怒ったトランプ大統領が「談話」に、米朝首脳会談中止につき書簡=「公式声明」で応じるとは考えていなかった。北朝鮮は調子に乗り過ぎた。
北朝鮮を調子に乗せたのは中国だった。今年に入って醸し出された北朝鮮の気味の悪い“融和ムード”を激変させ、反り返った態度を復活させた裏には、2回目の中朝首脳会談における、習主席による米朝首脳会談の条件を有利にする「入れ知恵」があった。中国としては、北朝鮮が強硬姿勢に戻れば「米国は中国を頼り、朝鮮半島問題での影響力を取り返せる」と踏んだのだった。
《史上最悪の中朝関係》→《水面下での米中接触~中朝国境のヒト・モノ・カネの流通管理》→《察知した金委員長が大慌て》→《平昌五輪などをテコに米朝接近》→《習主席が大慌て》→《習主席が金委員長と2度の会談~中朝国境のヒト・モノ(恐らくはカネも)の往来が一段と活発に+習主席が「入れ知恵」》→《習主席の「入れ知恵」で北朝鮮の強硬姿勢が復活》→《中朝関係の希薄化も狙いトランプ大統領が米朝会談中止宣言》→《金委員長と文大統領が驚愕》→《金委員長の焦りを見破ったトランプ大統領が米朝会談開催示唆》
「橋渡し」役の韓国に加え、「入れ知恵」役の中国が極めて難しい交渉を余計に難しくしている構図だ。米中間を、北朝鮮が振り子のように行ったり来たりしている構図でもある。