宇宙の成り立ちに迫れ! 次世代加速器ILC 建設実現へ正念場
宇宙の成り立ちに迫れ! 次世代加速器ILC 建設実現へ正念場
宇宙や物質の成り立ちに迫る次世代加速器「国際リニアコライダー(ILC)」を東北地方に建設する構想が正念場を迎えている。実現すれば日本に初めて巨大な国際研究施設が誕生し、ノーベル賞級の成果が期待されるが、建設費が巨額とあって情勢は予断を許さない。(伊藤壽一郎)
ヒッグス粒子の性質を徹底解明へ
ILCは日米欧など世界の物理学者で作る組織が2013年に建設構想をまとめた。最新計画では岩手・宮城両県にまたがる北上山地の地下100メートルにトンネルを掘り、全長約20キロの直線状の粒子加速器を設置。両端から電子と陽電子をほぼ光速に加速し衝突させ、宇宙が誕生したビッグバン直後の超高温を再現する壮大な実験施設だ。30年代の稼働を目指している。
ILCも元々はヒッグス粒子の発見を視野に、全長30キロで巨大なエネルギーを発生させる構想だった。だがLHCに先を越されたため、目的を性質の解明に絞り「ヒッグス粒子工場」に路線を変更。全長を20キロに縮小し、ヒッグス粒子を量産しやすいようにエネルギーを半減させる新計画を昨年、打ち出した。
新計画は、実現のネックになっている建設費が当初の8300億円から5千億円に減る利点も大きい。LHCと違って直線状の施設のため、将来は装置を付け足して延伸し、エネルギーを高めることもできる。
新たな物理法則が見つかれば、物質の究極の姿を探る素粒子物理学に革命的な進歩をもたらす。標準理論と呼ばれる現在の基本法則は多くの実験で正しさが証明されているが、これで説明できるのは実は宇宙全体の約5%にすぎないからだ。
政府、年内にも是非判断 課題は建設費
ILCを日本に誘致するかどうかについて、政府は明確な姿勢を示していない。理由は巨額の費用負担だ。当初計画では総額8300億円を日米欧で分担し、誘致国である日本の負担額は約6割の5千億円と見込まれた。
新計画では日本の負担額は3千億円で、建設に10年かかるため年間300億円が必要になる。国際宇宙ステーション(ISS)の関連費用の年間400億円よりは少ないが、限られた科学技術予算に単純な上乗せは難しい。
物理学者でつくる国際組織は先月、日本政府に対し、年内に誘致の姿勢を明確化するよう求める声明を発表。欧州は年明けに素粒子研究の次期計画づくりに着手する予定で、それまでに日本が態度を表明しないとILC構想を盛り込むことができなくなるからだ。
社会や経済に大きな波及効果
ILCの実現には多くの先端技術が欠かせない。心臓部である加速器の高性能化や小型化などの研究開発は、社会や産業にも広く役立ちそうだ。
例えば中性子を加速して患部に当てるがん治療は、巨大な装置を使うため受診機会が限られるのがネックだったが、装置が小型化すれば多くの人が利用できるようになる。