トランプ劇場と金融政策が奏でるドル円予想レンジ=鈴木健吾氏

トランプ劇場と金融政策が奏でるドル円予想レンジ=鈴木健吾氏

4月終盤以降は過去1年間の平均値である200日移動平均線(6月15日現在、110.20円程度)からおおむね上下1.5%程度の小幅なレンジ内でもみ合う展開がみられている。

地政学リスクなど一部材料が市場から退出しつつある中、米国のファンダメンタルズの強さとこれを背景とした利上げ加速期待がドル円を下支え、一方で、貿易問題や新興国市場の動向などに関するリスクが上値を抑える構図となっているようだ。
年後半もこれらがドル円のドライバーとなる可能性が高いとみているが、直近、日米欧の金融政策決定会合が開催され、また貿易問題に関してもいくつか新しい動きがあった。足元の動向と今後の相場に対する影響について、簡単に整理してみたい。
<日米欧金融政策はドル円の下支え要因>
日本時間14日早朝に結果が公表された米連邦公開市場委員会(FOMC)は、大方の想定通り0.25%の利上げを実施した。

2018年の実質国内総生産(GDP)、2019年にかけてのインフレ率、2020年にかけての失業率も改善方向に修正したことや、声明文中の「フェデラルファンド(FF)金利は長期的に適切な水準を下回る状況が続くと予想している」という文言が丸ごと削除されたこと、そして、いわゆるドットチャートにおける2018年および2019年末の政策金利予想水準が引き上げられたことなど、総じてタカ派的な内容だった。

今後数年、潜在成長率とみなされる長期的な均衡成長率(1.8%)を超える成長が期待される中、これに対応する形で緩やかな利上げを継続し、徐々に正常化から引き締めへ入っていくとの道程はおおむね市場のコンセンサスとみていいだろう。

この引き締め効果によって米景気は2019年終盤から2020年にかけて徐々に鈍化に向かう可能性が高いとみているが、それがオーバーキル(過剰引き締め)になるかどうかを判断するのは時期尚早だ。足元の米経済は減税効果もあって堅調な状況が続いており、今後少なくとも1年程度は続くとみられる米国の経済成長とFRBの利上げ姿勢はドルの下支え要因となるだろう。

14日の欧州中央銀行(ECB)理事会は、資産購入プログラム(APP)の規模縮小と年内の終了、少なくとも2019年夏まで現行の政策金利水準を維持する方針を決定した。足元の経済減速を認識しつつも、ユーロ圏経済は基調的に堅調で、中長期的にはインフレ率は目標水準に向かって上昇し、APPの段階的な縮小後もその水準が維持される見込みであると評価した。

ECBスタッフによる経済見通しにおいては、2018年の実質GDPを下方修正したものの、2019年にかけてのインフレ率と2020年にかけての失業率について改善方向に修正。ただ、市場の反応は、金利低下・株価上昇・ユーロ下落といった動きとなった。

背景には、「期待ほどタカ派的ではない」との評価があったと思われる。これは、1)6日にプラート専務理事がタカ派的な発言を行っていたことで市場の期待値がかなり強気に傾いていたこと、2)声明で少なくとも2019年の夏までは利上げを行わない方針が示されたこと、3)理事会後の記者会見でドラギ総裁が利上げについては議論しなかったとしたこと、などが影響したのだろう。

しかし、直後の評価はともかくECBの打ち出した方針は、年内の量的緩和の終了と将来の利上げ方向への転換である。目先は投機筋のユーロロング・ポジションの積み上がりなどもあってユーロは軟調な動きを示すとも思われるが、少なくとも対円では徐々に底堅さを増していくのではないかとみられる。

本日15日には日銀金融政策決定会合が開催され、金融政策の現状維持が決定された。声明もおおむね前回の内容を引き継ぐものとなったが、1点、物価の現状判断について前回「消費者物価の前年比は1%程度となっている」としていた部分が「0%台後半となっている」に引き下げられた。

消費者物価の前年比2%を「物価安定の目標」として実現を目指し強力な緩和を続ける日銀にとって、その達成までの距離は足元縮まるどころか開いている。物価の見通しを引き上げた米連邦準備理事会(FRB)、ECBとの違いも鮮明だ。2019年10月に消費増税が予定されていることも加味すると、日銀の強力な緩和姿勢はより長期化する可能性が高まった。

今回示された日米欧金融政策の方向性や認識などの違いは、当面、金融政策を理由とした円買い圧力は限定的なものにとどまることを示唆している。中長期的なドル円相場の下支え要因となるだろう。