トランプ政権の強硬姿勢が揺らぐ日

トランプ政権の強硬姿勢が揺らぐ日
米州総局 関根沙羅

 23日の米株式相場で、ダウ工業株30種平均は続落した。米政府は23日、中国の知的財産侵害に対する制裁関税として160億ドル(約1兆8000億円)相当の中国輸入製品に関税を発動し、中国も同額の米国製品に対する関税で応じた。中国への依存度が高い建機のキャタピラーや航空機のボーイングなどが売られ、ダウ平均を押し下げた。USスチールなど中国による報復関税の対象になった鉄鋼関係の銘柄も売られた。
アリババ集団の本社(中国・浙江省
 米中の貿易摩擦が一段と悪化したこの日、中国を代表するIT(情報技術)企業の決算に市場の注目が集まった。ニューヨーク証券取引所に上場する中国の電子商取引(EC)最大手アリババ集団だ。2018年4~6月期決算は一時的な損失の減益となったが、主力のインターネット通販が61%増、同社が力を入れる企業向けクラウド事業も2倍と好調だった。
 ところが市場の反応は冷淡だった。取引開始前に公表された好決算を受けて、株価は一時、前日比4.8%高まで買われたが、その後売りが優勢となり、結局、3%安で23日の取引を終えた。「関税によって国内製品の価格が上昇すれば、アリババの事業にも影響を与える可能性もある」(証券会社アトランティック・エクイティーズ)との懸念が根強いようだ。
 会社側も懸念を払拭するために必死にみえる。アリババのジョー・ツァイ副会長は、決算発表後の電話会見で米中の通商問題に自ら言及。アリババの事業は「中国国内の消費の機会を捉えることに注力しており、輸出への依存は低い」と訴えたが、投資家は納得しなかったようだ。
 中国IT大手に対する市場の目は厳しい。アリババ株は年初来でほぼ横ばい圏にとどまる。米ナスダックに上場する中国ネット検索大手の百度バイドゥ)も昨年末比で6%安に沈む。米国に上場するハイテク企業の構成比が高いナスダックが史上最高値圏で推移するのとは対照的だ。香港株や上海株と同様、中国銘柄は明らかに投資家から敬遠されている。
 中国など新興国不安が米国市場へのマネー流入を招き、世界の株式市場では「米国株1強」が続く。好調な米景気や株高がトランプ政権の中国に対する強気姿勢の一因になっているとの見方は少なくない。米国家経済会議(NEC)のクドロー委員長はかつて米メディアのインタビューで「中国の通貨下落は資金の逃避を意味している。中国はトラブルの山に向かっている」と指摘し、米国の優位性を強調していた。
 もっともトランプ政権が強気姿勢を今後も貫けるのか、不透明感が出てきた。トランプ氏の元顧問弁護士のマイケル・コーエン被告は21日に選挙資金法違反など8つの罪を認め、当時大統領候補者であった「トランプ氏の指示だった」と証言。トランプ氏の関与を初めて認めた。2016年の大統領選で選対本部長を務めたマナフォート被告にも脱税などで有罪評決が下された。立て続けにトランプ氏に近い人物の違法行為が発覚し、政治リスクへの警戒が高まりつつある。
 トランプ米大統領は、23日に放映された米フォックステレビのインタビューで「私が弾劾訴追されたら、株式市場は暴落するだろう。誰もがとても貧乏になる」と発言。市場を強く意識していることをうかがわせた。政治リスクが株安につながれば、トランプ政権の対中姿勢に影響するのは必至だ。その時、妥協に向かうのか、それとも一段と強硬姿勢にでるのか。現時点では予測は難しいが、市場が新たな懸念材料を抱えたことだけは間違いない。
(ニューヨーク=関根沙羅)