「水素エネ」推し、こだわる経産省 EVシフトで孤立も 霞が関2018

「水素エネ」推し、こだわる経産省 EVシフトで孤立も
霞が関2018

政策研究
コラム(経済・政治)
経済
2018/6/19 6:30
日本経済新聞 電子版

 経済産業省が究極のクリーンエネルギーとされる水素を重視する姿勢を鮮明にしている。水素の運搬や水素が燃料の燃料自動車(FCV)開発で、日本の技術の優位性を生かせるからだ。世耕弘成経産相が旗振り役となり、普及策の拡大や予算増額などをもくろむ。ただ、世界的に電気自動車(EV)シフトが進む中、傾斜しすぎるのを危惧する声も強まっている。
■10月に国際会議を計画
 「2020年の東京五輪パラリンピックでは、福島でつくった水素で車を走らせます」。世耕氏は7日、経産省で会談した福島県の内堀雅雄知事に、こんなプランを披露した。選手村を走るバスの燃料などを想定しているという。県内の浪江町で着工予定の大規模な水素製造工場をアピールする狙いでもあった。
経産省は水素エネの普及策の拡大や予算増額をもくろむ
経産省は水素エネの普及策の拡大や予算増額をもくろむ

 今年夏に閣議決定するエネルギー基本計画でも水素重視は明確だ。太陽光や風力など再生可能エネルギーを将来的に「主力電源化」する方針だが、出力変動などの問題が生じる。この弱点を補う一つの手段として水素を位置づける。たとえば太陽光で短時間につくりすぎた電気を活用して水素を製造・貯蔵すれば、燃料として使い回せる。
 世耕氏は周辺に「予算増も検討したい」と漏らす。10月には水素に関心のある関係国を集めた国際会議も開く。これも世耕氏の発案とされる。
 ただ、水素発電やFCVなどは普及途上の技術や製品が多い。オーストラリアやブルネイから水素を輸入するといったサプライチェーンづくりに向けた取り組みも始まりつつあるが、コスト面など課題は山積する。
 政府が昨年12月にまとめた水素基本戦略によると、50年を目標にガソリンや液化天然ガス(LNG)などと同程度のコストにする。そのためには水素価格をいまの5分の1に下げる必要がある。

 ■世界の主導権獲得へ「逆張り」?
 なぜ世耕氏は水素にこだわるのか。「プラットフォームを先んじて握ることができれば、日本の勝ち筋も見えてくる」
 太陽光や風力に関する部材のシェアは海外勢が多くを握り、先進国や新興国がこぞってEVシフトを進める。
 一方で水素は運搬にかかわるインフラなどに強い日本大手が多く、FCV開発ではトヨタ自動車が先行している。EVに比べて部品点数も多く、部品メーカーへの恩恵も大きい。こうしたメリットを生かして主導権を握るには、ある程度の「逆張り」も覚悟する必要があるのかもしれない。
 ただ、頼みの日本企業も、日産自動車が独ダイムラーや米フォード・モーターと共同開発するFCVの商用化を凍結する方針。EVシフトの流れに乗り遅れないようにする動きが加速している。
 水素が想定よりも世界で普及しなければ、いくら日本勢が「プラットフォーム」の地位をつかんでも影響力は限られる。EV時代が進む中でFCVの一点張りでは「ガラパゴス化」のリスクを懸念する声も漏れる。
 経産省は年内にも、様々なエネルギー源や技術のコストや将来性などを科学的に検証する新組織を立ち上げる。中長期的な見通しを現実的に見つめながら、バランスのとれた戦略が求められる。(辻隆史)