飲み物を飲むとすぐトイレに行きたくなるのはなぜ?

飲み物を飲むとすぐトイレに行きたくなるのはなぜ?


 真夏のような暑さを記録した今年の4月、5月。早くも熱中症のリスクが高まるため、こまめな水分補給は必須だ。しかし、なかには飲み物を飲むとすぐトイレに行きたくなって困るため、意識的に水分の摂取を控える人もいるのではないか。確かに会社の会議や映画の上映中にトイレに行きたくなると困ってしまうが、なぜこのような現象が起こるのか?医師に聞いてみた。
どうしてオシッコにいきたくなるの?
 お話を伺ったのは、信州大学医学部泌尿器科学教室の皆川倫範先生。まずは、私たちが尿意を感じるメカニズムについて解説してもらった。
 「尿意は、複雑なシステムで制御されています。原則的には、膀胱に尿がたまると、膀胱にある圧力センサーを介して脳みそに信号が送られます。信号が送られた後も、ある程度の量までは蓄尿が意識されませんが、膀胱内の尿量が増え、膀胱内の圧力が高まると、脳に尿意として認識されます」(皆川先生)
 生物体に何らかの反応を起こさせる最小の刺激のことを閾値(いきち)という。尿意の閾値、つまり尿意を認識するきっかけとなる最も低い刺激の値は、外部から受けるさまざまな影響によって変化するそうだ。
 「健康であっても、そのときの状況で、オシッコは近くなったり、遠のいたりします。尿意の閾値が低くなる外的な要因として、冷えが代表的です。また、ツレションのように、視覚の情報も重要です。誰かが排尿に行くのを見たり、排尿を連想させるような水の流れをみる、などは、おそらく中枢神経(大脳皮質)を介して、尿意の閾値を下げます。結果として、膀胱に異常のない人でも、尿意の閾値が低くなって、見かけ上、頻尿となります」(皆川先生)
 逆に、火事や地震など、「それどころでない緊張状態」であれば、尿意は遠のく。
 「しかし、試験前など中途半端な緊張状態では尿意は高ぶるようです。『いまのうちにオシッコに行かないと』という気持ちも働くのかもしれません」(皆川先生)
 注意したいのは、膀胱炎など、病気が原因でトイレが近くなる場合ももちろんあるということ。突然の頻尿、排尿時痛、残尿、血尿は膀胱炎の主症状。膀胱炎は女性に多い疾患で、膀胱炎を疑うような頻尿や、苦痛の強い頻尿であれば治療が必要だ。健康な人の頻尿と、病的な頻尿(病気の結果の頻尿)の区別は難しい場合があるので、困ったり悩んだりするようであれば、医療機関の受診を検討した方がよいそうだ。
「水を飲んだらすぐトイレ」は気持ちの問題
 さて、「膀胱に一定量の尿がたまると脳が尿意として認識する」というシステムからすると、飲み物を飲んですぐトイレに行きたくなるという現象は起こり得ないのではないだろうか?
 「ある側面では正しいことです。飲み物の水分子なりが尿を増やした結果排尿に至るということはありません。ですが、水を飲んだ直後に排尿したくなることはありえます。この原因は、先に述べた脳の大脳皮質の刺激を介した尿意の閾値が低下するシステムのため、とでもお答えしたいところです。水分をとって、その水分が排尿に至るまでは、吸収→血液循環→腎臓での灌流→尿の産生・再吸収→膀胱での蓄尿のプロセスが必要ですので、『すぐ』には尿意の誘発になりません。それとは別の経路の刺激、すなわち水を飲む、あるいは水を見ることで、排尿を連想することによって誘発される尿意と考えられます。膀胱の問題でなくて気持ち(大脳)の問題ともいえます」(皆川先生)
 排尿は、「自分は頻尿だ」、「水を飲むとすぐトイレに行きたくなる」、「トイレに行きたくなったらどうしよう」などと心配しすぎることでも誘発される。自分の思い込みによってさらにトイレが近くなっているという影響があるようなので、考え過ぎはよくない。
 なお、「医師を直撃!お酒を飲んでいるのにトイレが近くない人、どうしてなの?」という記事を「教えて!gooウォッチ」で公開中。併せてチェックしてみてはいかがだろうか。(酒井理恵)