米国が国連人権理事会から離脱した理由

米国が国連人権理事会から離脱した理由

7/18(水) 12:21配信

Wedge

 米国は6月19日、ポンペオ国務長官とヘイリー国連大使が共同記者会見を開き、国連人権理事会からの離脱を発表した。ヘイリーの会見内容の概要は次の通りである。

 国連人権理事会は、人権侵害者を保護し、政治的バイアスの汚水槽であり続けてきた。今や、我々の改革要求が顧みられていないことは明白だ。人権抑圧国が理事国として選ばれ続けている。人権理事会は政治化され続け、世界で最も深刻な人権抑圧者たちから目をそらすために、人権を守っている国々がスケープゴートにされている。

 我々は1年前、改革の進展が見られなければ米国は人権理事会を離脱すると言った。我々は人権にコミットするからこそ、人権を嘲るような、偽善的で自己満足的な組織に残ることは許されない。

 我々は改革の努力をしてきたが、我々に原則の上では賛成してくれる国々も、人権理事会を大規模、劇的、構造的に改革するための戦いに加わる勇気を持っていなかった。

 その間、理事会の状況は益々悪化した。我々の中心的目標の一つは、世界で最悪の人権侵害国の理事国選出を阻止することだが、コンゴ民主共和国のような人権侵害国が選ばれている。

 もう一つの目標は、理事会が人権侵害国を保護するのを阻止することだ。しかし、ベネズエラの人権侵害について会合は開かれていないし、昨年12月と今年1月のイランの政権による自国民殺害についても対応できていない。

 そして、もちろん、イスラエルに対する慢性的な偏見がある。国連人権理事会は、北朝鮮、イラン、シリアに対するものを合わせたよりも多くの、イスラエルに対する決議を出している。こうしたイスラエル敵視は、理事会が人権ではなく政治的バイアスに基づいて動いていることを明確に示している。

 米国は人権理事会の改革に真摯に取り組んできたが、我々の努力が成功しなかった理由は主に2つである。第一は、多くの非自由的な国々が、理事会が効果的なものになることを望まなかったからである。人権侵害国は、自らが調査対象になるのを防ぐために理事国となりたがる。ロシア、中国、キューバ、エジプトは、我々の改革の努力を駄目にしようとした。第二は、我々と考えを同じくするような国々が現状の打破に真剣に取り組もうとしなかったからである。

 多くの国が、米国の参加が人権理事会の信頼性の最後の砦なので残ってほしいというが、それゆえにこそ離脱しなければならない。人権理事会が、人権を支持する国を攻撃し、人権を侵害する国を保護するのであれば、米国はそのようなものに信頼性を与えるべきではない。我々は、人権理事会の外で人権をリードし続ける。人権理事会が改革されるようなことがあれば、我々は喜んで再加入するだろう。

出典:‘Remarks on the UN Human Rights Council’,June 19, 2018, U.S. Department of State

 国連人権理事会は、2006年に、人権委員会を改組する形で創設された。国連総会の補助機関との位置づけである。創設当初も、ブッシュ(子)政権下の米国は参加しなかった。その時も、人権侵害国が理事国に選ばれることの不当性を主な理由として挙げていた。米国が加入したのはオバマ政権になった2009年からである。

 人権侵害国が理事国に選出される、人権侵害に対して十分な対応ができていない、といった批判は、その通りである。ただ、それが離脱する理由になるかどうかは別問題であろう。ヘイリー大使の上記発言に「人権侵害国は、自らが調査対象になるのを防ぐために理事国となりたがる」とのくだりがある。それこそ、人権理事会に欠陥があるにしても米国が留まって改革の努力を続けるべき理由を図らずも示していると言える。米国の離脱は、中国をはじめとする人権侵害国を喜ばせることになる。今年3月には、中国主導で、人権状況の批判に際して、地域の特性、歴史、文化、宗教などの背景に留意するよう求めた「互恵協力決議」が採択された。この時、唯一反対したのは米国であった。

 米国の離脱の最大の理由は、もちろん、大方の指摘の通り、トランプ政権の親イスラエル的姿勢であろう。米国は、反イスラエルを理由にユネスコからの脱退を表明し、国連の決議を無視してイスラエルの首都をエルサレムと認定するなどしている。こうした一連の一方的な行動により、米国は威信と信頼性を著しく損ねる一方である。トランプ政権下の米国に、自由、民主主義、人権、法の支配などの諸価値の擁護者としての役割を求めるのは、ほとんど無理であると覚悟すべきであろう。日本や欧州の役割の重要性が増すことになる。

 なお、国連人権理事会は、北朝鮮による日本人拉致問題を取り上げるなど、日本にとって役に立っている面もある一方、「日本軍性奴隷問題」の解決を求める報告書が出されたといったこともある。人権理事会は、過度に礼賛すべき存在ではなく、賢明に対応していくことが肝要であろう。