自衛隊の次期戦闘機・F35、実は「重要ソフト」が未完成だった

自衛隊の次期戦闘機・F35、実は「重要ソフト」が未完成だった

【スクープ】もうすぐ配備されるのに…

これでは「ただの飛行機」

防衛省航空自衛隊の次期戦闘機として米国から導入するF35戦闘機のソフトウェアが未完成となっており、機関砲は撃てず、赤外線ミサイルも搭載できないことが防衛装備庁への取材でわかった。
現状では戦闘機として求められる緊急発進(スクランブル)の任務につけないことになり、最新鋭戦闘機とは名ばかりの「単なる航空機」にとどまっている。
防衛省は老朽化したF4戦闘機の後継として、F35の導入を決めた。レーダーに映りにくいステルス性が特徴で、42機を調達する。ロッキード・マーチン社で製造した4機をすでに米国で受領し、残り38機は三菱重工業で組み立てる。
問題は、昨年11月から今年2月まで米国で受領した4機を調べたところ、日米で交わした引合受諾書と異なるソフトウェアが搭載されていたことから発覚した。
防衛装備庁によると、米側は「最初からすべての機能を持ったソフトウェアを搭載するのではなく、段階的に開発を進め、機能を付加する」と説明していたが、結局、4機の受領までにソフトウェアの開発が間に合わなかった。
この4機を使った航空自衛隊パイロットや整備士の訓練が来年3月まで米国アリゾナ州のルーク空軍基地で行われているが、10月現在、ソフトウェアは未完成のまま。武器類にかかわる教育・訓練は不十分なまま終わることになる。
日本の領空を侵犯するおそれがある航空機に対し、スクランブル発進する航空自衛隊の戦闘機は、各基地とも2機を1ペアとした2ペア4機態勢をとり、いずれも機関砲弾と短距離の航空機を対象にした赤外線ミサイルを搭載する。
しかし現状のF35は、このソフトウェアの開発遅れにより、機関砲、赤外線ミサイルとも使えない。中距離の航空機に対処するレーダーミサイルなら搭載可能となっているが、レーダーミサイルはスクランブルには必ずしも必要とされていない。
つまり、F35は戦闘機としては未完成なのだ。それでも米国で受領した4機は来年3月には青森県三沢基地に配備される。ソフトウェアの完成まで任務に就けない日々が続くことになる。
その分の負担は、F15戦闘機やF2戦闘機が配備された他の部隊に回ることになり、日本の防空網が弱体化するおそれがある。

突如「33億円の値上げ」

F35をめぐる問題は、機種選定が行われた2011年当時、筆者が東京新聞で指摘するなど複数の新聞で繰り返し、取り上げられた。
機種選定の際に候補になったのはF35(米ロ社)、F/A18(米ボーイング社)、ユーロファイター(英BAEシステムズ社)の3機種。F35以外の2機種はステルス機ではないものの、リビア空爆などに参加した現役機なのに対し、F35は開発途上にあった。
何としてもステルス機が欲しい航空自衛隊は、選定基準から飛行審査を排除し、カタログ性能だけで選定すると主張した。実際に飛ばして性能を比べれば、未完成のF35が脱落するのは確実だったからである。
イカーでさえ、カタログだけで決めず、試乗するのが当たり前であることを考えれば、このような選定方法は異例中の異例であり、ご都合主義というほかない。
航空自衛隊の言い分を丸飲みした防衛省は、重要視する順に(1)性能、(2)経費、(3)国内企業参画、(4)後方支援の4項目で3機種を比べ、2011年12月、「最高得点はF35」と発表した。これにもとづき野田内閣がF35導入を閣議決定した。
F35の問題は、未完成というだけにとどまらない。調達方法も、悪名高い有償対外軍事援助(FMS)方式だったことである。
FMSとは、米国の武器輸出管理法に基づき、(1)契約価格、納期は見積もりであり、米政府はこれらに拘束されない、(2)代金は前払い、(3)米政府は自国の国益により一方的に契約解除できる、という不公平な条件を提示し、受け入れる国にのみ武器を提供するというものだ。
買い手に不利な一方的な商売だが、F35が欲しい防衛省はFMS方式による導入を受け入れた。
FMSによる「マイナス効果」は早速、現れた。
米政府は、選定段階で1機89億円の機体価格を示していたにもかかわらず、日本での選定が終わった2カ月後に発表した2013年会計年度国防予算案には、日本政府への売値を1機122億円と、33億円も値上げして掲載した。
驚いた防衛省は米国防総省に書簡を送り、「価格高騰した場合、調達を中止する可能性がある」と泣きを入れたが後の祭り。自らの落ち度を認めることになる調達中止などできるはずもなく、米政府の言い値を丸ごと受け入れ、今では日本の国有財産台帳に1機121億余円の価格が載っている。

