思考停止が招く電力危機、原発「国策民営」の限界 エネルギー 日本の選択(1)
思考停止が招く電力危機、原発「国策民営」の限界
エネルギー 日本の選択(1)
日本のエネルギー政策が滞っている。原子力、再生可能エネルギー、火力とそれぞれが大きな課題に直面しているが、政府は近く閣議決定するエネルギー基本計画でも十分な具体案を打ち出せない。迫る電力危機を回避するため、いま日本がとるべき選択肢を探る。
「もっと議論しないとまずい」「核心に触れてないじゃないか」――。
コマツの坂根正弘相談役や福井県の西川一誠知事など委員から相次ぎ批判の声が上がったが、結局、経産省が基本計画案に盛り込んだ「最適な電源構成」の原発比率は2030年に20~22%。2015年に決めた前回の数値のままだった。
この「20~22%」はこの3年間、「どう実現するのか」と批判され続けてきた数字だ。現時点では絵空事に近い。
同省は基本計画の策定に向け首相官邸と擦り合わせた。「安倍政権はエネルギー問題でリスクをとるつもりはない」(政府関係者)。官邸の意向をくみ取り、原発を争点にするのは避ける方が賢明という過度な配慮が働いたとの見方もある。
エネルギーミックスでは再生可能エネルギーを全体の22~24%、石炭や天然ガスなどによる火力は56%とする目標値も据え置いた。原発で20~22%を達成できなければエネルギー供給が不安定になるが、そうしたリスクへの言及もない。
原発の本格的な再稼働が困難な状況に加え、地球温暖化対策で日本が責任を果たすためにも、もっと再エネを伸ばし火力を縮小すべきだとの指摘がある。経産省も再エネを「主力電源化する」としたが、その覚悟を示すほどの具体案は乏しい。
国が議論を避けている問題がもう一つある。原発のコストだ。
火力は石炭や天然ガスといった燃料が必要で、再エネの技術は発展途上といった理由から、国は「原発がもっとも安い」と言い続けてきた。従来の国内設備の試算では原発の発電コストは1キロワット時あたり約10円、火力は12~13円、太陽光や風力発電は20円以上だった。
だが常識は変わりつつある。ある米投資銀行の試算によると、安全対策費用がかさむ原発は約15セント(約16円)に上昇しているが、急速な普及と技術革新が進む風力や太陽光は世界で5セント程度。すでに原発を逆転した。
資源に乏しい日本が安全確保を大前提として原発を活用できれば、エネルギー安全保障の上で期待できる役割は大きい。問題は、その意義や課題、実現への工程表を説明できていないことだ。
島国の日本が隣国から電力をもらうのは現時点では難しく、いかに自国内で安定電源を確保するかが課題だ。原発にその役割の一端を担わせるとしても、計画から完成までには20~30年という長い時間がかかる。早く具体的な実行計画を決めないと間に合わない。
さらに使用済み核燃料の処理の問題は、もはや民間企業が個別に対応できる範囲を超えている。もっと国が前面に立つ必要がある。
原発の活用策を示せないなら、再エネの拡大へ大きくかじを切らないと電力供給に支障が出る。天候によって発電量が変動する再エネを使いこなすには、電気をためておく蓄電池の普及や、電力を融通し合う送電網の整備が欠かせない。
大きな投資を伴う作業の実行には、明確な針路と相当な努力が求められる。早急に思考停止から脱しないと、次世代に大きなツケを残すことになる。