中国軍、対北空爆を想定か 中朝国境近くで初演習の衝撃 各国が情報収集

中国軍、対北空爆を想定か 中朝国境近くで初演習の衝撃 各国が情報収集

 中国軍が今春、中朝国境地帯を含む東北部で初めて実施した軍事演習が、各国情報当局の注目を集めている。北朝鮮金正恩キム・ジョンウン朝鮮労働党委員長の別荘や核施設、司令部など戦略要衝への一斉ピンポイント攻撃、すなわち中国版の“斬首作戦”を想定した演習ではないか-との分析もあるからだ。中朝関係は演習直前、対立から戦略的協力へ大転換したとみられていただけに、各国は中国側の意図を探ろうと情報収集を進めている。(社会部編集委員 加藤達也)
 北朝鮮との国境地帯を管内に含む中国の「北部戦区」訓練場で、「ゴールデンダーツ(金飛●=金へんに票、ひひょう)」演習が実施されたのは4月18日から25日の間だった。
 中国メディアによると、演習は中国各地の航空兵部隊やパイロット200人以上が参加し、作戦機による侵入攻撃と迎撃の地上部隊に分かれ、実戦そのままの激しいシナリオで展開されたという。
 中国メディアによると、地上の守備軍「チーム・ブルー」と上空からの攻撃軍「チーム・レッド」が“激突”した演習は、次のようなものだった。
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 中国東北部の山岳地帯。「チーム・ブルー」が上空に向け、強力な電磁波を射出する。航空機の操縦や武器発射装置などの電子系統を破壊する電子攪乱(かくらん)兵器だ。大量の地対空ミサイルでも狙いを定め、分厚い防空網を張り巡らす。
 その防空網をくぐり抜け、「チーム・レッド」の作戦機が山岳地帯のルートに超低空、高速で侵入。高密度の電磁波網を回避しながら、射爆場上空で戦車や戦闘機など実物標的に向けて最適な破壊力の兵器を瞬時に選択、巡航ミサイルなど複数の実弾を浴びせる。そして攻撃を終えると即、急旋回し現場を離脱していく-。
 参加部隊は訓練前に射撃区域に入って地形を偵察したり、予行を行うことが禁じられていたという。遠方から到着した直後に射爆場で急襲する部隊もあったというから、演習は「実戦」に徹したものだったようだ。
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 中国軍幹部はメディアに「関係部隊、参加機種、攻撃目標、飛行場が多く、規模と難度では新記録となる」と“特異な演習”であることを強調し、訓練地域や投入兵器、参加部隊名などは「某所」「某部隊」などと報道された。
 ただ、中国軍の動向を監視、分析している外国情報筋は、中国空軍がこの地域で初めて行った演習にH6戦略爆撃機を投入し、巡航ミサイルを発射した点や、作戦機が妨害電波を充満させた山岳地帯に超低空で高速侵入するなど「極めて難度の高い形式」だったことを把握している。
 H6には、核搭載可能な機体もある。昨年4月には相次ぐ弾道ミサイル発射で朝鮮半島の緊張が高まる中で、実弾を装填(そうてん)して高度警戒に投入されたと伝えられたが、当初から対北威嚇だったとの見方もあった。
 演習では、北朝鮮への侵入に最適の飛行場や経路、距離を綿密にシミュレーションしていた形跡があるという。こうしたことから情報筋は「演習は北朝鮮の核施設などへの一斉ピンポイント攻撃を想定している可能性が高い」と分析している。
 日程にも関心が集まる。
演習は金委員長の初訪中(3月25~28日)で中朝関係の好転局面を見せつけた直後に始まったからだ。演習終了後は、南北首脳会談(4月27日)を挟んで金委員長の2回目の訪中(5月7日)もあった。中朝関係の蜜月ぶりを世界に見せつける外交ショーの半面で対北牽制(けんせい)と受け取られる演習をした中国の真意はどこにあるのか。
 情報筋によれば今回の演習では、北朝鮮有事に介入する際、中国軍の軍事行動の最前線となる「北部戦区」が大幅に強化されていることも明らかになった。軍事演習が実施された中国東北部の訓練地域は判明していないが、この北部戦区の中にある。中国の対北政策が融和だけでなく、強力な軍事力を背景とした圧迫との二本軸であると分析されている。

米軍牽制の狙いも
 元航空自衛官で評論家の潮匡人氏の話「ゴールデンダーツには多数の航空部隊が遠方から参加、使用された弾薬量も多い。電子妨害や地対空脅威のなか、低空から侵入して敵の防空網を突破、対地攻撃する技量を競った。大規模かつ実戦的だ。対北攻撃を念頭においた可能性が高い。同時に、その能力を米軍に見せ、牽制したとも言える」
 H6戦略爆撃機 中国の海・空軍で運用されている戦略爆撃機旧ソ連製のTu16を元に1960年代から中国がライセンス生産。航続距離は6000キロで、20キロトン核爆弾1発を搭載可能とされる。改良が重ねられ、多くの派生型があるが、最新型は巡航ミサイル6発を装着できる。