日本の技術者を排除して「最終検査」

さらにF35をめぐるFMS調達によるもう一つの弊害が先月、日本の会計検査院の調査によって明るみに出た。
三菱重工業で組み立てる38機は、2013年度防衛費で調達を開始した2機分の生産から始まったが、国内生産が計画通りに進んでいないのである。
IHIで製造するエンジンについて、IHIと米プラット・アンド・ホイットニー社との間で締結しなければならない19品目の契約がまだ結ばれていない。
また、三菱電機でつくるレーダーなどの電子機器類は、三菱電機ノースロップ・グラマン社との10項目の契約がやはり未締結となっている。
この結果、13年度から生産を始めた2機に国内生産のエンジンやレーダーを組み込むことが不可能となり、14年度から生産開始した4機についても国内生産品を搭載するのが困難な状況となっている。
15、16、17各年度の調達分はそれぞれ6機で近く組み立て作業に入る予定だが、いつになれば国内生産品を組み込めるかは不透明だ。
現在、三菱重工業で行われている組み立て作業は、米政府を経由して提供された外国製の部品を使っている。防衛省が機種選定の際、3番目に重要な条件として挙げた国内企業参画は「絵に描いた餅」というわけだ。
なぜ、こんなことになったのか。
防衛装備庁の坂本大祐事業管理官(航空機担当)は、IHI三菱電機の米企業との契約の遅れについて「米政府の秘密保全の姿勢が厳しいことにより、米側の示した条件をクリアすることや、必要な素材の米国からの提供に時間がかかっている」と説明する。
「秘密にかかわるので細部は話せない」というが、国内で生産するとはいえ、FMS方式の厳しい制約が掛かり、米政府が要求する製造方法や製造環境を整えるのが難しいのだという。
いつまでも国内メーカーが米政府の基準をクリアできなければ、米政府が提供するエンジンやレーダーを組み込むほかない。防衛省が支払うカネは国内に回ることなく、米政府に流れていくことになる。
三菱重工業の小牧南工場で現在行われている組み立て作業では、完成した機体を別棟の検査工場に移し、日本側の技術者を排除した中で米側だけで最終検査が行われる。

IHI三菱電機の場合も最終検査は同様に米側だけで実施するとみられる。最終検査を通じてF35の最大の特徴であるステルス性を探り、エンジンや電子機器の製造技術を日本側に移転することは望めなくなった。
かつてF15など優れた米国製の戦闘機に関して技術開示料(ライセンス料)を支払い、国内で生産することにより、航空機の製造技術を獲得し、三菱リージョナルジェットMRJ)の製造・販売にこぎ着けた実績は、昔話になろうとしている。

米国が、そんなに甘いわけがない

米政府が近年、FMS方式を多用するのは、米政府の財政赤字を穴埋めするとともに、武器商売を通じて相手国をコントロールする狙いとみられる。
防衛省幹部の一人は「『オープン・ソース』すなわち技術開示と技術移転を約束したユーロファイターを選んでいればよかった」と航空自衛隊の「ステルス病」に恨み節をぶつける。
日米同盟とはいえ、商売となれば米国が別の顔をみせるのは常識中の常識である。
1980年代の次期支援戦闘機(FSX)選定の際には、米国製のF16戦闘機を母体に日米共同開発すると決まった途端、米国は約束をほごにして心臓部にあたるソフトウェアの開示を拒否した。
米国製のAH64戦闘ヘリコプターも、調達を始めて間もなく、約束をたがえて米国での生産を中止、国内の設備投資に巨費を投じた富士重工業防衛省に315億円の支払いを求めて裁判にまで発展した(富士重工業の勝訴が確定済)。
日本政府は米国に何度も煮え湯を飲まされた過去があるにもかかわらず、また同じ轍を踏んだといえる。防衛省に「学習効果」の4文字は存在しない。